第5話 異変


 資産家はあの言葉を投げかける。


「ところでな、また寿命を買いたいのだが、できるか?」


 悪魔はニヤリと笑った。



「もちろんでございます。今回は何年にいたしましょうか。前回は十年でしたが、今回も十年にいたしますか?」



「そんなけち臭い買い方は前回で終わりだ。わしらしく買い物をしよう」


 資産家はグイっとグラスの酒をあおる。



「三百年分買いたいのだが、できるか?」



「はい、可能でございます。旦那様の資産状況から見ても全く負担にならないかと」



「なら早速やってくれ」



「かしこまりました」



 悪魔はいつものように寿命を増やした。



「これで三百年寿命が延びました。お確かめください」



 機械は確かに三百年上乗せされていた。



「最高だ。これでまた長生きができるな」



 資産家は満足そうに笑った。



「ありがとうございました。またお取り引きされるときはお呼びください」



 そう言って悪魔は姿を消した。



 資産家はニンマリと一人で笑った。



「これでわしはまた世界を見ることができる」






 それから十何年か経って、資産家は体に異変を感じるようになった。



 急速に筋肉は衰え動作がつらくなった。



 水分の量が減ってきている。



 疲れがたまったまま抜けなくなっていた。



 呼吸もしづらく、常に息切れを起こしている状況である。




 そして、

「今日もベッドの上にいるか」



 最近はベッドの上で寝たきりになってしまった。



 体調が悪い。どうにかならないかと思った。



 そこで悪魔を呼び出すことにした。



「旦那様、お久しぶりでございます」



 悪魔は始めて会ったあの時と変わらず現れた。わざとらしいお辞儀も健在である。



「いかがなさいましたか? まだ寿命はかなりお持ちのようですが」



「いや、今日は寿命のことじゃないのだ」



 資産家は体をゆっくりと起き上がった。



「最近は体が動かなくてな。もはや痛いまでもある」



 その姿はまるで生き仏のようになりかけている。



「それは心配でございますね」



「あぁ寿命があと何百年も残っているのにこれでは困るのだ」



「しかし寿命を売ることはできませんので」



「わかっておる。わしが言いたいのはなぜか老化が早まっている気がするのだ」




「旦那様、それは当然でございますよ。生きれば生きるほど老化していくものでございます。それにこの寿命売買のためでもあるかもしれません」



「何⁉ それはどういうことだ?」



 資産家が勢いよくそう言うと、悪魔は不思議そうな顔をした。



「旦那様、以前お渡しした資料をお読みでないのでしょうか。寿命を売ったり買ったりしてくれる方から私もいただいているものがあるのでございます」




「何だと?」

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