第6話 資産家のミス



「旦那様、それは当然でございますよ。生きれば生きるほど老化していくものでございます。それにこの寿命売買のためでもあるかもしれません」



「何⁉ それはどういうことだ?」



 資産家が勢いよくそう言うと、悪魔は不思議そうな顔をした。





「旦那様、以前お渡しした資料をお読みでないのでしょうか。寿命を売ったり買ったりしてくれる方から私もいただいているものがあるのでございます」



「何だと?」



 資産家は怒りを覚えた。



 初めて寿命を買った時はそんなことは何も言ってこなかった。



「こちらも慈善活動ではありませんので」



「何⁉ 金儲けではないといったではないか⁉」



 嘘をつかれた、そう資産家は思った。やはり慈善などではなく、金目当てだったの

だ。


 自分の資産を狙ってこの悪魔は現れたのだと彼は考えた。



 しかし、悪魔の返事は資産家が予想したものではなかった。


「悪魔に金は必要ありません」


 悪魔はニヤリと笑った。



 そのとき資産家は悪魔の姿が変わっていないことに気が付いた。



 悪魔と出会って凄い時間が経っている。



 しかし、悪魔の姿は全く変わっていないのだ。



 悪魔だからと言えば簡単に納得ができるが、資産家は何かあると直感で感じた。



 確かに人と悪魔では生きる時間が違う。悪魔の見た目が変わっていないことなど、何も不思議ではないが、これはあまりにもおかしい。



 悪魔は笑い、特に悪意もなく答え始めた。



「寿命売買について、私、悪魔は、お客様から若さを利子にいただいているのです。若さ儲けとでも言いましょうか。人間の持つ若さをいただいて生きております」



「なぜそのことを言ってはくれなかったのだ!」



 資産家は半泣きで叫ぶ。



 気持ちで泣いていても、実際に目から涙は出てこなかった。



 言ってくれればこんな取引などに手を出すことは無かったのに。



 どうして言ってくれなかったのか。



 これは職務怠慢ではないのか。



 いやむしろ詐欺だ。



「その点は私が説明する義務はないためでございます。最初にお渡しした書類に記載

されていた情報でお客様に確認いただく事項でございます」



 資産家は絶句した。




「旦那様の若さを三百何年分いただきましたので、人間にはかなりきつくなるかもしれませんね。しかし旦那様、お買いいただいた寿命は売ることも捨てることもできません。今お持ちの寿命がなくなるまで生きることになりますので、時間を大切にお楽しみください」



 悪魔は特に悪びれる様子もなく笑顔で言う。



「また寿命が買いたくなりましたらお呼びください」



 そして最後にわざとらしいお辞儀をした。

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寿命売買〜悪魔を名乗る男はセールスマンだった〜 赤坂英二 @akasakaeiji_dada

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