友だちの友だちがやってきた
白神天稀
友だちの友だちがやってきた
「ようカズ、久しぶり」
山の中腹にある休憩所で、同い年ぐらいの男が声をかけてきた。
ベンチに腰掛けた俺の横で友人は首を傾げる。
「お前だれ?」
「ひでぇなカズ。ユウスケだよ! ユ・ウ・ス・ケ」
「……あ、ユウか」
「顔忘れんなよー!」
「知り合い?」
「ああ、幼馴染」
正直驚いた。ここまでタイプの違うユウスケという男が、まさか友人の幼馴染だとは。
俺と同じような控えめなやつだと勝手に思ってた。
「今日はお二人で山登り?」
「ああ、山頂まで」
「分かった。じゃあ俺もついてこーっと」
「いいぞ」
「えっ……」
思わず口に出してしまった。友人は申し訳なさそうに小声で謝る
「悪いな。こいつ言うと聞かないんだ」
「あ、別に良いよ」
とは言ったものの、人付き合いの苦手な俺は正直遠慮したかった。
「――でさー、ユキマサがジュースこぼしておばさんに怒られてたのな」
「たしかにあれは笑ったな」
「学校でも言われてたよな!」
気まずい。とことん気まずい。
友だちの友だちがいる状況で、どうするべきかを俺は知らない。
身内ネタで盛り上がられてこちらは割り込む余地もない。ただニコニコしたまま黙って数歩後ろを歩いているしかなかった。
こんなだから大学でも彼しか友人ができないのだとつい考え込んでしまう。
「なあなあ、カズって大学だとどんな感じなの?」
「えっ、あ、いや……」
突然声をかけられて言葉が詰まった。
「い、良い奴だよ。頭は良いし、俺なんかと一緒につるんでくれるし、さ」
「そうなのか! やっぱカズはそうだよなあ~」
「だ、だよね。はは……」
反応に困って苦笑いな俺の事なんて構うことなく、ユウスケはまた友人と話し出した。
地獄のような気分で山道を歩き、ようやく開けた山頂に出る。
いつもなら達成感と開放感で満たされるのに、こちらの気分は曇りのままだった。
「着いたか」
「あっという間だったなー!」
俺は長く感じたけどな、と心の中でつい嫌味が出てしまう。苛立ちさえ覚えていた。
「俺ずっとここ来たかったんだよなー」
「そういえば、んなこと言ってたっけな」
「大満足だわ」
ゲラゲラと笑う声にもいい加減腹が立ってきた。
「んじゃ、俺帰るわ」
「そうか……じゃ、またな」
「おう!」
景色をロクに楽しむ時間もなく、ユウスケだけ先に山を降りていった。
あまりの自由奔放さに、俺は開いた口が塞がらなかった。
こんなことも日常茶飯事なのか、友人は何事もなかったように遠くを眺めながら、山頂に腰掛けた。
「すまねぇな、お前と来たってのに」
「いや良いよ。幼馴染なんだろ」
「本当にな、人を散々振り回して世話の焼けるやつだったよ」
乾いた笑いで濁していると、友人はボソッと呟く。
「アイツ、ガキの頃に死んでるんだよな」
「……は?」
思考が止まった。
友人らしくない冗談だと思った。けど表情は微塵の変化もない。
「ユウのやつさ、小四の時に死んでんだよ」
「うそ、だろ? 何言って」
「俺の家遊びに来る途中、交通事故でな」
「え、じゃあ」
「……山登り、まだ行けてなかったんだよなぁ」
それ以上、踏み込んだことは聞けなかった。
気を遣わせたな、とだけ言って、友人はポケットのライターを取り出す。
風に吹かれる友人は寂しそうなくせに、どこか嬉しそうに目を細めていた。
「あいつ、成長したらあんな感じになったのか」
友人の咥えたマイルドセブンの先から、線香代わりの煙が晴天に立ち昇っていた。
友だちの友だちがやってきた 白神天稀 @Amaki666
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