第10話 エピローグ

 これって任侠映画みたいに『久しぶりのシャバの空気だぜ』とか言えば良いのだろうか。


 刑期を終え出所した僕に当然出迎えてくれる人なんていない。


 そう思っていたんだけれど。


 目の前には長く綺麗な黒髪と、眼鏡がとても似合うスーツ姿の美人が立っていた。


 彼女は僕に近づくと名刺を渡してくる。


 もちろん名刺なんて見なくても誰かなんてひと目見ただけで分かっていた。


「どうして君が?」


「当然じゃない。逆にどうして私が居ないとおもったの?」


「えっ、だってそれは、僕は凶悪な犯罪者だし」


「だし?」


「……僕は君とは別れたわけで。何よりも君の思いを裏切って、自分の感情のままに動いて、ますます君を傷付けただろうから」


「うん、でも傷ついたというより悔しかったよ。貴方を止めれなかった自分が、貴方の手を汚させた私の不甲斐なさが。何よりも貴方にそうさせてしまった自分の迂闊さが、許せなかったの」


「でも、それだって元は脅されたからで、脅しに屈してた理由だって僕のためだったんだよね」


「……いいえ、結局自分のためだったのよ。ただ貴方の側に居たかっただけ。それしか考えてなくて、貴方の気持ちなんて考えていなかった」


「そう……なら僕と同じだね。僕もただ許せなかっただけ。君の側に居ることより、君を傷付けたアイツをどうにかしてやりたかった。君がそんな事を望んでいないって分かっていたのに」


「そっか、酷いすれ違いね」


「そうだね。どっちも自分勝手で独りよがりだ」


「本当バカだったね私たち」


「ああ、本当にどうして好きな人の気持ちを汲み取ってあげれなかったんだろうね。一番大切だったはずなのに」


「うん。でもね貴方は言ってくれたよ、最後にちゃんと、誰よりも幸せになってって」


「……なら。じゃあちゃんと幸せになれた?」


「……うん。今凄く幸せだよ」


「そっか、なら良かった。これで僕も安心して……」


「あっ、でもね、誰よりも幸せかって言われるとまだまだなんだけど」


「えっと、どういうこと?」


「うん。だって誰よりも幸せになる為に必要な人が側にいないから」


「えっ!?」


「もう、鈍感なフリしないでよ、分かってるよね。私が誰よりも幸せになる為に必要な人」


「……本当にそれで良いの?」


「うん。だってさ久しぶりに会えただけなのにこんなにも嬉しいんだよ、幸せに感じるんだよ。貴方は嬉しくないの?」


「……そんなわけ無いじゃないか、何よりも嬉しいに決まってる。刑務所にいる間、君を忘れたことなんて一度も無かった」


「うん嬉しい。私も同じだからずっと貴方のことだけを思っていた。それこそ他の男なんて目に入らないほどにね」


「そっか嬉しいな。うん嬉しいよ、でも……」


「でも?」


「僕は君を幸せにできなかったから。本当なら君に待っててもらうような人間じゃないんだよ、君の気持ちを推し量れなかったどうしようもないクズなんだよ」


「うん分かるよ自分を卑下する気持ち、だって私も同じだから。私がバカだったせいで、未来を奪われた貴方にどう償えば良いのかずっと悩んでた。私なんかが側に居る資格なんてあるのかなって。だから本当は会うのも怖かった。貴方に拒絶されたらどうしようってずっと考えてた」


「なら、なぜ来れたの?」


「そんなの簡単よ、怖さより貴方に会いたいって気持ちの方が強かったから。そして会えて実感した。私には貴方が居ないと駄目なんだって、貴方が居ないと私は幸せになれないって、だから貴方が私をまだ必要としてくれるなら手を取って」


 彼女はそう言うと懐しい笑顔で手を差し伸べてくれた。


「……ありがとう、ありがとう純白ましろ。僕を待っててくれて」


 溢れそうになる涙を堪えながら僕は、差し出されたマシロの手をそっと握る。最後に手を繋いだ、あの懐しい感触が蘇る。


「こっちこそ、こっちこそ、ごめんね信太郎。大好き、大好きだよ。今までも、これからも愛し続けるから」


 感極まったマシロが僕の胸に飛び込む。

 僕も胸が一杯になって強く彼女を抱きしめる。


純白ましろ。僕は決めたよ、これからは何があっても君の側を離れない。愛してる」


「ありがとう信太郎。私今誰よりも幸せだよ」


 そう言って嬉し涙を流してくれたマシロの唇に僕は誓いの口づけをする。


 言葉通り、もう二度と愛する人の側を離れることはしないと。

 そう心の中で決断した誓いを胸に。



【完】




――――――――――――――――――――


読んで頂きありがとうございます。

評価、誤字報告、感謝しています。

コメントもいつも以上に多く頂きとても嬉しく思います。


今回の結末色々と思う方もいるかとは思いますが、

まずは何よりも、最後まで読んで頂いた読者様に感謝を申し上げます。


『ありがとうございます。』


この作品に対しましては私自身も思うところがあるので、近況ノートの方に『あとがき』という形で掲載しようと思いますので、興味がある方は見てやって下さい。


それではまた近いうちに新作投稿出来れば良いなとは考えてますので、今後とも宜しくお願いします。




追記

マシロが最初に取るべきだった行動のひとつのアンサーとして、私自身の作品になりますが例を。


タイトル

『幼馴染を◯してしまいました』


https://kakuyomu.jp/works/16818093075061515150


読んでないのでしたら一読してくださると嬉しいです。短編なのでサクッと読めますよ。

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最近、彼女の様子が何だかおかしい 〜真相を知った僕の決断は……【完結済】 コアラvsラッコ @beeline-3taro

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