第59話 ギルド対抗賞金トーナメント 其ノ捌

『決勝戦第一試合開始です!』


 実況の一言で闘技場に大きな歓声が上がる。


 その刹那――ウキワは両手に漆黒の鎌を携えて、ルシラスの元へ駆け出す。ルシラスも同じように接近してきていた。


 ウキワは武器と武器が交わる前に急ブレーキをかけ、上体を逸らす。そして、左手の鎌を横回転で投擲した。


 ルシラスは飛んできた鎌を漆黒の剣で軽々しく弾く。その瞬間、鎌の切っ先がルシラスの目の前を横切った。


「クッ……日蝕エクリプスヴェール


 ウキワの鎌を間一髪で交わし、即座にバフをかけたルシラスは剣を振り下ろし対抗する。一方、ウキワは漆黒のオーラが立つ剣を片膝立ちで受け止めた。


死神ノ刃ラ・モール・エッジ


 鍔迫り合いとなったことで、バフによりしっかり押されていることを確認したウキワはルシラスと同じようにバフをかける。そして、ゆっくりと立ち上がりながら、徐々に押し返していく。


「早く見せてよ。他のスキルも」


「まあまあ、そう焦るなよ。気長に行こうぜ?」


「へぇ……随分悠長だけど、そんな余裕あるのかな」


「流石は俺の妹だっ!」


 ルシラスはウキワの鎌を跳ね除け、半歩後ろに下がる。その隙に、ウキワは地面に捨てられたもう一本の鎌を回収しようと、左から回り込む。


「取らせるかよ……」


 彼女の意図を瞬時に理解したルシラスは地面に転がった鎌とウキワの対角線上に移動する。


 その瞬間、ウキワは左腕を前に出し何かを持つようなポーズを行う。すると、鎌がスっと浮き回転しながらウキワの元へ戻っていく。


「チッ……」


 反応が遅れたルシラスは剣で弾くのではなく、ローリングで回避する。しかし、顔を上げた時には目の前にウキワの姿はなかった。


「闇刃追尾」


 ルシラスはスキルを使用し、剣を宙へ投げる。すると剣は鋒を後ろに向けて、凄まじい速度で飛んで行った。


「ふーん、なかなかの威力だね……」


 二本の鎌をクロスさせ、剣を受け止めるウキワだが、少しづつ押されていく。


「最初に鎌を投げつけて、俺が来葉と鎌のラインにだった瞬間、武器の効果で回収。でも、それはブラフに過ぎない。全ては俺に悟られないよう死角にゲート」を設置するためってとこか」


 インベントリから別の剣を取り出したルシラスはゆっくりと近づき、言葉を散らす。彼の自信に満ち溢れた表情は、まるで自分を見ているかのようだった。


「一人でブツブツ喋ってないで、早く私を倒しなよ。今なら攻撃し放題だよ」


 ウキワは心の中で嘲笑いながら、ルシラスに催促する。


 彼女の狙いは、一つでは無い。ルシラスの行動パターンに応じて、今後の展開を自らの手で分岐させているからだ。


 まるで、後出しジャンケンのように、自らが有利になる状況を意図的に作り出し、たとえ、イレギュラーが起きたとしても並外れた判断力と実力で勝利か引き分けに持っていく。それがウキワの戦い方なのである。


「恐らく、お前はダメージを喰らいたがっている。だが、俺の闇刃追尾をむやみやたらに受けようとはしない。その結果、お前に何か考えがあると踏んだ俺は一度攻撃を辞める。合理的な判断だと思わないか?」


 その瞬間、スキルの効果が切れたのかウキワが抑えていた剣が地面に落ちた。


「その推理は正しいかもね。だけど、選択肢は思考やスキル、行動によって無限に変化する。どの選択肢を辿っても、結果は変わらないから」


 ウキワは落ちた剣を拾って、ルシラスに投げつける。ルシラスは戻ってきた剣の砂を払いつつ、左手で拾った。


「確かに、俺がスキルを使ったとしてもMP(魔力)がジリ貧になるだけで、本気のお前には届きそうにない。だが、それはお前も同じ。不毛な戦いになるのは間違いない。そこで、一つ提案がある。の使用を禁止にしないか」


「ほう……」


 ウキワは『何言ってんだコイツ』と心の中の自分に言い聞かせながら眉を顰める。


「承諾するかしないかはお前に任せる」


「じゃあ、もしそれが成立したとして、どちらかがスキルを使ったらどうなる」


「別にどうにもならないさ。それも作戦のうちだからな」


 ウキワは心の中で『それじゃあなんの意味もないだろ』と自分に言い聞かせる。それでもウキワは首を縦に振って頷いた。こういうものには乗った方が面白いからだ。


「さあ、かかってきな」


 ウキワが軽く手招きをすると、ルシラスは秒速で詰めてくる。漆黒の剣と紫色のオーラを放つ鎌が幾度となくぶつかり合う中でウキワは不思議な違和感を覚えた。


 目の前で退治しているルシラスは、今までのルシラスではない。まるで、別人と何ら変わりない動きをしている。


 ルシラスはスキルの効果で強くなったのでは無い。仮にスキルで自分自身にバフを入れているのだとしたら、必ずエフェクトが発生するからだ。


 故に、選択肢は一つしかない。


……か」


 バウンティ・クロニクルにおける武器はレアリティが存在する。レアリティは☆1から☆6まであり、最高レアリティは☆6と定められている。


 ☆6武器は他のレアリティの武器とは天と地の差だ。というのも、☆6武器には特定の条件を達成する事で発動する能力が備わっているからである。


 バウンティ・クロニクルでは、それをスキルとは言わない。『加護』である。ルシラスは何らかの条件を達成し『加護』を得たのだ。


 故に、スキルを禁止させたのはその条件を達成するため。つまり、ウキワはルシラスの策にまんまとハメられたのだ。


「どうした? 裏切らないのか?」


 一方的に責められ、ウキワは頬に剣を掠める。次に腕、そして足。ルシラスの猛攻に耐えきれずウキワのHPはどんどん削られていく。


 ルシラスの罠にハマってもなお、ウキワは諦めなかった。なぜなら、これもウキワの戦略の内だからだ。


「ありがとう、私のためにゲージを貯めてくれて」


 その瞬間、ウキワは両手に携えていた二つの鎌を繋ぎ、手捌きで回転させながら水平に振るった。


「なっ……」


 ルシラスが左手に持っていた剣は、リーチの長い鎌に刈り取られ、はるか遠くへ飛んで行った。


「あんたは私の武器を街で買える星5の製造武器だと思っていた。だから、私にスキルを禁止させ、武器の加護のみで倒そうと企んだ。けど、私の武器は星6。つまり、どういうことかもう分かるよねぇ?」


「まさかスキルで……」


「そう、幻想を見せてただけだよ」


 ウキワがそう告げると、武器の色合いが変わった。


「ここまで……読んでたのか」


「読んでたわけじゃない。誘導させたんだよ」


 鎌を振り回しながら近づき、ウキワはいつもの様にニヤリと嘲笑う。


「ハハッ……やっぱ敵わないな。妹には」


 ルシラスは右手に持っていた武器を落とし、両手を上げた。


「じゃあ、また」


「ふん……」


 ウキワはルシラスを容赦なく木っ端微塵にして、ルシラスに勝利を収めると、大きな歓声が上がった。


「さて、問題は……」


 ウキワがそう呟くと、次のプレイヤーが姿を現す。そのプレイヤーネームは『フウリ』という名だった。


 

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バウンティ・クロニクル~賞金狩りのVRMMO~ アトラ @atora58

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