第34話
本来、死ぬべきキャラクターたちを救うことで、少しずつ物語は破綻していくはずだ。
その破綻した先が、天国か地獄かは分からない。ただ、物語の根底を覆すには、そういったちょっとしたことから始めるべきだろう。
だから、彼女は俺にとって大切な一人なんだ。
死ぬ未来の人たちが、全員笑顔になれるような物語に作り替えたい。
きっとそんな世界なら、俺の妹だって楽しんで転生生活を送れるはずだ。
「これから先の未来を、一緒に笑って歩きたいと思ってる。だから、助けたかったんだ……迷惑だったか?」
誰も死なないハッピーエンドの中に、アイフィも必要な存在だ。
「いえ……そ、そんなことはありません、わ。……助けていただいて、わたくしもとても嬉しかった、ですわ」
アイフィは顔を赤くしながら小さな声で答えてくれた。
確かに、少し恥ずかしいことを言ってしまったな。
ルーベストくんの顔面がなければ許されないことだとは思う。
「まあ、そういうわけで、これからもよろしく頼む」
「はい……こ、こちらこそ、ふつつかものですが、よろしくお願いいたしますわ」
それじゃあまるで結婚でもするみたいな挨拶じゃないか。
アイフィもそんな冗談を言えるんだなぁ。
そんな考えが浮かんではいたが、俺は特に口にすることはなかった。
アイフィが部屋を立ち去った後、俺は女神様に声をかけていた。
『女神様、確認したいんだが……アイフィのステータスはどうなってるんだ?』
サーシャを治療した後、俺は父さんの知り合いなどを治療していた。
その結果、分かったことはやはり俺が治療を行った人たちは、【ファイナルクエスト】のようにステータスの限界値がなくなるということだった。
ただし、治療に関しては、通常のHPを失う程度のものではなく、大きな欠損などの場合に関してだった。
『アイフィさんも……ルーベストさんの回復魔法の影響で完全にステータスがおかしくなっちゃいましたよ……』
『よし』
『よしじゃないですよ!』
女神様がぷんすか声を荒らげるが、俺としてはガッツポーズしたくなるようなことだった。
アイフィは原作開始時点までひたすら魔法を鍛えていた。
つまり、これからも魔法を鍛えていってくれた場合、それだけの力をつけていく可能性があるというわけだ。
まあ、原作の場合は足が動かないからこそ、魔法での戦闘能力を上げようとしていたのかもしれないが、それでもまったく何もしないということはないだろう。
確実に、原作開始時点よりもステータスは上がってくれると思うので、俺としては喜ばない理由がなかった。
女神様はしばらく不満そうにしていた。
『……せ、世界の歴史が色々と変わってきちゃうんですよぉ。管理が大変になっちゃったらどうなるんですか……』
『そこは、頑張れ。人間たちは女神様に感謝すると思うぞ?』
『それは……えへへ、嬉しいですけどぉ。で、ですが、私は人間だけに肩入れしてはいけないんです! 元の世界の歴史から大きく変わっちゃったらどうするんですか!』
『別に、最終的には原作通りの結末にはなると思うぞ? それでよくないか?』
『それは……それでいいんでしょうか?』
『女神様の世界運営のマニュアル本にもそう書かれてたぞ。だから気にすんな』
こちとら、女神様の仕事を手伝わされている間に、そういった情報は集めておいたからな。
転生者を世界に送り込んでも、最終的に世界の歴史の大筋が変わらなければ問題ない、と。
この世界の最終目標は、大魔王を倒しての世界平和だ。
だから、その大筋さえぶれなければいいのだ。まあ、何かあったとしても女神様の責任にしちゃばいいんだけど。
『……まあ、それならいいですけどぉ。お願いしますね』
『任せろ』
一応、女神様は納得してくれたようなので、俺はベッドへと寝転がる。
ここまで旅をしてきたことと今日は色々とあったので疲れていた。
大きなあくびをしてから、俺はゆっくりと目を閉じた。
次の日。屋敷で朝食をいただいた後、早速ボルドライト近くにある迷宮へと向かう。
今日からゴルシュさんたちが治療するべき人の選定を行っていくため、その待ち時間は迷宮で素材集めだ。
事前に調べておいた迷宮へと入った俺たちは、洞窟のような内部を歩いていく。
「こちらの迷宮では、ウィンドオークが出現するそうですね」
いたな、そんな魔物も。
「通常のオークより、強いのか?」
「はい。風魔法を使って速度を上げて攻撃してくるので、気を抜くと一気にやられる可能性がありますので気をつけてください。それほど難易度の高い迷宮ではないと聞いていますので、問題はないかと思いますが」
「そうか。戦うときの注意点はそのくらいか?」
「そうですね。倒し方は簡単です。とにかく相手より早く動いて、相手より強い一撃を当てれば倒せます!」
あー、うん。
サーシャの暴力的な理論に頷きながら、魔物を探して歩いていく。
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