第57話 ギルド対抗賞金トーナメント 其ノ陸
虹色に輝くガエンと対照的な紫色のオーラを放つウキワは、直立不動のガエンを見向きもせず淡々と六つのスキルをセットしていく。
そして、ウキワの準備が終わると同時にフィールドの抽選が行われた。どうやら「沼地」に決定したようだ。
「そう言えばさっきの考察がどうたらこうたらっていうあれ何?」
「ガエンのスキルについてだよ」
「あー」
俺の中のガエンは「眩しくて速い」というイメージしか無い。その為、最も重要な「スキルをウィンドウで操作するタイプ」なのを忘れていたのだ。
「ガエンと戦った時、何か心当たりがあったんじゃない?」
「そうだな……気のせいかもしれないけど、いきなり重力で押しつぶされたような感覚があったくらいか?」
「そう、それだよ!」
ヒナウェーブは声を大きく張り上げると、人差し指を俺に立てる。
「あれって、やっぱりスキルのせいだったのか」
「まあ、そうなんだけど……ガエンのスキルはちょっと特殊みたいなんだよね」
「ふむ」
俺が言うのもなんだが、確かに奴は色んな意味で特殊だ。砂漠で鉢会った時だって、奇襲すれば良かったのに普通に話しかけてきたしな……。
害悪ギルドに所属しているとは思えないほどアイツは紳士的だ。
「まあ、一回見た方が分かりやすいかも」
「ああ、しっかり見とく」
モニターには入り組んだ森を進み続けるウキワの姿が映っていた。どうやら、泥沼に足を取られているようだ。
一分……二分と時間が経つにつれて緊張感が走る。
そして、遂に試合が動き出したのだった。
ウキワの死角から一つのチャクラムが飛んできたのだ。
「今、見た?」
持ち前の反射神経と身体能力で回避した直後、ヒナウェーブはそう言った。
「若干、反応速度が遅れてたな。それに動き出しも遅かったような気がする」
「チャクラムを中心に一定の範囲内にプレイヤーが入るとデバフがかかるようになってる。多分、今のは
「デカイチャクラムが飛んできた時、スキルの詠唱が遅れたのもそいつが原因って訳か……」
「一番ヤバイのは同時にスキルを使用すれば効果を重ねがけできるところ。それに、ガエンはスキルを詠唱しないタイプだから厄介なのよね」
砂漠でガエンと戦った時、確かに嫌な相手だとは思っていたが解説されると、余計嫌になってきた。そもそもスキル云々より、服が眩しすぎて戦う気が失せるんだよな……。
とにかく、ウキワにはコイツに勝って欲しいと願うばかりである。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ウキワは次々に飛んでくるチャクラムを横目に、木の影に隠れて時を待つ。
しかし、ガエンも堅実なのか、なかなか詰めようとはしてこない。ひたすらチャクラムを投げ続ける事で牽制しているのだ。
もし、位置がスキルによってバレているのだとすれば、回り込んだり角度を調整して当てることも出来る。
にも関わらず、ひたすら牽制してくるのには何か意図があるかもしれないとウキワは悟った。
考えられることと言えば時間稼ぎの為だろう。
このフィールドは遮蔽物も多く、沼地という設定のため戦いにくい。故に、時間を稼ぐことで闘技場での決闘を見込んでいるのだ。
だから、ガエンの作戦に乗ってみることにした。
「さっきからずっと牽制してるけど、それってこのフィールドが戦いにくいから?」
「いや、僕は君を危険視しているだけだよ。迂闊なことは出来ないからね」
「それはどうも」
ウキワもガエンのことは注視していた。それは相手も同じだったという訳だ。
「で、どうするの。この状況何も面白くないけど」
「君が面白くするか、僕が面白くするかの二択だよ。どちらかが仕掛けることで状況は動く」
「当たり前のこと言われても困るんだけど」
「なるほど、君は見た目以上に面倒臭い人なんだね」
「うん、よく言われるよ」
その瞬間、巨大化したチャクラムが細い木を全て切り倒しながらウキワの元へ向かってきた。
チェンソーのような耳障りのある音に反応したウキワは軽く後ろに下がり、漆黒の鎌を構える。
「
ウキワは二つの鎌をクロスさせチャクラムを受け止めつつ、スキルを使用してバフを入れる。しかし、徐々に押されていく。
チャクラムの威力を上げるバフと自身へのデバフに加えて、チャクラムの回転力が爆発的な威力を生み出しているのだ。
ウキワがそれらを知っていたにも関わらずチャクラムを避けずに受け止めたのは二つの理由がある。
一つ目は、その威力を体感しておく事で今後の指標になるから。
二つ目はそれを踏まえた上で攻撃に転じることが出来るからである。
「
ウキワがスキルを使うと、目の前に禍々しい鏡が現れる。そして、一秒もしない内にチャクラムは鏡に吸い込まれてしまった。
もう一つの鏡は沼の池の奥底に沈めてある。故に、チャクラムは泥に速度を奪われガエンの手元には戻らない。
「よし……」
ウキワは泥沼に翻弄されながら声とチャクラムが示したガエンの元へ駆ける。
しかし、見当たらない。
身を引いたのか隠れたのか――否、背後からの攻撃だ。
「
ウキワはスキルで鉄の鎖を出現させ、ガエンの動きを封じようとするが、二本の巨大なチャクラムによって一瞬にして切断されてしまった。
この
したがって、防御力に全振りすればより強力になるのだが、ウキワは一度も防御力にポイントを割り振った事がない。
また、相手が短時間で高火力を生み出すチャクラムということもあって意図も簡単に粉砕されてしまったのだ。
鎌とチャクラムが何度も衝突し、ポリゴンの火花が散る。
「何で武器がもう一本ある訳? あれはドブに捨てたはずだけど」
ウキワは鍔迫り合いになりながら、ガエンを下から見上げる。
「僕のチャクラムはどんな状況でも戻ってくる。スキルを使えばね」
「なるほど、いい情報をありがとう」
ウキワはそう言いながら、チャクラムを弾き飛ばし、攻撃パターンを変えた。
斜め、下、右、左――。
あらゆる方向から鎌を振り下ろすが、ガエンはチャクラムで全て弾き飛ばす。まるでボクシングのミット打ちのように。
だが、ガエンの顔は引きつっていた。
デバフが掛かっているにも関わらず、的確に対応しているウキワに驚いているのだ。
「ほら、もっと私を楽しませてよ」
「僕をなんだと思っているのかな?」
「どう考えてもサンドバッグでしょ」
ウキワはニヤつきながら言った。
「なるほど、それは面白い……発想だねぇ」
ガエンの顔色は少しづつ悪化していく。
「まだ使ってないスキルが一つあるはず。それを使わないってことはなにか理由があるのかな?」
「使っても通用しないのは分かりきっちゃったからね」
「それでも戦い続けるのは、何か秘策を隠しているとかだったりしてね」
「じゃあ投了するよ、ほらっ」
ガエンは防御するのを辞めスキルの効果が切れて小さくなったチャクラムを泥に落とす。
「六つめのスキルを使えば私を倒せるんじゃないの」
「使っても倒せないのは分かり切ってるからね完敗だよ」
「へー、そのギルドに所属しておいて裏切らないんだ」
「別に僕は害悪なんてしたい訳じゃない。ただゲームを楽しみたいだけ。そもそも僕はあの二人に巻き込まれただけだからね」
「それは初耳だけどまあいいや、取り敢えず私の案に乗ってくれてありがとう。このお礼はどこかで返す」
「別にお礼なんて要らないけど貰えるもんは貰っておくよ。さっ、早く僕を殺しな」
「はいよ」
ウキワはガエンに言われた通り、体を鎌でギッタギタにし、無事勝利を収めたのだった。
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