王子なんてろくなもんじゃない
王子は袖を引き締めて歩き出す。廊下まで来て、3番目の部屋の前で止まると、首にかけた魔法石のネックレスを服の中から取り出しそのまま扉にかざした。すると、扉は粒子状の輝きとなって消え、黒い回廊が現れた。しばらくの間、靴の音のみ聞こえる空間を進むとやがてうっすらと光が見えるようになった。
光の先に到達して壁際を見ると、そこにはベッドで寝ている勇者がいる。その傍らには私の妹であるこの国の姫、ミッフィーが座り込んで寝ている。そして中央にはテーブル、その上にペットボトル、そしてペットボトル。足元には3枚の紙。本棚はやけに綺麗に整頓されている。
ここはマコトの記憶を頼りに再現した“元マコトの部屋“だ。マコトが昏睡状態から回復した時なるべく脳に刺激を与えない為、ミッフィーと力を合わせて作り上げた幻想空間だ。
(魔王討伐直後の今、こんなことをしていて手柄は一体何処へいくのかな)
と、私の悪い癖が出てしまった。
魔王が倒された今、正直この男を起こす理由はない。一国の王子と姫が同士に機能を停止するなんて前代未聞だ。それにこれは勇者といっても他人の家のクローゼットを漁るし、貴重な壺も端から全て割っていくような男だった。最低だ。でも、それでもマコトは向き合った。この国と、世界と、そして人と。
私はマコトと肩を並べて、同じ敵に立ち向かった仲間だ。これに振り回されるなんて慣れてしまった事だ。国政はどうせあいつが何とかするだろう、心残りも消化してる。
「右よし、左よし、心意気よーし。この国が第1王子、ロムアンド。君を助けにいくよ、相棒」
「…………接続開始」
そう言ってから気がつく。このままマコトの夢と接続し、私の意識を手放すのにこの汚れた部屋で、立った状態なのはあまりに分が悪いことを。
──────────────────────
「ぁぅぅぅうああああいあああああ!!!!!!!」
なんだ?何だか可愛い声が空から降ってくる。上を向くと白くてふわふわした髪の小さな女の子…そう可愛い女の子が降ってきていた。
「天空のラペタキャーーーッチ!!」
必死で腕を伸ばし女の子を受け止めようとしたが、どこぞの飛行石よろしく直前に衝撃を弱めてくれる展開は無かったようだ。女の子は俺の手より少し先、凄い速度で落下した地面と俺にも衝撃が走り土煙まで上がった。
「マコト!無事か?潰されてはないだろうな!」
マッチョはそう言って手刀で煙を薙ぎ払った。そんな事可能なのかと震えながら俺は答える。
「あぁ無事、無事だよ…でもさぁお前、この子の心配…とか……うわぁ…」
空から降ってきた女の子が落ちたであろう場所に人型の穴が出来ていた。それなりに深く落ちたようで、ここからだと底が見えない。
「これもう助からないんじゃ…マッチョお前、回復魔法とか使えねーのか?」
「確かに剣や魔法を使えなくもない。が、今使うと限りなく弱いぞマコト!使えるのは肉弾操術だけだ!ひと狩り…」
「言わせねーよ、はーもうどうすんだよこ……れ?」
壊れかけのロボットかのように俺は首を回した。即死間違いなしの高さから落ちた女の子がいるはずの穴から手が出てきている。うめき声と共に。
(というか、この女の子は誰なんだよ。俺の黒歴史ストーリーから外れる事柄が多すぎて、推測のしようがない…ここが本当に異世界なのか夢なのかすら分からなくなってきたぞ)
手は穴の端を掴み、頭から身体から、どんどんとこちらへ身を乗り出してきた。女の子は自分を見回して、そして言う。
「こんにちは……なのよ?」
白くてふわふわの髪、水色のワンピースドレスは落下の衝撃で所々破けている。自身も混乱しているようだが俺もだいぶ、かなり混乱してきた。この子は俺がマッチョの中に見たミッフィーと瓜二つの見た目をしていたからだ。
黒歴史転生 高間 哀和 @takamaaa
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。黒歴史転生の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます