生きている。それだけです。
薮柑子 ロウバイ
買い物の意味
「最近買って良かったものを教えてください。」
私が人との会話に困った時の鉄板ネタである。
これが案外面白い話に繋がることが多く、人見知りの私がそんなにエネルギーを使わず会話を弾ませることが出来るのでとても重宝している。
回答は三者三葉で、趣味に関するものであったり、奮発して買ったブランド品であったり、純粋に使いやすかったものを上げてくれた人もいた。その中でも面白かったのは紐を引いて野菜をみじん切りに出来るあれだ。紐を引いて中の刃を回転させる前に野菜をある程度の大きさに切らないといけない。少し大きめにしてしまうと、さながらサメ映画に登場するようなエンジンの掛かりにくいオンボロボートのようになって笑えるのだとか。
こういう話を聞くと、その人の日常の奥にあるキラキラした非日常が垣間見える。
先程のみじん切り器の話もそのうちの一つで、語ってくれたその人は大のサメ好きなのだそう。サメ映画はもちろん昔からサメの生体自体に興味があるらしくそこから話がぐんとディープなものになった。このサメは目が可愛いとか、サメと間違えられるがこの種はエイの仲間だとか、色々と教えてくれた。私はせいせい水族館で見られるようなジンベイザメやシュモクザメ、サメ界で最も有名であろうホホジロザメくらいしか知らなかったものだから、自分の浅学さに少し恥ずかしくなってしまった。
こんなふうに、一見代わり映えしないような日常の中にもその人の核となるような光が見えることがある。私はそれが好きだ。
星を掴まえたような顔をするかつての子供たち。その目にはいつだって超新星が宿っている。肩書きや役職、年齢や性別、時には言語の壁を越えて誰かの好きを語り明かしたい。何かと諍いの絶えない現代で煌々と輝く超新星を探していきたい。そんなことを考えながら買い物袋の中身を眺めた。
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