第41話ヘンデルバーグ辺境伯の決断②
領民と同じように、グリッチ特性の牢屋に閉じ込められたヘンデルバーグ。
その視線の先には、領民たちの姿がある。
「皆、すまぬ・・・」
自身の判断が愚行だったと今更ながら後悔した。
一人、牢屋に閉じ込められ、項垂れていると
この牢屋が並ぶ倉庫の扉が開く。
ガラガラと大きな都梅らが開いた先には、
数人の人族が、大きな荷台を牽きながら近づいてきた。
そして、牢屋の前で止まると、人数を確認している。
「おし、全員いるようだな」
人族の男は、慣れているのか
律儀に並んだ魔族に一人、一人、食事を配り始めた。
その様子を見ていたヘンデルバーグが気付く。
──皆、どうして、そんな笑顔なんだ・・・・・
右も左もわからない異世界で、捕らえられているのに
食事を受け取った途端に、
見たことの無いような笑顔を見せている領民たちの姿に、
段々と困惑してくる。
しかし、それも自身が食事を受け取り、料理を口に運ぶと
その理由を理解した。
「う、旨い!」
向こうの世界では味わえない程の旨さに、
感嘆を漏らす。
無我夢中で食べ進めると、あっという間に
皿は、空になった。
「もう終わりか・・・」
もう少し欲しい・・・その欲求に勝てず
先程、食事を配っていた人族の男に声をかけた。
「おい、そこのお前、食事は、これで終わりなのか?」
「ん?たしか、先程、連れてこられた魔族だな。
もしかして、食事が足りないのか?」
「あ、ああ、もう少しいただけるか?」
その問いかけに、配給の男は、スープの入ったバケツの蓋を開けて
新たに食事を注ぎ、ヘンデルバーグにおかわりを渡した。
「うん、やはり旨い」
今度は、ゆっくりと食事をしながら辺りを見渡すと
他の魔族たちも、次々とお代わりを要求し、満足そうに
食事を堪能している。
それだけではなかった。
日が落ち、夜になると、今度は、武装した人族が入って来た。
彼らは、手前の牢屋の鍵を開けると、中に入っていた魔族たちを
何処かに連行してゆく。
だが、連行される者たちの様子がおかしい。
皆、笑顔を見せているのだ。
連行されてからしばらくすると、先程の魔族たちが戻ってきたのだが
全員が、体から湯気を放っていた。
「やっぱり、風呂はいいなぁ」
「ああ、毎日入れるし、食事もうまい。
本当に捕らわれているのかと思ってしまうぜ」
彼らは、そのような事を口にしながら、牢屋へと戻って行く姿に
ヘンデルバーグは、困惑するしかない。
「あの者たちは、何を言っているのだ・・・」
確かに、食事は旨かった。
だが、風呂は、向こうの世界にもあった。
それなのに、そこまで感心するものなのかと
考えていると、牢の鍵が開いた。
「入浴の時間だぞ」
男の言葉に従い、牢を出た後、風呂場へと連行される。
風呂の入り口と思われる場所には、
紺の布に、何やらこちらの文字と思われるものが描かれていた。
「男は、こちらだ」
紺の布を潜り、中に入ると、案内した男が使い方を説明してまわる。
一通り説明を受けた後、ヘンデルバーグは、衣服を脱ぎ始めた。
今までなら、メイドが付き添い、服を脱がせてもらい、体を洗ってくれていた。
だが、ここでは、そのような者はいない。
すべて、自分でしなければならないのだ。
その為、少し不自由さを感じながらも、男の説明通りに
脱いだ服をかごに入れ、浴場へと向かった。
湯気の立ち込める浴場には、大きな風呂があり、
その奥には、重厚そうな木の扉がある。
「あそこが、サウナとかいう場所だったな」
体に湯をかけた後、ヘンデルバーグは、その足で
サウナへと向かう。
重厚そうな扉を開けると、熱気が襲い掛かる。
「うおっ!」
思わず声を上げた後、ゆっくりとサウナ室に入ると
針を刺すような熱さを感じるが
嫌な熱さではなかった。
「これは良いものだな」
感心しながら、段差のあるところに腰を下ろし、
この熱さを堪能する。
ゆっくりと流れ始める汗。
それを小さなタオルで拭う。
すぐに汗が流れ始める。
また、小さなタオルで拭う。
この動作を何度か繰り返した後
ヘンデルバーグは、サウナ室を後にする。
「なかなか良いものだった」
満足し、そのように独り言を呟いたとき、
案内してくれた男の言葉を思い出す。
──『サウナの後に、水風呂に入ると気持ちいいぞ』・・・
「水風呂か・・・」
言われた言葉を思い出したヘンデルバーグは、水風呂の前に立つ。
「それでは・・・・・」
軽く足を入れるてみると、水の冷たさが、普段以上に感じ、
思わず声が漏れた。
「冷たいっ!」
及び腰になるが、覚悟を決めたヘンデルバーグは、
水風呂へと、飛び込んだ。
「つ、冷たいっ!!!」
思わず叫ぶが、時が経つにつれ、その冷たさが気持ちよくなってゆく。
火照っていた体が鎮まる感じ。
嫌いではなかった。
暫く浸かっていると、頭の中もクリアになる。
我ら魔族と人族との戦闘。
魔王の追放。
異世界への侵攻。
ここ数年の出来事を思い出すと
全て戦いだった。
落ち着いて食事をし、風呂に浸かる。
たったこれだけのことも、出来ていなかった。
「わしは・・・・・何をしていたのだ・・・」
一人、水風呂の中で、考え込むヘンデルバーグ。
異世界の魔王、現代に降り立ち正義を貫く タロさ @semimushi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。異世界の魔王、現代に降り立ち正義を貫くの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます