召喚されたオタクは魔法を極める

不安定な山田さん

第1話 オタクは召喚された

田中たなか 篤志あつし

なんの取り柄もない普通の高校生。

趣味はゲーム、漫画、ラノベ…ジャンルは異世界系が多い。

いわゆるオタクって奴だろうか。

そんなキャラ設定のような自己紹介を頭に浮かべながら、明日の入学式の準備をする。

友達できるかなあ、とか考えるが、今までの人生経験上、それは最難関クエストに近い。

小学校、中学校、友達も出来ず、いじめにあったりしてきた俺だ。

きっと高校生活も、そんな感じで終わるだろう。

いっそ異世界に逃げてしまいたい…


「起きろ、人間よ」

「…っ!?」

目が覚めると、そこには…

「うおっ!?何ここ!!魔王城!!?」

おっと、考えるより先に口が出てしまった。

まず、周りを見てみよう。

俺はゲームでも、先にマップを確認してから進む、結構真面目な性格だ。

見渡してみると、黒い壁に黒い床。真っ直ぐ敷かれた赤い絨毯は、階段を上り…大きな椅子の下まで敷かれてあった。

きっと、その椅子に座っている角が生えた黒髪の男が魔王だ。

「俺強いです」オーラをプンプン出している。

「ここが何処だか解っているのなら、話は早─」

〈火属性魔法〉『フレイム・アロー』

俺の周りに無数の魔法陣が出現し、そこから火の矢が放たれた。

放たれた矢は、魔王の顔めがけて飛んでいく。

─が。

「…ふむ、使い方を教えずとも魔法を使えるとは。人間も捨てたものではないな」

魔王は手で全て払い除けてしまった。

だが、そんなことはどうでもいい。

「うっおおお!!何今の!魔法だよね!?俺すっげー!!」

喜びのあまり飛び跳ねてしまう。

嗚呼…昔、ゲームや漫画の真似をして魔法の練習をしていた甲斐があった…決して無駄じゃなかったんだな…

「騒がしい…」

魔王はゴミでも見るようにして俺を見下していた。

いや、でも、この異世界に召喚してくれた魔王だ。敬意を払って、魔王さんと呼ぼう。

「はあ、今回の召喚は失敗だな。こんな騒々しい奴、我の手下にはいらない」

魔王さんがそう言うと、俺の下に大きな魔法陣が出現した。

「うおっ!?え、まさかの俺、地球に強制送還?」

「馬鹿が。あちらの世界とこちらの世界を繋ぐのに、どれだけの魔力が要ると思っているんだ」

「…じゃあ、俺を殺す訳?」

「いや、手下としてはいらんが、お前は面白い。ハジマリーノ町へ送る」

うわ、出た。RPGかよ。

「くく、好きにやればいい。勿論、我を殺しに来てもいい。まあ、この魔王様に勝てる筈がないがな」

「随分とお喋りな魔王さんだな…」

俺は、目に重くかかった髪をかきあげた。

「ただ勝つだけじゃ生ぬるい。俺は、やるからには完全勝利ノーダメクリアするよ、魔王さん」

魔王さんはニヤリと笑う。

その瞬間、目の前が真っ白になり、気がついた時には賑やかな─そう、「ハジマリーノ町」に来ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

召喚されたオタクは魔法を極める 不安定な山田さん @yamada_agemo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ