第35話



 【ドラゴニックファンタジー】はターン制のバトルだった。

 その中で、ウィンドオークとも戦った時はあるのだが、奴ら素早さを上げる魔法を使って先手を取ってくるが、特に脅威とは感じなかった。


 仮に行動順が多少変わっても、攻撃をくらう前提で回復魔法を用意しておけばいいだけだからな。

 今のようなリアルタイムバトルだとどのような扱いになるのか。

 それは少し気になっていた。


 俺たちが魔物を探して歩いていくと、ウィンドオークを発見した。


 手には剣が握られていて、周囲を索敵するように鼻を動かしている。

 こちらに気づいている様子はないので、今にも攻撃したそうなサーシャに、待てと声をかける。


「まずは、俺の魔法がどれだけくらうか試してもいいか?」

「……はい、分かりました」


 そんな悲しそうな顔をするなって。戦い気持ちはよく分かったので、彼女を宥めるように声をかける。


「次の戦闘はすべてサーシャにお願いするから。ちょっと待ってくれ」

「はい、もちろんです」


 もちろんです、というわりには顔はちょっと悲しそうにしている。

 このワンコめ。俺はそれ以上サーシャの顔を見ないようにしつつ、魔法の準備を始める。


 余っているスキルポイントで獲得したのは――上級魔法、ライトニングバースト。

 とうとう、ここまで来たという感じだ。これもすべて、なんとか経験値をコツコツと稼いできたおかげだ。


 重傷者の治療はもちろん、毎日自分へと魔法をぶつける日々……。


 すべてはここに到達するためだ。


 俺のレベルもあって、相当なダメージが出るだろう。

 魔法を準備した俺は、すぐに魔法の構えを行う。

 さすがに、こいつは自分の体に打つ勇気はないんだよな。


 ダメージ的に、女神様曰く『HPの八割くらいは削れると思いますが大丈夫ですよ?』とは言っていたが、そういう問題ではないのだ。


 ていうか、現実で考えてみろ。

 HPの八割削られるって相当だぞ? それこと、交通事故にでもあって、寝たきり状態になるようなものだろう、普通なら。


 準備を終えた俺が魔法を構えると、ウィンドオークがこちらに気付き、近づいてきた。

 戦闘開始、となる前に俺はライトニングバーストをオークへと放った。


 次の瞬間だった。爆発したかのような音が響き渡り、ウィンドオークを中心に凄まじい雷撃が生まれる。

 周囲全てを飲み込むような雷が、迷宮に深い傷を残しながらその場を跡形もなくふきとばす。


 ……建物の解体でもするというのなら、最高の魔法かもしれない。

 ウィンドオークの断末魔さえも飲み込んだ俺の魔法が消えると、あとには魔石だけが残っていた。


「……す、凄まじい、威力ですね。これまでに使ってきたどの魔法よりも……強力ですね」


 サーシャがそう言って、俺は笑みを浮かべる。


「魔法は得意だからな。とりあえず、オークも最悪の場合は一撃でしとめられるようだし、この調子で戦っていくか」

「そうですね。次の魔物が出たら、私にお任せください。私も、準備運動をしておきたいので」


 本音は、早く戦いたいからだろう。

 ウキウキワクワクとしている様子のサーシャに頷いて返すと、彼女はもう楽しみな様子で魔物を探さて歩き始めた。

 




 何度か戦闘をすると、微妙に足りていなかった魔石の回収も無事終了。

 後は、彼女に確認をするだけだ。


「サーシャは剣を新しくする予定とかあるのか?」


 サーシャの現在の装備はゲームの時と同じ剣のように見える。

 ゲームでお別れになる前に、装備品を剥ぎ取ったときの記憶を思い出す。

 ……すまん。結構高値で売れるもんでな。


 そこまでスペックの高い剣ではなかったし、サーシャ専用装備で他の人はつけられなかった。


 何か思い入れのようなものがなければ俺が用意しようかと考えていたのだ。

 サーシャはちらと剣に視線をやり、小さく頷いた。


「そうですね……もう少し切れ味の良いものを購入しようかと思っていますが、中々良い武器は市場に出回らないので困っていますけどね」

「それなら、俺のほうで準備しようか?」


 魔石も十分集まったので、魔石だけで作れるロングソードならば、もう作れるようになっている。


 切れ味とかは分からんが、攻撃力の補正としては俺のカタナと同じくらいはあるので、性能面での不満は少ないと思うが。


 俺の問いかけに、サーシャは少し驚いた様子で目を見開いた。

「……お願いできるのですか?」

「ああ、一応な。いくつか用意してあるんだ」


 そう言っておいた方が、サーシャとしても気にしなくて済むだろう。

 サーシャが特に気にしないというのなら、両方とも片手剣にしてしまってもいいか。

 まずは、一本目。俺はサーシャの剣を確認してから、作成へと取り掛かる。


 鍛冶魔法を使い、魔石を消費して、ロングソードの作成と強化を施す。


 作成されたロングソードは、アイテムボックスへと収納されている。


 俺がそれを取り出すと、一振りの剣が出現する。特に、目立つような特徴はなく、そこらのお店に並んでいるようなレベルの剣だ。



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新作書きましたので読んで頂けると嬉しいです。


生贄の勇者たちを命賭けで助け、日本に帰還しました。異世界の勇者たちが病み堕ちしちゃってるみたいです

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