第44話

 光の剣を一閃。炎の翼を斬り裂いた。


 左へと急速旋回する炎の鳥を追い、光の翼を羽ばたかせる。


 再度、炎の鳥の背後に食らいつく瞬間、炎の翼が羽ばたき制動をかけられ追い越してしまった。


 炎の槍を連続で突いてくる。


 翼を折り畳み反転して回避する。


 だが、ただ回避するだけではなく閃光弾をばら蒔き光の翼を隠した。


 すぐに旋回して炎の鳥と向き合う。


「烈光剣!」


 船首から光の剣を抜き放つ。


 と、閃く世界が一瞬にして消滅。炎の槍を構えた炎の鳥──いや、もはや『炎神』が現れた。


 フフ。聖戦の終幕に相応しいことしてくれちゃって。


 残り少ない魔力を高め、破裂しそうな意識を集中させる。


「では、決めますかッ!」


 光と炎が同時に瞬き、同時に翔け、同時に激突した。


 外といわず中といわず空間が歪む程の波動を生み出した。


 なにかが粉砕する音を体に感じながらも荒れ狂う光の翼を制御し、同じように荒れ狂う炎神を睨みつける。


 同時に姿勢を戻し、同時に翔る。


 もはやこれが最後。次なる1撃はない。


「行くぞ、アレフっ!」


 激突する光の剣。


 激突する炎の槍。


 その殺人的波動が空間と意識を激しく揺るがし、双方の切っ先を滅する。


 だが、どちらも退かない。それぞれの思う意志で突き通した。


 切っ先が、船首が、滅する。


 それでも双方は止まらない。魔進機を最大に噴射させる。


 と、突然、光と炎が消失。なけなしの意識がなにかへと吸い込まれて行く。


「……──ッア!」


 無理やり魔眼航法を解除させる。


 今にでも破裂してもおかしくない脳みそが現在の状況(魔力炉が暴走する一歩前の集束現象)を理解し、打開策(とっとと逃げろ)を導き出した。


 直ぐ様、二体の精霊獣を召喚。ゴルディラに固定具を切断させ、動かない体をリィズを纏わせ船長席から飛び出した。アレフがいるラ・シィルフィー号へと。


 縺れ合うように落下して行く中、中央通路を突き進むと、こちらとは造りが違う食堂にアレフがいた。


「アレフっ!」


 船長席で項垂れる頭を持ち上げた。


「……まだ、生きてるよ……」


 灼き殲くした体とは思えない程はっきりした声を発した。


 肉体に食い込む固定具をゴルディラで切断。懐から強心剤入りの注射器を取り出し、防護服を焼き斬って打ち込んだ。


「なにしてる。お前まで灼かれるぞ」


「我は光、天を遍く暁の星なり。悪夢ごときな灼かれてたまるもんですか」


「……ほんと、どこまでも輝いてくれる星だよ……」


 肉の塊に近いアレフを抱き抱え、船長席に座り込む。


 懐から時限式の消滅弾と炸裂弾を取り出し、それぞれを左右に放り投げた。


 続いて法衣と両腕に仕込んだ甲殻繊維であたしたちを包み込んだ。


「────」


 まず消滅弾が弾け装甲板を消滅させ、炸裂弾があたしたちを弾き飛ばした。


 気休めとはいえ、少しでも爆心から遠退けば生還率が高まる。やらないよりやれだ。


「おれを助けたところで得にはならんだろうに」


「生きていれば得になります。いや、あたしが得にしてやるわ! 『メサイアル』に勝つための駒としてね」


「こんな燃えかすがか?」


「脳が生きてる限り駒になります。もし、『空に死す』とか『満足した』とか望みなら放り出してあげますけど?」


 あたしの悪戯っぽい声に、無理やり微笑むアレフ。


「……もし、生き残れたら、あいつらを頼めるか……」


「何人です?」


「七人だ」


 なんでも屋にいた人たちね。


「それなら空賊からいただいた飛空船を与えておきましょう。堅実な副長さんなら冒険商人でも選ぶでしょう」


 ならないならならないで構わないしね。決めるのは副長さんたちだし。


 と、包む甲殻球陣に大きな衝撃が生まれた。どうやら海面についたみたいね。


「さあ、悪夢の開幕ですよ!」


 一千度にも耐えた甲殻繊維にリィズ自慢の氷結陣を合体させた『氷華球陣』。そしてゴルディラの耐熱性。太陽と化す超魔力に何秒耐えられるかしら。我がことながら興味深いわ。


「……この状況で良く笑えるな……」


「世間では物好きという説が有力です」


「フフ。おれもその説に賛成だな……」


 微振動が氷華球陣から船長席へと伝わり、悪夢が始まったことを告げてきた。


「……良いか、ロリーナ。ちょっとやそっとの羽ばたきで折れる貧弱な翼なんかつけたら容赦しねーからな!」


 風前の灯火でありながら厳しい注文をしてくるとは、さすが紅き星だよ。


「あたしに任せなさい。紅き星に相応しい翼を与えてあげるから。だから、今は休みなさい。目覚めるそのときまで……」


 視力を失った瞳を休ませるように瞼を閉じ、お休みの口づけをしてあげた。


「さあ、ドロシー。あなたの大好きな山場よ。あますことなくご観賞あれ!」


 残り少ない魔力を氷華球陣に注ぎ込む。


 あたしは死なない。最後まで諦めない。生きて生きて生き抜いて、『ロリーナ物語』を完成させるんだ、悪夢なんかに負けてられるか!


 そして、氷華球陣越しに光が視界を塞ぎ、悪夢が襲いかかってきた──。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る