第40話ヘンデルバーグ辺境伯の決断①
配下の兵士を全滅させられたヘンデルバーグは、魔力封じの手錠を掛けられた後
ピオーネとグリッチの間に挟まれ、連行されてゆく。
先程の戦闘の場所より奥に進んでいくと、
一際厳重に警備された倉庫へと辿り着いた。
「着いたぜ」
ピオーネが合図を送ると、大きな扉が開き始めると
ヘンデルバーグは、愕然とする。
「これは・・・」
そう、ヘンデルバーグの目に映ったのは、先発で送った領民たちの姿だった。
思わず足が止まる。
「生きていたのか・・・」
その声に、領民たちが反応を見せた。
「領主様!」
「領主様!!」
呼びかけられる声に、震えが走る。
「お、お前たち・・・」
どうやら、領主として、ヘンデルバーグは優秀だったらしく
皆から慕われていたことがわかるが、それだけに
今回のことは、悔やまれて仕方がない。
「皆、すまぬ」
足を止め、俯くヘンデルバーグに、ピオーネが声をかけた。
「さっさと歩いていただけるかしら?」
「あ、ああ・・・」
領民たちが、囚われている牢屋の間を奥へと進んでいくと
一段高くなった場所で、椅子に座っているラプロスの姿があった。
「ヘンデルバーグよ、久しいな」
「魔王様・・・」
「なんじゃ、わらわを魔王と呼んでよいのか?」
「それは・・・」
口ごもるヘンデルバーグの姿に、思わず笑みをもらした
ラプロスが話を続ける。
「まぁ、そんなことはどうでも良いのだが、ヘンデルバーグよ、
貴様に聞きたいことがある」
ラプロスと視線を合わせたヘンデルバーグに告げる。
「答えろ、この世界に、何の用があって来た?」
先程見せたような笑みは消え、魔王覇気を放ち
鋭い眼光で、睨みつけるラプロスに
ヘンデルバーグは思わずたじろいでしまう。
「おい、何とか言ったらどうだ。
それとも貴様は、仲間がいないと何も申せぬのか!」
叱咤されるがヘンデルバーグは、何も言うことは出来ない。
「おいっ!!!」
声を張り上げたラプロスに、ひれ伏すことしかできないヘンデルバーグ。
その光景に、ため息を吐きながらグリッチが割って入った。
「辺境伯様よぉ、あんた、このままだと捕らわれている領民たちの命はないぜ」
その言葉に、思わず振り返るヘンデルバーグ。
そこに見えるのは、牢屋に閉じ込められている領民たちの姿。
彼らは口々に、ヘンデルバーグの名を叫んでいる。
この様子から、領主として領民たちに慕われていたことはわかるが、
それとこれとは別だと言うように、ラプロスが言い放つ。
「貴様の一言で、この者たちは命を失うことになる。
よいか、この先は、一言、一言に責任をもって口にせよ」
ヘンデルバーグは、ラプロスに向き直ると、深く、深く、
頭を下げた。
「ラプロス様、いや、魔王ラプロス様、
この度の不始末、全て私の責任です。
この背後にいます我が領民たちは、ただ、ただ、私に従ったに過ぎません。
ですので、どうか、彼らには恩赦を・・・」
倉庫の冷たいアスファルトの床に額を付け、必死に懇願するヘンデルバーグ。
その姿を見て、ラプロスがゆっくりと口を開いた。
「貴様にも、そのような態度が取れるのだな・・・
それだけに、此度の愚行は、信じられぬ。
魔界で、いったい何があったというのだ」
ヘンデルバーグが口を開く。
「これといって、何かあったわけではありません。
ですが、魔王様がいなくなってから、表面上は取り繕っておりますが
実際はお互いを牽制しているような状態で・・・」
「ふむ。
次の魔王に誰がなるかという事か?」
「はい」
「くだらぬ。
魔王というのは、誰もがなれるものではない。
魔王は産まれた時から、魔王と決まっておるのだ。
そのことを、貴様らも知っておるはずじゃ。
それなのに、何故、そのような馬鹿げたことを考える?」
「・・・」
「まぁ、よい。
今のわらわには、どうでもよいことよ。
それよりもだ、今後、貴様はどうする?
大勢の兵士、いや、全ての兵士を失い、残されたのは
武器を持たぬ領民たち。
この状況で、まだ、わらわと事を構えるか?」
「それは・・・」
ラプロスの話は続く。
「ならば、魔界に戻り、魔王になろうと思うような考えは捨て
領民と共に、与えられた領地で生きてゆくのか?
まぁ、兵士のいない今、攻め込まれたら、大変なことにはなるは明白じゃ。
しかし、これも、貴様のまいた種だ。
最後まで責任を持ち、自身の手で摘むしかないがのぅ。
少しこの場で、考えるがよい」
それだけ伝えると、ラプロスは、倉庫の出口に向かって歩き始めた。
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