第39話ヘンデルバーグ辺境伯の末路
裏路地を通り、ピオーネについて大通りへ出ると、
そこには、小型のマイクロバスが五台止まっていた。
当然のことだが、運転手は私服に着替えた警察官たち。
当初、ピオーネはバスだけ用意してもらい
配下の半グレ達に運転手をさせるつもりでいたのだが
流石に、上村から、待ったがかかり、
私服に着替え、警戒させないようにした警察官が運転手を
務めることになったのだ。
そんな事になっているとは思わないヘンデルバーグと、
その配下の者たちが、指示に従い、次々とバスに乗り込む。
そして、全員が乗り込むとバスは、動き始めた。
行先は、臨海埋立地にある倉庫。
実はここ、これまでに捕らえた魔族の収容所となっており
既に、一般人の立ち入りは不可能な場所となっていたのだ。
大きな橋を渡り、臨海埋立地に入る直前には、検問があり
一旦、ここで止まる。
「あたしよ、奥にいる者たちにも、連絡するのじゃ」
「はいっ!」
警備の者が、連絡を始めたところで、バスは奥へと進み始めた。
しばらく進み、沿岸部の倉庫に到着すると
その倉庫の前には、ツナギのような作業着をきたグリッチが待機していた。
ピオーネがバスから降りると、グリッチが声をかける。
「無事に、到着したようだな」
「当然よ、このあたしが付いているのよ」
そんな会話をしているところに、ヘンデルバーグから
バスから降りてくる。
「貴様は確か・・・・・」
「辺境伯様、お久しぶりでございます。
悪魔族のグリッチでございます」
「そうだ、グリッチだったな。
それにしても、その恰好は・・・」
ヘンデルバーグが、そう思うのも仕方がないこと。
魔界にいるときのグリッチといえば、下級悪魔といわれていても
庶民からみれば、上級の悪魔。
綺麗で、高級な衣服に身を包んでいるだけではなく
城に出入りを許され、高貴な身分の方たちにも面識がある。
そんな彼が、今では、薄汚れたグレーの服に、ポケットには、汚れた布。
以前とは、全く違う装いなのだ。
それもその筈、現在も、同居(同棲?)をしている二人だが、
主な収入源である警察からのアルバイト料は、ピオーネが管理している。
その為、基本、グリッチの着る物は、ピオーネが買ってくる
安価なジャージと、特価で買ってきた作業服しかない。
たまにおしゃれなジャージを着ていることもあるのだが、
それは、配下の半グレが、誰かに引き合わすときに
今のジャージ姿では、まずいと思い、購入し、プレゼントした物なのだ。
まぁ、本人も気に入っており、不快な思いはしていない。
一方、ピオーネと言えば、毎月、二人分のアルバイト料を手に
インターネットで、欲しい衣服があればポチリ、
街で気に入った服を見つければ、値段も気にせず購入するという日々を
送っている為、貯金はない。
その為、ピオーネにあった時に、
ヘンデルバーグは違和感を覚えなかったのだ。
だが、目の前にいるグリッチは違う。
薄汚れた服装をしていたのだから、違和感をもっても仕方がないこと。
だから「それにしても、その恰好は・・・」という言葉が、口から出たのだが
グリッチは、気にする素振りもない。
「まぁ、辺境伯様から見たら、そうかもしれませんがねぇ。
この格好の方が、動きやすいんですよ」
その口の利き方に、ピオーネが驚いた表情を見せる。
「ちょっとあんた、そんな言い方をして・・・」
咎めるような口ぶりだが、実際は違う。
「もう、完成したという事?」
「ああ、だから、遠慮はいらねぇよ」
「そ、ならもういいのね。
じゃぁ、始めましょう」
ピオーネが、大きく手を振ると、
隠れて待機していた警察官たちが現れ、
止めていたバスに向かって、一斉に何かを撃ち放つ。
【バンッ、バンッ!】という音と共に、
バスの屋根とロープのようなもので繋がった。
そして、間髪おかず、電流が流される。
魔族たちの乗ったバスに流されたのは、高圧電流。
電流が流され、バスの色が変わり始めた頃、
もう一血の事態が起きた。
炎が上がったのだ。
そして、爆発した。
ヘンデルバーグの配下の者たちは、何もすることが出来ず
命を落とした。
バスから降りていたおかげで、命拾いをしたヘンデルバーグは
呆然としている。
認めたくないのだ。
「これは・・・夢なのか・・」
そんなヘンデルバーグに、ピオーネが声をかけた。
「辺境伯様、いかがなさいますか?
ご希望とあれば、地獄に送って差し上げますわ」
ピオーネの後ろには、腕を組んでじっと見ているグリッチの姿もある。
それだけではない。
少し離れた距離から、手には何か得体のしれない物を持ち、
こちらを伺っている者が大勢いることも
ヘンデルバーグは、理解していた。
「わかった。投降しよう」
「賢明な判断ですわ」
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