終章

第45話

「──うごっ?!」


 目覚めるとそこは……どこ?


 なにか眩しいものがあたしを攻撃しててまったくわからなかった。


「おっ。やっと目覚めたか」


 そんな眩しい世界でお父さまの声がした。


「おはぁ?」


 なぜお父さまがここに? あたし……あれ? なにしてたんだったっけ?


「う~む。使う薬には間違いないんじゃが、量が問題なのかのぉ~?」


 くすり?


 クスリ?


 薬だとぉっ!!


 錯乱する頭が一瞬で激怒色に染められた。


 そっ、そっ、それは、障害が出るかもしれない薬のこかっ!!


「うごぉおおおおッ!」


「うむ。丈夫に育ってくれてわしは嬉しいぞ」


 これを見ろッ!


 あたしを見ろぉッ!


 頼むから激怒するあたしに気がつけってんだ、腐れ外道がっっ!


 復活一番、速攻で消息を絶ったのに、僅か二ヶ月で拉致かよっ! "新生"六騎団も『紅竜騎こうりゅうき』もまったく無駄じゃねーか! 一億タム(『三大悪』の支部を四つ襲いました)も費やしたんだぞぉぉっ!


「かっかっかっ。そう落ち込むな。今、優しい父が喜ばしてやる」


 もはや抵抗する意識のないあたしは、ゴミ屑(前回以上に拘束されてます)のようにどこかへと運ばれて行った。


 涙の川を作ること数メローグ。数ヵ月前に見たような暗闇に支配された大空間に連れてこられた。


 パチン!


 合図とともに数十もの灯光器が灯り、視界からはみ出す程の大きな布が現れた。なにやら紋章、のようなものが描かれた布がね……。


 金色の六角星に真っ白な丸みのある翼が生えており、右翼には剣を。左翼には盾を構えている。


 ……乙女的というか童画的というか、なんとも愛らしい紋章ね……。


「良いであろう。お前の……いや、天女たちの紋章──『ラの紋章』だ!」


 ぴしっ!


 無情な一言にあたしのなにかが凍てついた。


「フフ。まだ驚くのは早いぞ。ほれっ!」


 布が捲られ、白と青を基調にした飛空船が──って、おいッ! 悪夢に飲み込まれたラ・シィルフィー号がなんでそこにある! しかも船腹になに描いてやがんだよっ!!


「ふがほがはがぁ~っ!」


「なかなかの色彩じゃろう? 試作船は時間がなくて塗装できなかったが、完成したラ・シィルフィー号は、外装から内装まで爽やか仕上げ。まさに女神エルラーザといっても良い。『メサイアル』ごときの量産船には出せん繊細さじゃな」


「…………」


 ごめん。腐れ外道の鬼畜的暴言を理解するのに時間をください。


 ……えーと。つまりだ。あたしったら不完全な試作船でありとあらゆる記録を取り、ついでに『メサイアル』の量産船やゴルファにどれだけ敵うかを実験したということかい、身も心も擦り減らしてまで……。


「あ、三使徒は廃止して第一格納庫をドゥ・シャトゥーに。第二は紅竜騎にのしたぞ。小回りの良いエルリオンは残しておいたから安心せい」


「…………」


 ごめん。腐れ外道の鬼畜的暴言を理解するのに時間をください。


 ……えーと。つまりだ。あたしったら不完全な試作船でありとあらゆる記録を取り、ついでに『メサイアル』の量産船やゴルファにどれだけ敵うかを実験したということかい、身も心も擦り減らしてまで……。


「あ、三使徒は廃止して第一格納庫をドゥ・シャトゥーに。第二は紅竜騎にのしたぞ。小回りの良いエルリオンは残しておいたから安心せい」


「…………」


 もう怒りより自分を保つので精一杯だよ……。


「うんうん。泣く程嬉しいか。妥協せず徹夜してきた甲斐があるというものだ」


 そーかいそーかい。あたしも生き残れた甲斐があるってもんだよ、こん畜生が……。


「おっと。忘れておった。もう一つ贈り物があったのだ」


 なにやら懐を探ると、拳大の水晶球を取り出した。


 滲む視界に……って、おい! それ、あたしの夢水晶(原画)じゃないのよ! なんで夢屋(幻想記の複写から販売まで一手に行うお店よ)に出したものがその手にあるっ!?


「うごぉおおおお──うげっ!」


 ミノムシにされているのも忘れて飛びかかったが、父親とは思えない1撃で沈黙させられてしまった。


「まったく、堪え性のない子だ。せっかく劇的に見せてやろうとしたのに」


 闇に落ちて行きそうな意識を必死に堪え、あたしの宝物を取り返すべく抵抗する。


「まあ、焦らす酷というものか。ほれ、焼きつく程見るが良い」


 ボン!


 突きつけられた夢水晶に刻まれた恥ずかしい紋章にあたしのなにかが爆発した。


「どうだ、夢見る少年少女にウケる紋章じゃろう。それを考えるのに苦労したものだ」


 テ、テ、テメーッ! 苦労して徹夜して、やっと創り上げた幻想記を侮辱するにも程があるぞ! しかも、船と同じ紋章にしゃがって、ドロシーまで危険に晒されるじゃねーかよっ!


「ふごおおおおおおおっ!」


「かっかっかっ。良い歳してはしゃぐんじゃない。ちゃんと"1万個"全てに刻んでおいたぞ」


「ふごーっ! うごーっ! おごおぉぉぉっ!」


 イヤァーッ!


 道具にでも商品にでもなるからドロシーを汚さないでぇぇぇっ! それだけは止めてぇぇぇぇぇっ!!


「ガハハ! そんなに喜ばれると照れるではないか──」


 尽き果てた涙を絞り出して訴えるも我が父上さまには届いはくれなかった。


「──おっと。すまんすまん。いつまでもお前を独占していたら天女たちに申し訳ないな。では、出発と行くか」


 暴れるあたしを魔力で浮かび上がらせ、開け放たれた非常用船橋扉から投げ入れた。


 好機とばかりに右脚に仕込んだ甲殻の刃──。


 ──ゴシっ!


 鈍い音とともに目の奥で光が乱舞した。


「まったく、親が与えた体を粗末にしおって、父は悲しいぞ」


 床てわのた打ち回るあたしを他所にラ・シィルフィー号を始動してしまう。


「自動操縦に移行。目的地はシャルド湾上空に設定。では、ロリーナ。よき冒険を」


 非常扉が閉まる音が響き、ラ・シィルフィー号が急速発進。眩しい光が船橋内に飛び込んできた。


 第一、第二魔力炉の稼働率が最大まで上昇。生み出される魔力が魔進機へと送られて行く。


 数秒後、ラ・シィルフィー号は『悪魔の壁』に突入した。


 なにかとっても硬いものに激突し、とっても熱いものを垂れ流すあたしを『神々の世界』へと導くのであった。

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聖なる空の天女たち タカハシあん @antakahasi

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