ボーナスゲーム

初動武器配布

「お前こんな時間に買い物してんの?てか首輪?なんか飼ってたっけ」


 当たり障りもない誰でも行くようなショッピングモールのペットショップで、両手に首輪を持ち唸っていると、聞き覚えのある声が横から聞こえた。


「飼ってたというか、昨日飼い始めたというか?」


「ふ〜ん、やっぱ猫か?」


「んゃ?人間。昨日拾ったんだ」


「ほーー……はぁ?お前、すぐ捨てるか処分するかだろやめとけって」


「止める理由がそこなのがお前らしいよ」


 相変わらずズレている友人だなと思いつつ僕がしたことを聞いていないのかと問う。


「ねぇ、そっちにはまだ情報いってないの?」


「んなわけねぇだろばーか。……猫でも人間でもいいから手離したくないのならそいつに甘えとけ、相棒。」


 酷く不器用な不安をにじませた声と、眉をひそめて務めて真剣です、という顔を近づけられては適わず、ただ返事をすることしか出来なかった。 


「分かってるよ、相棒。お前も気をつけて」


 言うだけ言って気が済んだのか、そういった頃には既に踵を返して歩いて、軽く手を振っている背中が見えた。


――

 くうくうと不思議な寝息を聴きながら、薄紫色の髪へ指を通す。買い置きされていたシャンプーとヘアオイルの匂いが僕と一緒で、ほんの少しだけ所有欲が埋まった気がした。起きて欲しいような、今起きられると面倒なような。

そんな矛盾した思考に自嘲しながら、猫のように丸まって眠っている綿凪の体を動かし、ふわふわと乱れている髪を退かして。起こさずにやるとなると少し大変だったが、指した苦労はなく無防備な体を目の前に晒してくれた。


「さすがに服は難しいかなぁ」


 大量に買ってきた服と下着は一旦別にし、本命の高価そうな箱と、速達で頼んでコンビニ受け取りした安っぽいダンボール箱を並べて。そこまですると抑えていた笑みが広がり、とりあえずとダンボール箱を開ける。

 中に入っていたのは重そうな鎖の先に輪が着いた拘束具。所謂足枷が2個、居心地の悪そうに収まっていた。最初は鍵の動作確認のために足を通す部分の開閉を繰り返して、気が済んだなら、なんの抵抗もなく持ち上がった綿凪の片足へゆっくりと足枷をつけた。

ガチャンと、あまりにも呆気なく捕まえた足に、ぞくぞくと背中を駆け上がる快感を覚えつつ、もう片方の足も自由を奪う。極めつけに枷が着いていない方の鎖を、壁に無理やりめり込ませた別の金具につけ、引っ張る。


「うん、僕で壊れないなら大丈夫だね。」


 歓喜に滲んだ独り言に、眠っていた少女がこてんと寝返りを打つ。頬をつつけば、ものを食べているように口が動く。調子に乗って続ければ、閉じていた瞳がぱっちりと開き、こちらを見つめてくる。


「おはよ、?」


「おはよう。よく寝れた?」


「……たぶん。お兄さんは、機嫌良さそうだね」


「そりゃもちろん。だって、」


 寝転がったままの足に繋がれた枷を撫でて、ね?と微笑みかければ少女は恐怖と困惑の表情をみせたと思えば、一瞬のうちに元に戻るどころか、笑顔になる。


「お兄さん」


「なぁに?怖くは無いみたいだけ、ど……」


 言い終わる前に、制限された足で布団を蹴り、僕の胸元に飛び込んでくる。極めつけにこてんと首を傾げ、まん丸の猫みたいな瞳が、僕のことを見透かすように上目遣いをする。


「ん、これで満足?」


「……全然。ちょっとそのまま大人しくしててもらっていいかな?」


「私、お兄さんの前で暴れたことほぼないけど」


 それは確かにそうか、と思いつつ避けていた高級そうな箱を開ける。

ベルベットに包まれた箱の中には、リボン素材のチョーカー。トップ部分には変わった色の宝石。

 首につけてやり……金具を、止める。

瞬間、綿凪がふるりと身震いし、不安そうにこっちを見上げてくる。頬を撫でながら言葉を促すと、ぽつり、ぽつりと話し始めた。


「これ、高いものなんじゃ……それに、魔法、?」


「値段あんまり見てなかったから気にしなくていいよ。色が似合いそうだなって思ったのと、自然石の方が魔力が篭もりやすいって話を聞いたからそれにした、みたいなところあるしね。」


 そう、魔法。この世界にある超常現象のひとつ。と言っても、物語の中のように火を起こしたりなんて何かの現象を発生させることは出来ない。僕たちができるのは、"干渉"のみ。物の本質はそのままに、変わってもいいものを弄って足掻くための力。

 僕が今回首輪、元いチョーカーにかけたのは、"宝石が砕けない限り、チョーカーは破壊不可能"というもの。つまりは、脆いチョーカーの強度を、宝石と同じところまで引き上げるよう干渉した。さすがに宝石本体が砕けたらチョーカーは壊れてしまうけど。


「その宝石が砕けるような自体が起きる時は、そもそも綿凪ちゃんは死んじゃってるだろうから」


「ん、楽しみ」


 安心させる為に言った事にそんな反応を返されるのは不服だけれど、仕方なく綿凪を抱きしめ直す。


「お洋服もたくさん買ってきたから、気に入ったものを着ていいからね。さすがにその時は足枷を外してあげるし。家具は、引越し先が見つかってからになっちゃうけど。」


「ほぇ、引っ越すの?」


「僕的にはここで問題ないんだけど、この部屋ってバスルームがないじゃない?普通の小さい一軒家だから個室にある方が稀なんだけどさ。」


「そうだね、?」


「今はずーっと綿凪ちゃんの傍に僕がいるけど、少しずつ仕事をしたいからさ。別に組織に依存してやってた訳じゃないし、個人的な取引は問題ないから。」


 よく分かっていなそうな顔に苦笑しつつ、今後の予定を伝えていく。綿凪がどう思っていようと、君を離すつもりが僕には全くないし。


「1日、2日と家を空ける日が来るとして、その時部屋から出られないのはまずいでしょう?あぁ、それとも……」


「ぐちゃぐちゃになって僕がいないと何もさせて貰えない生活がお好みかな?」

 

「!?やっ……」


 拒絶を見せた綿凪の背中をぽんぽんと叩きあやしながら、この子が普通に暮らせる生活を考える。

死にたいとか消えたいとか、そんなことを思うのはどうでも良くて。ただ、この生暖かい泥沼の底まで、僕と一緒に。


「お兄さん……?」


微笑をみせる僕を不安そうに見ている顔に、軽いキスを降らせて。そんな地獄へ、想いを馳せた。








・補足


・この世界での魔法

 お兄さん(眞くん)が説明してくれた通り。

 俗に言う無属性魔法のようなものが一応ある。ただ、戦闘面で一々それを使う物好きは滅多におらず、物理攻撃の方が強い。教えてくれる人が滅多に以内だけで、基本的には誰でも扱えます。


"干渉"といっても宝石という"硬い素材の自然製無機物"だから扱えただけで、植物に干渉を起こして急成長を促す、マッチに干渉して、炎を起こす、等は出来ません。


何を言っているか分からないと思いますが、とりあえずは、使い勝手の悪い浪漫スキルと思って頂ければ大丈夫です。(宗教系の"奇跡"はまた別)


ーー"魔法"

それは、使い勝手の悪い残念な"奇跡"

そんなものには誰にも頼らず、だからこそ夢が詰まっている

だからこそ。天国も地獄も関係なく、万物に下手だりなく、夢見ることが出来るのだ。


 


・綿凪の首輪(チョーカー)

 黒いリボン製のチョーカー。さすがにペットショップではなく高級デパートを梯子した末に見つけたもの。

さすがに急だったためオーダーメイドではなくセミオーダー。

(布地と金具と宝石を選んで、魔法が掛けれる下地だけお店でやってもらった上で、魔法だけは自分でかけたらしい。)


 付いている宝石は「バイカラーサファイア」(天然)

見る方向によって違う色に見えるサファイア。

全体は青と緑ベース。


――"服従のチョーカー"

"慈愛"と"忠実"を意味するもの

主人以外の人間が外すことすら許されない

この世界の魔法はたしかに不便だが、少なくとも"これ"にかけられたモノは、かの有名な妖精の魔法使いとは違う

時が経とうとも、"これ"が消える事は有り得ないのだから。

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この辛く苦しい世界で ボーナスゲームを わたぬい @watanui

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