第22話 最終話



 父清がギャンブル依存症と言われているが、それは逆だった。


 清が、亜美に溺れた事で泉がギャンブルにハマって行った。そのショックも冷めやらぬ中、更には追い打ちをかけるように愛人亜美との間に子供まで授かっていたとは許せない。


 そんなこんなで精神的に追い詰められて行った泉。これでは亜美に全く勝ち目がない。若さで負け、美しさで負け、さらに子供まで出来てしまった。こうして益々ギャンブルにのめり込んでしまった泉だった。


 ギャンブル依存症の原因として考えられるのが、うつ病、不安障害、注意欠陥多動性障害など他の精神疾患を合併していることが考えられるが、泉は清が亜美に溺れて自分はいつか捨てられると思うと夜も眠れなくなって行った。


 そして……うつ病、不安障害が出始めた。


 そこで……泉の姉がたまたま父親に似てギャンブル好きだったので、ある日夫の浮気で落ち込んでいる泉に言った。


「なーに塞ぎ込んでるのよ?一緒にパチンコでもやって気分転換しましょう」


 こうして近所のパチンコ屋に行った。そこで偶然にも大当たりをしてしまいパチンコにのめり込んで行った。


 だから……父清がギャンブル依存症なのではなく泉がギャンブル依存症だった。


 こんな妻なので夫清はつくづく泉に嫌気がさしていた。更にはチョット出かけようとするとわめき出す始末。


「あの女の所に行くのね。行かないで!」と言ってギャアギャア暴れる。


 こうしてあの夜を迎えた。

 だから……直美という架空の人物亜美が、ベランダから泉を階下に落としたのではなく、清が指紋が残らないように手袋をして泉を階下に落とした。丁度時間も9時過ぎで亜美が子供たちを寝かせ付けてくれていた。


 ★☆

 それでは……何故亜美の見ている前で、階下に落としたのか?

 

 実は……亜美と普通の生活に戻りたかった清は、話がこじれて暴れ出し半狂乱になって、離婚を拒否する泉が憎くなりカ――ッ!となって咄嗟に落としてしまった。

 

「こんな女といたら……こんな女といたら……俺は……破滅だ。死ね!」


 お金は散在するわ、嫉妬深いわで妻に限界を感じていた清が、我慢が出来ずに階下に落とした。子供達は眠っていると思いきや凛だけは眠っていなかった。

 

 その時、凛は胸騒ぎを感じて目を開けた。丁度母泉がベランダから突き落とされているのがハッキリと見えた。子供過ぎてその当時は理解できなかったが、年を追うごとに父清に対しての不信感が募り、父清を愛している以上に父清に対して恐怖と憎しみめいたものが、どんどん膨れ上がり父清との生活を拒んだ。


 一方の亜美も清とは、あれだけ強い絆で結ばれていた筈なのに、清のあのような残酷な行動に一緒に入られないと思い清から逃げた。そして夫稔を選んだ。


 ★☆

 それでも……清にはさくらが残った。さくらは何が起ころうと清に付いて行くつもりだ。


 直美という存在しない人物をでっち上げて、それがまかり通るとは到底思えないのだが?

 

 それから…さくらはこの進学校に不釣り合いな女の子で、見た目はチョットヤンキーっぽい娘だった。だから……グループの皆と別行動でヤンキーぽい子とつるむ事もある女の子だったので、直美というガラの悪い友達がいても不思議はない。


 このような事から直美は現存する人物と捉えられていた。

 

 


 そう言えば…このような事が過去に起こっていた。

 さくらが車で家に送ってもらった時や、学校の門の裏に隠れていた事があったが、誰かに見られて直美ではなくさくらだと見破られなかったのか?


 それから…妻泉があのような亡くなり方をした事で夫清の行動を警察が、防犯カメラなどでチェックしているので直ぐにバレてしまうだろう。

 

 だが、警察でもその時の状況を防犯カメラで調べたが、怪しいところは見付からなかった。


 それはそうだ。さくら自身もやっと奥さんが亡くなってくれて、亜美も清から去ってやっとさくらだけの清になってほっとしている。こんな幸せな時に清が警察に捕まったら大変。バレないように常に気を配って髪型をさくらとは違う髪型にしたりと工夫をした。用心して常に下を向いてキャップを被り顔を見えなくしていた。それから……防犯カメラがどこにでもある訳ではない。気を配っていたのもあるが、運よく防犯カメラに映らなかったのかも知れない。



 ★☆

 それでは……凛を殺害した相手は誰だったのか?

 そして……桐谷は生きているのか?


 先ずは凛殺害犯を追って行こう。

 翔と優には殺害する動機はある。

 翔は凛に夢中だが冷たくされ続けて凛に不満がある。一方の優だが凛に窃盗現場を押さえられ、更には妹茜の彼氏桐谷と怪しい関係になり、妹茜から桐谷を奪うかも知れない存在の凛を快く思っていない。


 一方の大樹は翔が母に告げ口した事によって凛との交際を反対されていた。


「大樹あなた……凛ちゃんと交際しているの?それは絶対にダメ!凛はあなたと血の繋がった兄妹なのよ。だから絶対にダメ」


「大樹……パパもそれは絶対にダメな事だと思うよ。ママは心配で夜もろくに眠っていないんだ。俺にとってたった1人の息子を不幸にしたくないからな。だから兄妹同士の恋愛は絶対にダメ!」


 あれだけ嫉妬深い夫稔だが、妻亜美が窮地に立たされれば、いの一番に妻を助ける愛妻家でもあった。

 

 こうして大樹は早速凛と話し合った。

「凛俺とお前は異母兄妹なんだ。だから……もうこんな付き合いは出来ない」


「イヤよ!そんなこと言ったって理屈じゃないのよ。人を好きになるって……」

 凛はショックでショックで立ち直れそうにない。


(こんな時は竹馬の友達也を呼び出して話を聞いて貰おう)

 

 すると……達也はすぐに飛んで来た。夕方の4時過ぎだったが、凛は部屋に通した。

「達也上がって」

「一体どうしたんだよ?」

「わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭ウウウッ……実はね……実はね……大樹と私付き合っていたでしょう。絶対に誰にも言わないでね。実は私と大樹は異母兄妹だったのよ。だから……大樹からもう付き合えないって言われたの……ううシクシク(´;ω;`)ウッ…わあ~~」


「ねえ!チョット気分転換にサイクリングに出掛けようよ。そんな湿っぽい話はよして……晴れた空の下浅川の土手をサイクリングに行こう。気分も晴れるさ!」


「うん!いいね」


 こうして浅川沿いの土手をサイクリングした後、自転車を止めて河原に入って行った。

「暑い夏は河原が最高さ。気持ちいね!」

「本当!本当!」

「やっぱりさ凛は……僕の者さ!俺はずっと凛だけ見つめて来た。凸凹でもいいじゃないか、いずれ……僕のお嫁さんになって山口モータース一緒にやって行こうよ!」


「達也冗談も休み休みにしてよね!私は達也の事、友達としては好きだけど……男と見た事なんか一度もないのよ。だからそんなことはあり得ない!」


「俺は……俺は……幼い頃から凛だけを見つめて生きてきた。俺だけの……俺だけの……凛で居てくれお願いだ」


「バカ言わないで!あなたと大樹だったら大違い。死んでもいやよ!」


「凛俺凛の奴隷でも何でもいい。只凛さえ側にいてくれたら……それでいい!」

 そう言うと凛に抱き着いた。

「よしてよ……よしてってばー」


「俺凛無しじゃ生きていけない。俺……凛がこれ以上他の男と付き合うのを只々見ている事なんて出来ない。凛を絶対に誰にも渡したくない。一緒に死のう!」


「たた助けて―――――――――――ッ!」

 こうして凛の首を絞めて殺した。


 達也はいつ頃から凛に殺意を抱いたのだろうか?


 達也は許せなかった。凛には付き合っている大樹がいたが、それでも尚、桐谷が凛に近づいている事も知っていた。更には大親友翔までが凛を狙っている。いつも凛が誰かの者になってしまうのではと冷や冷やしていた。


 それだけならいいが、残酷で無理難題な事をへっちゃらで、何のためらいもなく押し付ける冷淡な凛に憎しみが徐々に沸いて行った。

 

 大樹と真剣交際している事を知って、正常な精神状態ではいられなくなったのだが、何と……やっと別れてくれたので喜んだのも束の間、達也の全く入り込む余地のない罵倒とも取れる言葉の数々に未来をはかなんで、あの世で1つになろうと考えた。


「凛はいつだって僕と一緒だったじゃないか?それなのに……何で……何で……僕だけで我慢が出来ないんだよ。俺だけを見てくれ!」

 

 こうして殺害に至った。

 殺害されたのが8月29日の夜8時頃だった。そして……達也がおばあちゃんの家に行ったのは次の日の8月30日の朝だった。


 確かに医師からは、死亡推定時刻は「8月30日から9月1日」との見解だったが、前日29日深夜の大雨で死亡推定時刻に多少のずれがあった事は否めない。


 それでも……何故桐谷と凛が急接近しているのを知ったのか?それは優と翔が大親友だから達也に筒抜けだった。


「俺は凛と一緒だったら死ぬのも怖くない」


 そういうと達也はナイフを出し自分の手首を切ろうとした。そこに桐谷が現れた。

「ダメじゃないか!」


「あっ!凛ちゃんウウウッ……( ノД`)…わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭」

 桐谷はショックを隠し切れない。

 ★☆

 

 凛とコンビニが一緒の桐谷は茜の兄優と義兄弟の関係だ。ある日桐谷は凛から優の窃盗事件の事を聞かされて、母に打ち明けようか考えている。そんな時に凛に思いを寄せていた桐谷は、凛と2人だけの時間を演出して貰おうと考えた。家に着くなり優に話した。


「優お前窃盗事件度々起こしているらしいな。母に言って欲しくなければ、俺と凛の間を取り持ってくれ。そうすれば黙っておいてやる」

 

「俺の双子の茜と付き合ってんじゃなかったっけ?」


「わりぃっ!俺さやっぱし凛の方がタイプだわ」

 優は双子の茜が傷ついている事をよく知っていた。


「はっ!よく言えたもんだわ。茜を捨てるってのかい?」

 

 ★☆

 ある日の事だ。桐谷に凛から救いの電話が入った。それは余りにも達也の思いの丈の強さと執念深さにどうにも出来ないと感じた凛は、助けを求めるしかないと思った。


「近所の河原で達也が私を……私を……強引に……自分の者にしようとして……助けて欲しい。」

 携帯の留守電に入っていた。こうして現場に到着した桐谷だった。


 すると……既に凛は死んでいた。

 だが、達也が手首にナイフを向けている。

「よさないか!」


「俺の思いを徹底的に拒否されて……思わず首を絞めてしまった。ぅううっ( ノД`)シクシク…わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭」



 ★☆

 あの時凛は桐谷がアパートが近くなので、先ず桐谷の携帯に電話した。だが繋がらなかったので、留守電で「浅川の河原にいるから来て欲しい」と入れて置いた。


 桐谷がいつ来てくれるか保証がなかったので、翔と優にも携帯に電話をした。このような経緯から桐谷がまず先に到着して達也を助けた。


 そこに凛が助けを呼んだ翔と優もやって来た。

 優は桐谷に言われていた言葉を思い出した。


(『凛を取り持ってもらったら最近頻発している窃盗犯の犯人優の事は、母に内緒にしてやる!』と言っていたが、何という事だ!凛は死んでしまったと、いう事はいつ窃盗事件の事を継母にバラされても不思議ではない。更にはこの桐谷は、可愛い双子の茜を弄んで、あっさり捨てて美人の凛に切り替えるつもりだった。許せない!その挙句に俺が義理の息子という事で立場が弱いのを良い事に、俺を悪者にして悪口を継母に言い含めている。普通は虐められていたら助けるのが筋だろう。それを……一緒になって虐めやがって……)


 こうして……継母に窃盗事件の事をバラされるのも時間の問題と思い、桐谷を殺害する事を決意した。一方の翔は恋敵大樹が凛と別れてくれて、今度こそ凛は俺のものと思っていた矢先にまたしても宿敵桐谷が現れた。


 殺害を切望しているのは憎き義理兄桐谷に恨みのある優だが、翔だって桐谷の存在は鬱陶しい。こうして桐谷殺害に至った。


 凛が亡くなって数日後、人通りの少ない河原におびき寄せて優が主導でガレキで気絶させて縛り付け、達也の家は「山口モータース」自動車は沢山ある。また田畑山林もある。18歳になっていた達也が運転する車で山林に向かった。こうして達也の家の山林に桐谷を埋めた。

 

 この様に、達也は良い意味でも悪い意味でも人の為に奔走できる男だった。仲間の達也は自分は桐谷とは何の関係もないが、仲間が困っていたら惜しみない協力をする、そんな男だった。優しいが、言い換えれば気の小さい要はパシリ!


 出しゃばる訳でもなく控えめで、皆の為に頑張ってくれる優しい男だ。犯罪者にして警察に送り込んだら長い年月会えなくなる。凛を殺害した達也の指紋をふき取り達也の犯行を隠した。こうして憎き桐谷の犯行を手伝ってもらった。


「達也死体の始末頼めないか?」


「うううん……無理だよ!」


「お前の凛殺害黙ってやるから……」


「分かったよ。俺んち山林があるから」


「オウ!そこに埋めようじゃないか!」

 こうして山林に向かった3人。


 大樹とて達也が良い奴だという事は痛いほど分かっていたが、いくら達也が良い奴だからと言っても愛する彼女であり、兄妹である凛を殺害された恨みは相当だ。それでも……何と言っても桐谷殺害犯は大親友翔と優だ。


 優の気持ちは痛いほどわかる。桐谷とは義兄弟で酷い目に遭っていた。更には妹茜をオモチャにして捨て、俺の彼女で兄妹凛を奪おうとした悪い奴。凛を殺した達也は許せないが、皆と同じように性格の良い達也を許せざるを得なくなった。


 大樹は大親友たちを犯罪者にしたくない。こうして前代未聞のやる気のない警察の捜査が始まった。


「凛ちゃんの死と桐谷正幸の犯人を深く追及して欲しくありません。僕の友達が犯行に関わっている。ママ助けて!お願い!」

 こうして愛する妻から懇願されて捜査の手を緩めざるを得なくなった稔。


 優の義兄桐谷正幸を凛の後追い自殺に見せかけ殺そうという事になった。こうしてあの時の偽装工作が行われた。


 翌日の9月3日に、高台の寂れた廃屋の屋上から転落したと思われる偽装工作らしい形跡が見つかった。桐谷正幸が所持していたとみられる財布やサンダル、タバコなどが発見されたのだが、崖下からは遺体や、死亡した事を示すような遺留物などは発見されなかった。


 偽装工作のため3人翔と優と達也で、桐谷正幸の携帯から水島凛遺体発見翌日の9月2日に、恋人や友人、家族に、自殺を示唆する電話やメールを送信していた。


「俺はとんでもない事をしてしまった。もう死ぬしかない」 


 こうして……桐谷は人里離れた山に埋められた。


 


 田口は警察の怠慢に怒り心頭だ。今年の9月1日の午後4時30分の時効まで絶対に星をこの手で暴き出してやろうと、今日も奔走している。


 ✿🌸✿

 ダリアの花言葉「優雅」「気品」「華麗」「威厳」。 ダリアの印象にぴったりな花言葉! 一方で、「気まぐれ」「不安定」「裏切り」「移り気」といった花言葉も持ち合わせている。


 ダリアが咲く頃に亡くなった凛。

 とげとげしくも高貴なダリアの華のような凛が逝って早20年。


 赤のダリアの花言葉は「華麗」「栄華」


 凛を形容するならば、もっと毒々しいまでの黒蝶色のダリアを思い出す。黒蝶の花言葉は「「華麗」「威厳」この華を見る時、残酷で我がままで冷淡な凛の生まれ変わりに思えて仕方ない。


 黒蝶はワインレッドとも呼べるが、もっと深みの増したゴージャスな華を連想する。


 ふと黒蝶ダリアの花びらの集合体を見ていると、複数の花びらがその血塗られた毒々しいまでの手を伸ばして、悪魔の世界に引きずり込もうとしているのではと思ってしまう。そんなぞっとするほど奇怪で美しい華。


 凛そのものの凍りつく程に残酷でとげとげしい美しい黒蝶ダリア。今年も美しいダリアが、凛の無念の数だけ無数に咲き誇るであろう。



 おわり






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ダリアみたいな君 あのね! @tsukc55384

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