第33話

 とはいえ、それを口にすることはできないので、お礼の言葉を受け取っておこう。


「ああ、どういたしまして」


 それにしても……アイフィもゴルシュさんもここまで感謝してくるとはな。そこまで、二人はこの状況を喜んでいるというわけだ。

 そりゃあもちろん、助けたい気持ちも嘘ではない。


 嘘ではないのだが……最優先は経験値だったので、俺としては少し照れ臭い。

 顔を上げたアイフィは嬉しそうに声をあげる。


「わたくし……別に怪我をしたことは悲しまないようにしていましたわ」

「……そうなのか?」

「はい。お父様や、今はもう亡くなってしまいましたがお母様に心配をかけたくはありませんでしたから」

「……そうか」


 アイフィはそういうキャラクターだ。

 自分が無茶をして、作戦を実行するような人であり、だからこそ原作では命を落とすことになってしまった。

 わりとゲームでは主人公の導き手のお姉さんとして、気に入ったキャラクターでもあったので、助けられて良かった。


「でも、一人のときに……やっぱり考えてしまいますの」

「……どんなことを?」

「……あの時の行動は、正しかったのか、と」


 あの時の行動。

 恐らくは足を失う原因になってしまったものだろう。

 街の人たちを庇うために行ったアイフィの行動は……失敗に終わってしまった。


「お父様はいつも言っていましたわ。民を守るために領主は動かないといけない、と。……だからわたくしは、魔族によって襲われる人が少なくなるように、魔族側に提案をしましたわ。その結果が、今の状態ですわ」


 アイフィはそういって、車椅子に乗る自分を見ていた。


「……本当に、これが正しかったのかって、いつも考えてしまいますの。……ああしなければ、良かった。そうすれば、自分は……もっと自由に動けていたのに、って……ついつい、自分の保身ばかりを考えてしまいますの。……領主の、娘ですのに」


 彼女は、誰にも話せなかったのか……弱い部分をさらけ出していく。

 ……苦しそうな様子のアイフィに、俺は小さく息を吐く。

 本当に、この世界はこんな子どもにまで重い運命を背負わせるよな……。


「人間……普通じゃないか? 自分のことが一番なんて、誰だってそんなもんだ」


 我が身が可愛い、なんて当然だ。

 誰かのために何かをするっていうのは、それだけ自分にとって都合が良いからだ。


 感情的に嬉しいから、とか、何かしなければ自分にとって不利益があるから、とか。


「あなたも、そうですの?」

「もちろんだ」


 俺だって、善意で人々を助けているわけじゃない。

 経験値がもらえるから。


 俺だって、世界平和を純粋に目指しているわけじゃない。

 勇者となる妹を幸せにしてやりたいから。


 皆、そんなものだろう。


「……ふふ、そうですの」

「アイフィは……周りの人を優先してることが多いんじゃないか?」

「……え? そうですの? ……そんなことはないと思いますけど」


 いや、そんなことあるんだよ。

 その怪我もそうだし、原作でも、そうだった。


「自分のこと、もっと考えてくれ。それで何かあれば俺に相談してくれ」


 ……原作でのアイフィのように、俺が何も知らないままに作戦をたてられたら困るからな。

 俺と違って、この世界の人たちの能力では、一人でできることに限界があるからな。


「……相談、ですの?」

「ああ。一人でできることは、たかが知れてるだろ。だから、俺はいくらでも話を聞いてやるから。無理なときは頼ってくれ」


 ……そうすれば、原作のように死ぬこともないだろう。

 原作でもアイフィは、勇者たちのために死ぬ覚悟を持っていた。


 危険な戦いだと分かっていても、勇者の援護に徹していて、それが逆転のきっかけにはなった。だが、それと引き換えに彼女は死んだ。


「全部一人で抱え込まないでくれ。俺はお前が困っているなら助けたい」


 もしかしたら、俺が協力すればどうにかなるような問題もあるかもしれない。

 だからこそ、原作でも重要な立場である彼女には、相談してほしかった。

 アイフィの目をまっすぐに見つめてそういうと、彼女は少し視線をそらしながら口をもにょもにょと動かす。


「……ど、どうして……そこまでわたくしを助けてくれますの」

「大切だからだ」

「…………え?」


―――――――――――

新作書きましたので読んで頂けると嬉しいです。


生贄の勇者たちを命賭けで助け、日本に帰還しました。異世界の勇者たちが病み堕ちしちゃってるみたいです

https://kakuyomu.jp/works/16818093085679083559


田舎町の地味な探索者、美少女ダンジョン配信者を助けてバズってしまう

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幼児退行してくる第七王女の執事になったんだけど

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