第4話 長寿
悪魔の体が足元から透明になり始めた。
「さすが悪魔だな!」
資産家は笑った。
悪魔の下半身が消えたところで、悪魔が「あ」と声を出した。
「失礼しました。言い忘れたことがございます。これを言わないといけないことがございまして・・・」
「何だ言ってみろ」
「寿命売買に関して注意点としましては、買った分の寿命は売ることができません。つまり旦那様が多くの寿命を買って『いらないから売りたい』となっても買った分の寿命を売ることはできません。ちなみに寿命はご自身の残りから消費されていきます。本日買っていただいた十年分の寿命は旦那様が持っていた寿命を使い切ってから消費が開始されることとなります。これは寿命を使ってビジネスをすることを防ぐためですのでご理解ください」
「なるほど、分かった。追加で買うことはあっても売ることはないから安心しろ」
悪魔はにこりと笑い消えた。
それから何年も経った。資産家の生活は特に変わりはなかった。
資産家は確かに長生きになった。
長生きをしていると様々なことを経験できた。
文化の変遷、技術の発達など多くのことを見聞きした。
まさに歴史の中にいる感覚を覚えた。
それが実に快感だった。
「まったく、生きたくないから寿命を売る奴がいるなど信じられん話だ! いろいろなものを見たいと思わんのか。まぁ、そんな奴らがいるからこそわしはこうして長生きができているわけだがな」
資産家はその後も嬉しそうに生きた。
遂には世界一の長寿になった。
世界的な資産家が世界一の長寿となったことで、彼の名はさらに有名になった。
世界的な資産家は世界一の長寿という称号を手にした。
資産だけでなく、新たな名声も手にした。
それだけではなく、長寿になったことで新たな資産が流れ込んでくる機会にも恵まれた。
「実に凄いものだ。あの悪魔には感謝せねばならんな」
残りの寿命も短くなった。
まだまだ資産家には長生きがしたいと欲が出てきた。
そのためあの機械のボタンを押し、悪魔を久々に呼び出した。
「お呼びいただきありがとうございます。旦那様、本日はいかがいたしましょう」
「まず、お前には感謝をしている。あの日来てくれなかったら今のわしはなかったのだからな」
資産家は高い酒の栓を抜き、二つのグラスにたっぷりと注いだ。
「お前も飲め」
「勿体ないお言葉でございます。ありがたくいただきます」
二人はグラスを掲げ乾杯した。
資産家は悪魔にあの言葉を投げかける。
「ところでな、また寿命を買いたいのだが、できるか?」
悪魔はニヤリと笑った。
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