第42話 今後の計画
翌日の夜、キュアノエイデスに到着し、ナーガ達と合流した。シマオウを連れて離宮まで行ったが、快く預かって貰えた。
ラズと共にクレインは食事会に参加しているため、お師匠さんとナーガのいる部屋に案内され、話をしつつ、食事にありついた。
話を聞いていると、お師匠さんがだいぶ疲れているように見える。無理をして、クレインについてきたようだ。明日以降の面倒事は俺が対応する約束をすると「すまないね」と言いながら、少しほっとした顔をしていた。
お師匠さんであっても、いきなり新素材を作り出してしまったことは中々に対処が難しかったようだ。
作り出した素材についてまとめた書類を渡され、内容を確認する。ついでに、ナーガからも老水竜から得たという素材について説明を受け、頭を抱えたくなる。
ラズには言うが、老水竜を移動させられず町からも近く、面倒事が確定だ。そちらについては、責任もってナーガやレウスに毎月様子を見に行かせ、ラズに報告させるか。
しばらくすると疲れた顔でクレインが戻ってきた。
クレインは珍しいドレス姿で驚いたが、可愛く美しかった。出来ることならラズではなく俺がエスコートをしたいところだったが、間に合わなかったので仕方ない。
次の機会があればと思ったが、本人は「もうドレスは嫌」だと拒否している。
クレイン本人はドレスが動きにくいのもだが、気疲れしている。ラズも苦笑していることから、色々とやらかしもしてきたようだ。着替える必要もあるだろうし、長居はしない方がいいと判断して、カイアの元へと向かった。
「随分と派手に動いたようだな」
「予定外に波乱万丈ではあったな」
カイアの部屋に通されて、ソファーに座る。ふかふかで座り心地がいい。
ラズのところよりも数段上だな。お師匠さんのためにも購入して、作業場にあるソファーと入れ替えるのもありかもしれないな。
俺の前にはワインが運ばれてきたが、拒否してお茶をもらう。運んできた男には見覚えがあった。
「酒は飲まぬのか?」
「君もまだ体調が悪くて飲めないだろう。一人で飲む気にはならないな」
「そうか。……帝国での報告は?」
「これだな。だが、すでに知っているんじゃないのか?」
俺の問いにカイアが頷く。
俺の報告書は一応ラズに書いたのだが、カイアに直接渡ったのだろうか。俺の報告書を持っていた。
「全てではないが、このダミュロン・アーデルの方からも話を聞いておる」
「結局、君の部下にするのか?」
「いや、ラズから相談を受けて、ラズにつける前に教育を俺がすることになっておる」
「そうかい」
「就職先のご紹介をいただきありがとうございました」
優雅に頭を下げたのは、帝国の子爵だった男。先日、働き先を紹介したが、今はカイアの従者として、王国のやり方などを学んでいるという。
子爵からラズのとこの文官となるのだから、随分とランクダウンだが、本人は働き甲斐がある職場と言い、笑っている。一緒に連れていた騎士も文官をさせるとういう。
「グラノス。父上が頼んだこと、助かった。手間をかけさせたが、十分な成果だ」
「本来の成果物は必要なくなったがな」
クレインが短期間に新素材を開発したため、俺が採ってきた素材はいらなくなった。
それでも、入手した分をカイアに渡しておく。
「新素材は問題がないことが確認されている。まあ、緊急であるため研究はしっかりなされていないが」
「問題はないだろうな。クレインとクロウが見落とすことはないだろう」
「信頼しているのだな」
「まあな……それで、問題は起きているのか?」
「蜂蜜の在庫管理だろうな。王国ではなかなか大量な確保は難しいのでな」
ダンジョンで大量入手が出来るところもあるが、王国内にはないからな。
ナーガがクレインに頼まれて蜂蜜を採りに行くと聞いた。自分たちで入手するつもりのようだが……すでに確保が面倒なのか。
「ふむ……カイア。何も聞かずに、これを王弟殿下からの支給ってことで、クレインに渡してくれ」
大量の蜂蜜をカイアに手渡す。
偶然だが、ダンジョンでダーククイーンビーと戯れて素材集めをした結果、それなりの量の蜂蜜を入手している。
「報告はせぬから、どうしてこの量を持っているか、教えてくれぬか?」
「安らぎの花蜜を入手するためにはハニービ―達を狩り続けるしかないからな。数を倒していれば、これくらいは手に入る。ただ、ナーガがクレインのために採りに行くというのに水を差したくはない……ある程度の数は必要なんだろう? 俺のことをふせて、渡してくれ」
「うむ。こちらとしては助かるのでな。……だが、俺の方に納めた安らぎの花蜜は随分と少ないようだな」
「バレたか。まあ、聞くなといっただろう? こいつはお礼ってことで受け取ってくれ」
安らぎの花蜜と他の素材で作った薬をいくつかカイアに渡す。俺が作った物だが、滋養強壮に良いので適当に使ってもらえばいい。一部はお師匠さんにも渡している。
「作れるのか」
「このことはもうしばらく隠したいところだ」
カイアが薬をダミュロンに渡し、下がるように指示をした。
二人きりになったことを確認してから、俺に責めるような目を向けてきた。
「隠し事ばかりだな。信頼できんか?」
「……立場が違うからな。身内を守るためには、多少の隠し事は許してくれ」
「スタンピードは実力だろうが……町を救うだけの食料はどこからだ?」
「ん? 魚だぞ?」
「腐らぬのか?」
「腐りやすい内臓を取って、水分を取るために乾かしたからな……こっちではあまり食べないんだったな。水竜もだが、その前の魚を大量に狩ったからな」
簡単な処理の方法を記載した紙と干した魚をいくつか渡す。
こちらの世界では、魚が圧倒的に少ない。島国に比べて、海が近いわけではないので仕方ないとも思うが……海側に出るまで時間がかかるから仕方ない。
「焼いて食べることを薦めるが、煮る場合にはすでに塩味が付いているから味付けには気を付けるように伝えてくれ」
「よくそんな時間があるものだ」
「……それがなぁ。どうも、過重労働ぎみなんだよな、クレインもクロウも。そのせいか、他の連中も倒した魔物の解体とか、できる事は延々とやっていてな。少し気を付けてみるようにナーガに頼んでおいたんだが……」
クロウが面倒だと言う割には、仕事が的確で速いだけでなく、長時間労働もしている節がある。
そうすると、アルスやレウスもできる事をやろうとして、結果、みんなオーバーワークな状態になってしまっている。
「人のことは言えんだろう。グラノス、お前も1日3時間程度しか寝ていないそうだな」
「どこからの情報だ? 一応言っておくが、ダンジョン内や夜営だと寝る時間が減るのは仕方ないことだぞ」
「クヴェレでずっと部屋の明かりが点いていたとスペルが言っていたな。クヴェレ家で確認した書物の量もだが、他の世界から来たとは思えない知識量になってる自覚は? まさか、調合まで出来るとは思わなかったがな」
油断したつもりはなかったが、しっかりと報告されていたらしい。書庫に籠らず、部屋で読みふけっていたのも使用人から報告がいっているのか。
スペルが広めることはないだろうが、一応、あちらにも話を通しておく必要があるな。
「はぁ……知識だけでも手に入れておかないと、現状がきつすぎる。詰め込むだけでも詰め込んでおく」
「父上では信用できんか」
「クレインの望む、生き延びるだけなら、王弟殿下の下で叶うと思っている。だが、俺は自由に生きたい。俺らが好きに、自由に生きるには、今が踏ん張りどころだろう」
有用であること。利用するだけで終わらずに、共存共栄をする価値を示す。
お師匠さんもクレインが貴族に合わないのがわかっているから、俺に継ぐように言っていた。それを王家が望まないで妨害するなら、貴族として断絶させる方向で動く。そのためには、知識が必要だった。
一つ一つ、相手の主張を潰せるだけのカードを手に入れておく。
「食事会の様子では、貴族にできないことは同意しよう。俺がもう少し動ければいいんだろうがな」
「体調悪かったらしいな」
「ベッドにいる時間が増えただけだ。たいしたことではない」
「機会があったら、クロウに診てもらったらどうだ? あいつの目は特別製だからな。君の体にあった薬を作れる可能性があるはずだ」
「機会があればな」
実際、カイアがもう少し動けるようになると俺が助かるのも事実。王弟側の薬師の顔を潰すようなことにはならないようにする必要があるが、それでも今までの関係を考えればレカルスト殿とは何とかなるだろう。
「なあ、このまま王国は乗り切れるか? 帝国が崩壊した状況で、今後の君の予想を聞きたい」
「……帝国が滅んでいる以上、王国も巻き込まれることは確定だ。皇太子からの救援要請は出ているから、討伐部隊が組まれるだろうが、年内に収まるとは思えないな」
「人数は減っているのにそこまで困るのか?」
「帝国の異邦人でレベル80程度が10人ほどいるそうだ。そやつらだけは討伐はかなり危険が生じる。スペルが借り出される予定と聞いたぞ」
80か。俺らも70超えているから、レベルは同じくらいか。俺らの上がり方はかなり急成長だと思っていたが、同じくらいに上がってるのは意外だな。
それができるくらいには戦闘能力の高い奴らということか。セティコが言っていたやつだろうが、それなりに強いのか。
「まあ、格下相手なら何人いても問題はないからな。スペルくらいの力が必要か」
「数は力でもあるのだが、脅威はあるだろう。スペルであれば、統率力もあり、部下も多いから問題はないだろう」
侯爵になった途端に他国に派遣されるのも大変そうだな。
あいつも王家を見限っていても、しばらくは従うだろう。王弟派となるのがいつになるかは知らないが、なかなか大変そうだ。
「異邦人は駆逐されるか」
「放置できるものでもないからな。だが、お前たちに影響はないだろう」
「……王弟殿下はともかく、王はそうじゃないだろう。何とかならないのか?」
「難しいな。王とその息子達の能力は高くはない。だが、それを支える宰相が有能であるから、十分に乗り切れる。……王権を奪うには何が足りないと思う?」
「まずは大義名分、つぎに王権を支える人材だろうな」
「うむ。どちらも足りておらぬ。せめて、宰相との蜜月関係を断ち切る必要があるだろうな」
先代の懐刀であり、今の王を支える影の支配者。宰相を何とかしない限り、王弟派としても政権奪取が厳しいか。
「宰相自身は良い方なんだがな。政争を起こせば被害を受けるのは民であるというのは事実であり、否定できん」
「なんだ、いがみ合ってるわけでもないのか?」
「元々は父上が王になるべきと言っていたが、伯父上が継いだ。継いだ以上は伯父上に仕えるという方だからな」
「つまり、見捨てるようなことはないのか」
「少なくとも、父上が簒奪した場合、敵対派閥として宰相が残るようでは、国が割れる。そうでなくても、兄上を支える者がな……ラズでは少々心許ない」
王位を簒奪するなら、次の継承者がしっかりとしているべきだが、セレスタイトを支える人材ね。
「君がやればいいと思うんだがな」
「……月の半分はベッドの住人では無理だろう。近年は生まれつき魔力硬化症の子が増えているからな。妹御の開発した薬のおかげで安定はしていたとはいえ、長生きはできない。俺では駄目だ」
「まあ、素材は開発されたから、薬がないということにはならないだろう。安定したら頑張ってくれ」
「やれやれ……父上には伝えておくが、あまり期待はするな」
俺らの安全のためには王弟殿下が立ってほしいところだがな……難しいか。大義名分も今のところはないしな。
異邦人の件で、斬り込めないわけでもないが、貴族や平民には効果が薄い。王家のやらかしが目に見える形で必要だな。
「カイア。もし、君の病気が治ることがあればでいい。その時は考えてくれ」
「……治らぬ病だぞ?」
「クレインならなんとかするかもしれないからな。今回もあっさりと解決しただろう?」
「そうだな……薬でも、現状より良くなるようであれば、少しは可能性はあるだろうな」
「ありがとうな」
「その分は働いてもらうぞ」
「まあ、手伝うくらいはするさ」
カイアは苦笑しつつも、俺の提案を受け入れてくれた。
あとは、機会があればクレインとクロウに診てもらうところからだな。
お師匠さんとも話す時間を作って、状況確認をしておかないだな。
出来る限り、足場を固めておき、最後はクレインに任せるしかないだろうな。
これからも俺ができることをやっていくしかない。この世界で好きに生きるためにな。
【外伝】異世界に行ったので手に職を持って生き延びます 白露 鶺鴒 @hakurosekirei
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