渇いているだけ
私は、その時自分が何を買いたいかで自分の心のを確かめることがある。特に書籍は顕著で、エッセイが読みたい時は自分の人生を肯定したい時で、趣味の小難しい本を買い漁ろうとする時は今の自分に納得できず焦っている時だ。
こんな不純な動機で積読を増やしてばかりでは、読書家の皆さんに軽蔑されてしまうかもしれない。けれど、これは私にとって大事な防衛本能のひとつなのだと最近やっと気づいたのです。
いつからか好きな物は私を表す記号になってしまったように思う。もちろんずっと読書は好きだし、音楽も、何かを作ることも好き。それでも幼い頃の輝きには出会えずにいる。
仕事は辛い、人間関係が希薄になる孤独感に苛まれる、趣味に没頭する心の余裕がない。
様々な陰鬱を抱え、漠然とした絶望感がまとわりついていた時期がありました。
何も楽しくない、何がしたいの変わらない。心躍るような輝きは幼さの中にしかないのだろうか。
そんなことを考えながら薄汚れた大人になった私の手近な輝きはネットショッピングにあった。何だか下品な輝きにみえたが、私は次第にインターネット“ウィンドー”ショッピングが日課になっていた。
幸いなことに、幼い頃の貧しい生活のクセが抜けずにいたことで大金を支払いに充てることはなかったが、それと引き換えに生まれながらにしての収集癖には拍車がかかってしまった。
本はもちろん、服や化粧品、グッズや用途の分からないものまでなんでもカートに突っ込んではそれだけで満足して眠った。
そんな生活を続けて数年経ち、あの頃を振り返ることが増えた。少しは心に余裕が出てきたのか、いや単に歳をとっただけなのかもしれない。それでも、今ならあの行為は無意味なんかではなかっだと思える。あれだけ欲しくてたまらなかったのに、結局買わなかったということは、あの時の私は本当に必要ではなかったということだ。あれは、宇宙の暗闇の中で自分の居場所を知るためのエコロケーションに近い。
ただ、渇いていただけ。
渇きを自覚できるようになれば、渇ききる前にまた補充すればいい。きっとそれはとても難しいことだろうけれど、この救難信号を気にかけて生きていきたいと思う。
追記:
そんな教訓と共に積読癖も少しは落ち着くかと思ったけれど、これだけは治らなかった。
これに関しては読書を愛する多くの人との「あるあるネタ」として笑いあっていきたいと思う。
生きている。それだけです。 薮柑子 ロウバイ @wisteria1230
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。生きている。それだけです。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
偏食家、塩大福はコーヒーと最新/大甘桂箜
★15 エッセイ・ノンフィクション 連載中 124話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます