第13話 ハッピーエンド [side:エリュミーヌ]

 回復薬は飲んだものの、城へ戻って数日の間エリュミーヌは安静を言い渡された。

 身体の不調は感じなかったが、精神的にも肉体的にも疲れていることは確かだったため、エリュミーヌは大人しく従い、自室から出なかった。


「お見舞い、来ませんねぇ」

「エドガー様はお忙しいのよ」


 想いを通じ合わせはしたが、エドガーとはあれ以来会えていない。あの男を捕らえたことで多数の関係者を捕らえることもできたというから、きっと忙しいのだろうと自分を納得させていた。

 それに、目を閉じればあの日の出来事がありありと思い出されて、それだけで顔が真っ赤になってしまう。普通の顔をしてエドガーの前に立つためにも、会わない期間があるのはありがたかった。


 出歩くことを許可された日、エドガーから手紙が届いた。都合のいい時に、エリュミーヌのための庭園にあるガゼボまで来てほしいと。

 エリュミーヌはすぐに返事をし、翌日、とびきり気合いをいれて約束の場所に向かうのだった。


 念入りにマッサージされてふかふかすべすべになった白い肌。もう縄の跡は綺麗に消えて、エリュミーヌは安心する。もう二度と、エドガーに悲しみと怒りに満ちた辛い表情をさせたくはなかった。


 約束の時間にはまだ早いのに、エドガーは既に立っていた。騎士団長としての正装に身を包んだエドガーに、思わず見惚れて足を止める。

 エリュミーヌに気付いたエドガーが、目を細めながら近付いてきた。うやうやしくひざまずき、右手の甲に口付ける。

 そして背中に隠していた花束を、エリュミーヌに差し出した。それはあの日、作ることの叶わなかったファルーカの花束だった。


「これ……」

「私の誕生日に、贈ってくれるつもりだったと聞きました」

「はい……でも、……えぇと?」


 エリュミーヌは首を傾げた。ファルーカをメインに据えて美しく彩られた大きな花束は、自分への贈り物になってしまっているからだ。これではエドガーの誕生日を祝えたことにはならない。


「この花束は、私から。代わりと言ってはなんですが、誕生日の贈り物は、貴女にしていただけませんか」

「えっ?!」

「王の許可は取りました。手続き上の問題もないそうです。貴女の左手にふさわしい指輪も用意しました。私と……俺と、結婚してほしい、エリュミーヌ」


 花束を差し出すエドガーの瞳は、エリュミーヌがほしいと雄弁に訴えかけていた。いつかのエリュミーヌも、同じ瞳でエドガーを見ていて。自分が向けるものと同じだけのものを、エドガー自身に抱いてほしかった。ずっと我慢して、秘めたままでいたのは、今この時のためだった。


 エリュミーヌは涙を湛えた瞳でエドガーを見つめ、微笑んで頷いた。花束を受け取ったエリュミーヌを、エドガーが横抱きにする。

 同じ高さになった顔が、自然と近付いた。額と額を触れ合わせ、視線が絡み合う。


「私、貴方が思うよりずぅっと前から貴方のことを見ていたのよ」

「王子殿下たちが揃って稽古に来た日から……か?」


 エリュミーヌは目をぱちぱちと瞬かせて驚いた。そんなエリュミーヌに口元を緩めたエドガーは、頬にひとつ口付けを落として囁く。


「視線の意味に気付いたのは直接会った時だが、貴女の視線はずっと、感じていた」

「でも……遠くから双眼鏡で……」

「はは、そこまでして見てたのか。これからは、ずっとそばで見ているといい」

「は、はい! 特等席から見させていただきますわ……!」


 二人は笑い合い、口付けを交わした。

 雲ひとつない空の下、吹き抜けた風がファルーカの花弁を運ぶ。まるで二人を祝福するように舞い上がっていった。




 秘めた想いの行先で、二人は永遠の愛を誓い合う。

 仲睦まじい二人の結婚生活は、後の世まで語り継がれるほどだった。



Fin.

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秘めた想いの行先を 南雲 皋 @nagumo-satsuki

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