第36話

 俺のカタナもそうだが、【ファイナルクエスト】だと店売りされているレベルの武器だ。

 正直言って、魔石を消費してまで作るほど価値あるものではないのだが、この世界ではやはり最強武器だ。


 出来上がったロングソードをみたサーシャの目の色が変わる。


「ま、まさか……それが私の剣、でしょうか?」

「ああ、そうだ。使ってみるか?」


 彼女は二刀流ということなので、もう一つ作成し、二本の剣を渡す。

 これで、集めていた魔石はなくなってしまったので、また集める必要がある。


 さすがに今持っている剣まで含めると邪魔になるため、一度サーシャが持っていた剣は俺が受け取って、アイテムボックスにしまっておいた。


 腰に差したサーシャは、それから両手に剣をもち、何度か振っていく。


 空気を切る音が耳に届く。

 すっと、溶け込むようなその音を聞いていると、サーシャの口元が緩んでいく。


「……凄い剣ですね。これほどのものを頂いてもいいのですか?」

「ああ。これから魔族との戦いも増えていくだろうし、サーシャにも力になって欲しいからな」


 それに、順調にサーシャが強化されれば、魔族の露払いなどをお願いできるようになるかもしれない。

 倒し切れなくても、魔族を怯ませるくらいの力を手にしてくれれば、俺としても任せられることが増えていく。


「……もちろんです。一度は死んだこの身です。すべてをルーベスト様に捧げるつもりでございます」


 彼女は丁寧に腰を折り曲げてきたが、そこまで畏まらなくてもいいんだけどな。

 試し切りを行うため、ウィンドオークを探して歩き出す。


 しばらくして、見つけた。周囲を警戒するように歩いていたウィンドオークを見て、サーシャが今にも飛び出したそうにウズウズしていた。

 ……それでも、しっかりと待ってくれている。とはいえ、俺が一言でも言えば飛び出しそうだ。


「それじゃあ、今回の戦闘は任せていいか?」

「はい。任せてください!」


 言い切る前に、すでに飛び出している。

 穿たれた矢のように走り出したサーシャに、ウィンドオークは驚いた様子で振り返る。


 ……先制攻撃成功、といった感じか。遅れてウィンドオークの周囲に他の魔物たちも出現したが、先に出ていたウィンドオークへサーシャの剣が振り下ろされる。


 一刀両断。一撃だ。

 ……やっぱり、【ファイナルクエスト】の装備品はずば抜けた性能をしているな。


 周りに出現したオークたちが遅れて対応を開始するが、もとものサーシャの動きが速く、彼女の体を捉えるような攻撃はなかった。


 舞うようにかわしたサーシャは、反撃の斬撃でウィンドオークたちを殲滅し、魔石を回収しこちらへと戻ってきた。

 俺に手渡して喜び、胸を張る姿は無邪気さそのもので可愛らしい。


「やりました、ルーベスト様」

「見事な戦いだったな。剣は問題ないか?」

「はい。問題どころか切れ味が良すぎて、逆に困ってしまうほどですね」


 ……確かにそうだな。

 俺のカタナだけでは判断できなかったが、どうやら武器の持つ攻撃力がそのまま切れ味ということで間違いないようだ。


 他にも作れる可能性のある武器はいくつかある。例えば、どちらのゲームにもドラゴン、という名称の魔物がいて、ドラゴンの牙、ドラゴンの爪と素材名も同じものがある。


 もし、同一のアイテムとして認識されれば、そういった武器も作れるかも知れない。

 ただまあ、ドラゴン自体が珍しい魔物だからそう簡単に素材を集めることはできないだろう。

 でも、そういった共通の素材をどこかで手に入れ、新しい武器を作ってみるのもありかもしれない。




 迷宮での戦闘を終えた俺は、屋敷へと戻る。まだ夕食まで時間があったので、サーシャに稽古をつけてもらう。

 お互い、カタナとロングソードを使った実戦形式だ。

 万が一、大怪我を負っても最悪俺の回復魔法もあるしな。


 稽古はそれほどしていなかったが、やはりサーシャの動きはどんどん良くなっている。


 魔法禁止のルールでやっているのが、それだと何度か追い詰められてしまったので、やはり実戦での訓練をもっと積まないといけないだろう。

 

 俺たちは夕食をいただくために食堂へと向かうと、車椅子に乗ったままのアイフィが出迎えてくれた。


「ルーベスト様とサーシャさんの戦い、見ていましたわ。とても、お強いのですね」


 どうやら、どこかからか観戦していたようだ。屋敷の庭を貸してもらっていたので、廊下でも歩けばすぐにでも見下ろせるのだから当然か。

 別に隠すつもりもなかったし、アイフィの賞賛を素直に受け取っておいた。


「まだまだ、もっと強くならないといけないんだ」

「そうですの? 今でも、わたくしからはとても計り知れない力でしたけれど」


 そういって首を傾げるアイフィに、俺はぽつりと漏らした。


「……俺は、憤怒の魔王を倒して、この国を平和にしたいんだ」


 アイフィにだけ聞こえるように、そっとそう伝える。

 彼女は驚いたように目を丸くしている。




―――――――――――

新作書きましたので読んで頂けると嬉しいです。


世界最弱のSランク探索者として非難されていた俺、実は世界最強の探索者

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悪役貴族が全力で原作を破壊した結果、ヒロインたちの様子がおかしくなりました 木嶋隆太 @nakajinn

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