永久の呪い・『愛』
愛永久呪~アイトハノロイ~
「やあ、八坂さん」
「朝倉くん……」
何かに導かれるように大学内を歩き続けた僕は、その先にいた八坂さんに手を挙げて挨拶をした。
僕の姿を見ただけで全てを察した八坂さんは驚きの表情を浮かべた後、目を閉じて呟く。
「そう……田中さんが亡くなったのね……」
「……うん」
やはり、彼女もわかっていた。彼がどう足掻いても助からなかったということに。
同時に、僕が田中さんの運命を悟っていることもなんとなく理解していたであろう八坂さんは、僕へと視線を向けると口を開く。
「……あなたに、まだ話せていないことがある。とても残酷な話だけど、聞いてもらえる?」
小さく、彼女の言葉に頷いた僕が緩い微笑みを浮かべる。
どこか痛々しい表情を浮かべている八坂さんのことを見つめながら、僕は彼女の話を聞いていった。
「……夕陽辰彦があなたにかけた呪いは、完成していないと言った。それに嘘はない。だけど……消え去ったわけでもない。彼があなたにかけた、死ぬよりもつらい苦しみを味わい続ける呪いは、今も確かに存在している。あなたが数々の怪異に遭遇したのもこの呪いのせいよ。そして――」
そこで言葉を区切った八坂さんが、口を真一文字に結んだ。
このまま黙ってしまいたい。だが、言わなくてはならない……そんな彼女の想いを感じ取った僕が息を吐く中、彼女が言う。
「――この呪いは、あなたが死ぬまで消えない。あなたは死ぬまで、死よりも恐ろしい怪異や呪いと出会い続ける。その呪いに身を滅ぼされるかもしれないし、恐ろしい目に遭いながらも天寿を全うできるかもしれない。あなたがどんな末路を迎えるのかは……誰も知ることなんてできない。それこそ、死んだ方がマシな終わりを迎える可能性だって十分過ぎるくらいにあるわ」
「……そっか。これからも、あんな呪いと出会い続けるのかぁ」
どこか他人事めいた口調でそう言いながら、苦笑を浮かべる。
僕のその顔を見た八坂さんは悲しそうに、つらそうに顔を伏せながら……こんな質問を投げかけてきた。
「……一つ、聞かせて。あなたはこの恐ろしい呪いから逃げようとは思わないの?」
「逃げる、っていうのは死ぬって意味かな? だったら、思わないっていうのが僕の答えだよ」
「どうして? 死ぬことよりもずっと恐ろしくて苦しい目に遭うかもしれないのに?」
そう問いかける八坂さんも、本当は僕がなんと答えるのかわかっているのだろう。
悲しみの感情を湛える真っ赤な瞳を見つめ返した僕は、明るく笑みを浮かべながらその答えを述べた。
「生きて、って言われたから。僕を守るために死んだまひるが、そう願った。だから僕は死ねない。彼女の命の上に立っている僕には、その愛に応える義務がある」
「……きっと、そう答えると思ってた。こうなるってわかってた。だから……聞かせたくなかったの」
僕の答えはシンプルで、誰もが予想できるもので……それを聞いた八坂さんも苦し気に呻きながら後悔を吐露する。
あの日、死ぬ前のまひるの言葉を聞いてしまった瞬間に、僕は彼女に呪いをかけられてしまったのだと……そうなることをわかっていながら、僕のことを止められなかった自分自身のことを、責めているようだ。
わかっている。呪われたのは僕だけじゃない。八坂さんはずっと前から、全てを理解できてしまうからこそ苦しんでいた。
罪の意識、後悔、悲しみ、喪失感……全てを抱えたまま、僕よりずっと前から呪われ続けていたんだ。
気が付けば、八坂さんは僕の胸の中にいた。
僕の胸に顔を押し付け、表情を見せないようにしているが……じんわりとした涙の感触が伝わってきている。
普通は逆のはずだ。死ぬまで続く恐ろしい怪異への恐怖でむせび泣く僕がいて、それを慰める八坂さんがいるべきなのだろう。
そうなっていないのは、これもある種の怪異だからなのかもしれない。
彼女の頭を撫でながら、お互いが生きていることを感じ合える呪われた者同士の存在である八坂さんを見つめながら、そう僕は思う。
(……スマートフォン、買い替えるのはもう少し先にしよう)
どうせ、この呪いを断ち切ることなんて出来はしない。引き摺って、苦しんで、それでも生きていくしかない。
愛は永久の呪いだ。まひるに
どんな負の感情より、どんな怪異や呪いよりも……愛という存在が何よりも恐ろしいということを、僕は知ってしまった。
僕がどんな終わりを迎えるのか、それは僕自身にも八坂さんにもわからない。
その日がくるまで、僕は生きていく。この呪いを、愛だと思いながら。
悲しみと憎しみと愛によって生み出された呪いたちに、心を抉られながら。
【愛永久呪~アイトハノロイ~】……了
―――――――――――――――
ここまで読んでくださってありがとうございました!
人生初のホラーであり、怖い話が苦手な人でも読めるホラーを目指して書いてみたんですが、どうだったでしょうか?
楽しんで読んでいただけたら嬉しいです!
また続きを書くかもしれませんが、一旦このお話はここで区切らせていただきます!
自分なりの呪いの形を書くことができて楽しかったです!
改めまして、ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!
良ければ別作品も読んでね!
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愛永久呪~アイトハノロイ~ 烏丸英 @karasuma-ei
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