ススキ
カーテンの隙間から差し込む陽光が、瞼を容赦なくチリチリと焼き付け幸せな夢から残酷な現実へと引き戻した。
まだ覚醒していない寝ぼけた頭は鈍器で殴打されたかのようにガンガンと痛み、身体は鉛にように重く、粗末な棚付きヘッドボードの上で、けたたましく鳴き狂っているスマホのアラームを止めるのに伸ばした腕一本を、持ち上げるだけでも重労働な作業に思えた。昨夜は上司の顔を立てるためと云えど、言われるままに酒をしこたま呑み過ぎてしまった。
だが、目眩を覚える頭で昨晩の出来事を振り返えってみれば、既に酔い潰れて何も考えずに選んだ呑み屋で、憧れの彼女と偶然にも対面した奇跡の代償。あるいは、そんな出来過ぎた記憶が妄想でただの酒で酔った頭が見せた夢の跡とも考えれば大した痛みではないと開き直った。
結局開き直ったとしても頭痛が収まる訳ではなく、早々に頭痛薬を飲んで会社に出社しようと掛け布団を剥ぐと、今迄寝ていたベッドと壁側にその彼女が気持ちよさそうに寝息を立てていた。
目の前に突き付けられた想像もしえない光景に、僕の頭が真っ白になるにはそんなに時間は掛からなかった。掛布団をそそくさと彼女の頭の迄すっぽりと被せ、今着ている服装を改めて見る。昨日着ていたシャツのボタンは2番目まで外してあるだけでズボンのファスナーはちゃんと閉まっていた。
一先ず彼女と一線を踏み外していない事に、胸を撫で下ろすと彼女がう〜ん。とまだ眠たそうな声を漏らしながら掛布団からもぞもぞと這い出した。僕と目が合うと一瞬目をカッと見開いたかと思えばすぐに、昨夜の事を思い出したのかスゥと穏やかな表情に戻り、彼女はふわふわとした優しい声でおはようございますと口を開いた。
「お、おはようございます。えと…昨夜、居酒屋で鉢合わせた以来ですね……」
「えぇ、そうですね。昨夜はお世話になりました」
「あの、昨夜なんですが…。その、途中から、記憶が無くて。出来ればこうなった経緯を……」
「あ〜。なるほど、忘れちゃったのですか。昨夜の事......」
と彼女は一瞬だけ、ニヤリと悪事を思い付いた子供の様に口角を歪ませた。
彼女が言うには、昨晩の僕は見るも絶えない程にベロベロに酔っ払い。同行していた上司は呑み屋から近い僕のマンションまでの地図を描いたメモを彼女に押し付けて帰って行ってしまったらしく、仕方なく酔いつぶれた僕を引き摺ってここ迄連れて行き、無事辿り着いてからの記憶が無いらしい......。
僕は改めて酒を恐ろしさを再認識して思わず戦慄した。
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ナンバンギセル 黄昏 彼岸 @tasogarehegan
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