第58話 ギルド対抗賞金トーナメント 其ノ漆

 ヒナウェーブとウキワの活躍により、鬼怒哀楽を粉砕した俺たち月光輪は、決勝戦へ進むこととなった。


 対戦相手はファンキーナイトメアを倒し、決勝へ上がってきた断光。ルシラスが率いているギルドなのは承知しているが、それ以外何も情報がない。ウキワとの交戦以降、一度も見かけてないからな。


 ――きっと何か企んでいるに違いない。


 そんな事を考えているとウキワが凛々しい表情でギルドルームに戻ってきた。


「よくガエンに勝ったな」


 俺はウキワに軽く声をかける。


「ふん、当然でしょ?」


 ウキワは椅子に座るとドヤ顔でそう言った。


「当然というか必然だろ。アイツと組んでたんだからなぁ」


って何のこと」


 ウキワは残しておいたお菓子をパクつきながら、わかりやすくしらばっくれる。


「ガエンと手を組んだのはなにか理由があるんだろ」


「別にアイツと手を組んでた訳じゃない。私に借りがあったからそれを返してもらっただけ」


「ふーん」


 ウキワの言うことは毎回嘘だと思って聞いている。故に大抵の事は俺の頭に入っていない。それでも精査を続けている理由ワケは、ウキワを打ち負かしたいが為である。


 一時的な協力関係だからこそ、今のうちに情報を探っておこうという算段だ。


 ウキワの手のひらで踊らされているのは重々承知している。でも、今はこれでいい。諦めなければいつかはボロが出るはずだ。多分。


「で、決勝戦の作戦はなんかあんのか?」


「無い。臨機応変。以上」


「大雑把だなぁ」


 これが強者の余裕と言うやつだろうか。決勝で大衆に見守られながら負けて欲しいという思いもあるが、それはダメだ。それで賞金を手に入れることが出来なかったら一生後悔するだろう。


「まあ、二人とも頑張ってー。うちはここでのんびりしてるからさ」


 ソファーに寝っ転がりながら、目を閉ざしていたヒナウェーブはそう言った。きっと、ヘッドホンでロックな音楽でも聴いているのだろう。全く、呑気にも程がある。


『まもなくギルド対抗賞金トーナメント決勝戦が始まります。出場選手は準備を始めてください』


 ギルドルームのモニターから女性のアナウンスが聞こえた。


「じゃあ、行ってくる」


 ウキワは席を立って、転移エリアに足を運ぶ。


「おい待て」


 俺が呼び止めるとウキワはその場で立ち止まった。


「なに」


「お前がこの大会に出たかったのは何が理由だ? ルシラスを屠るためか?」


「私が負けてここに戻ってきたら教えてあげる。でも、私が全勝したら言わない」


「はぁ? なんだよそれ」


 ウキワには賞金とは違う何か他の目的があると推測していたが、今この瞬間、それが確信に変わったのだった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ギルド対抗賞金トーナメントの決勝戦はフィールドの抽選は行われない。すなわち、正真正銘一体一での勝負になる。


 じゃあ準決勝はなんだったんだという話になってくるが、運営の意図を汲み取ろうとするのは辞めておこう。


 それはそうと決勝戦の対戦カードが決定した。相手はウキワの実の兄であるルシラスである。


 まさか、初戦から兄弟対決とは思わなかったが、まあウキワの圧勝だろうと俺は睨んでいる。ルシラスをボコボコにしたあの試合を目の前で見たらそう言わざるを得ない。


 だが、あの時ルシラスがわざと手を抜いていたとしたら――いや、考えるのは止めだ。この戦いをしっかり見届けよう。


「まさかお前からだとはな」


 ウキワが目の前に現れると同時に、ルシラスはそう呟いた。


「そこまで驚くことじゃないでしょ」


「いや、意外だったんだよ。てっきりヒナウェーブかルアが来るんじゃないかと思ってたからな」


「あの二人と戦いたいならまず私を倒さないとね」


「なるほど。準決勝はお前が蹴散らしてきたってことか……流石は俺の妹だ」


 適当な嘘を信じるルシラスを見て、ウキワは悪い笑みを浮かべる。


「で、そっちはどうなの」


「控えはいるとだけ言っておく。だが、お前を易々と通させはしない。俺にもプライドはあるからな」


「わざと負けられたら面白くないに決まってるでしょ」


「いや、お前が言える立場じゃねぇだろ!」


 ウキワはルシラスに背を向け、フッと笑った。

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バウンティ・クロニクル~賞金狩りのVRMMO~ アトラ @atora58

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