青春と雨のにおい

ナナシリア

青春と雨のにおい

 ざーざーと雨が降る。


 教室は湿っていて、椅子を引こうとしても湿気に引っかかる。


 そんな鬱陶しさのある教室だが、クラスの雰囲気もじめじめしていた。


「今回はマジでヤバイ」


「俺は赤点じゃなければいいや」


 この後の授業に待ち受けるのは、テスト返却。俺の出来は可もなく不可もなく。


「お前、今回数Ⅰで勝負しようぜ」


「それはずるいだろ、数学は俺の苦手分野かつお前の得意分野じゃないか」


 負けることがわかっているから、俺は勝負を受けない。


「しゃあない、じゃあ数Ⅰと現国の合計点でどうだ。国語はお前の得意分野だろ?」


「……それならやってやろうじゃないか」


 平等な条件になったので、勝負を受けた。


 次の時間に帰ってくるのは数学Ⅰ。どれだけ彼との点数差を抑えられるかの勝負になるだろう。


「それじゃあ、出席番号順にテストを返します。机の上綺麗にして」


 指示に従って、机の上のものをすべて片付ける。


 全員が机を空けたのを確認し、先生は出席番号一番からテストを返却し始めた。


 彼の方が出席番号が若いので、先に彼の得点を確認することになる。


 テストを受け取った彼が、俺の席に寄る。


「うい」


 赤ペンで書かれた数字は、九十三。


「高すぎ。逆にどこで間違えたの?」


 彼が間違えたところを指さす。記述の減点が四問合わせて五点、そして計算間違いで一点間違い。


 数学が得意なことは知っていたが、何度見ても凄まじい得点率。


「じゃ、俺も行ってくる」


 二十点差くらいならなんとか取り返しはつくだろうが……。


 返却されたテストの点数は、六十三。


「三十点差か……」


「おっ、帰ってきた。どうだった?」


 彼に点数を伝える前に、女子生徒に点数を聞かれる。


「六十三。俺天才かもしれん」


「わたし赤点なんだけど……」


「補修がんば」


 女子生徒を励まし、自分の席に戻ってから彼にテスト結果を見せる。


「お、三十点差。ワンチャンあるぞ」


「現国って次だっけ」


「そうそう」


 返答すると、彼は自分の席に戻った。


 一人静かに窓の外を眺める。


 止まない雨の音と、止まらない喧騒がまじりあって聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

青春と雨のにおい ナナシリア @nanasi20090127

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ