SARUKANISENSO「猿蟹戦争」〜おにぎりと柿を添えて〜
残飯処理係のメカジキ
第0話「プロローグ」
「Wir wollten nur menschlich sein.」
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「こちら4番隊。ヤツを路地裏に誘導することに成功した。3番隊、応答せよ」
黒色の軍服らしきものを纏った少女の右手に持たれた無線機から、野太い男の声が聞こえて来る。
夏の夜・少し高めのビルの屋上で、大きめの双眼鏡の暗視機能を使ってその様子を確認していた少女は、無線から聞こえてきた男に反応する。
「何かしら?」
「何かしら?じゃないですよ隊長!!先輩にそんな言葉遣いしたらダメです!!ちょっと貸してください!!」
その少女の近くにいた少年は、隊長の先輩への言葉遣いがマズイと感じたのか、少女の右手から無線機に掻っ攫うと男の声に応答する。
「こちら3番隊、状況を確認しました。こちらはすでに準備が整っています。どうしますか?」
「了解。では今から作戦TYPE-Aを実行する。カウントは30秒前から。各自戦闘装備および気持ちを整えておけ!!」
「了解しました。よし、3番隊は作戦通り真上からの奇襲、Formation-Dを行います。これが初めての戦闘という人もいるので、その人たちは必ず覚悟はしておくようにして下さい。少しの油断が命取りになりますから」
「ハッ!!副隊長!!」
少年は、無線機のマイク機能をオフにすると、彼の後ろで戦闘態勢に入っている隊員たちに声をかけた。その間もカウントダウンの掛け声は続いており、緊張感がはしっている。
が……………
「隊長!!何呑気に食べてるんですかー!!!」
「え?何って……ピザマンだけど?さっきコンビニで買ったのよ。食べずに死ぬのも嫌だし、今のうちにね」
「駄目だこの人……作戦前っていうのに緊張感が無さすぎる」
「カウント5秒前、5・4・3………」
相変わらず聞こえる無線からのカウントダウン。その秒数は既に5秒を切っており、隊員はビルから飛び降りる準備をしている。
深呼吸をする者、目を瞑る者、祈る者、そして………ピザまんを食べる者。
「1……0」
レイ、その声を聞く同時に、ビルの屋上にいた3番隊は、ビルの屋上から順番に急降下をし始める。それぞれは腰にぶら下げている刀に手を添えており、いつでも抜刀できる準備をしている。目標はただ一つ、ターゲットの首を切り落とすこと。
「見えたわ……ターゲットを補足……」
ビルから少し横に行った通りの裏路地、複数人の隊員に囲まれているターゲットを少女をはじめとする3番隊は捕捉する。
抜刀ー
3番隊の6人は順番通りに奴の首を切り落とすべく斬りかかる。
「ほう、上からもか……だが甘い!!!」
近くで見ると、そのターゲットは人間離れの肉体、空間認識能力・反応速度をしていた。いや、そもそもターゲットは人間ではないように見える。
ターゲットは、上を見上げると、余裕な発言をする。
先に切りかかった3名を腕で薙ぎ払うと、次に向かってくる副隊長の少年に右手の拳をぶつける。彼は斬りかかることはできないと判断し、刀を防御に使う。が、その拳の威力は高く、少年は跳ね飛ばされて、地面を激しく転がっていく。
それに続く隊長と呼ばれた少女もまた、少年を殴り飛ばした右手に補足される結果となり、少年同様跳ね飛ばされる。
「ほう、耐えるのか………この女……」
ただ、少年と違うのは跳ね飛ばされてもその威力をできるだけ押し殺しており、転がることなく着地してヤツと向き合い、刀を構える。
「女の子に手をあげるのはNGよ!しかも顔面を狙うなんて……どんな教育を受けてきたのかしら?」
「いや、お前らが仕掛けてきたんだろが!?あぁ?」
「元は言えばそちらが先でしょ?」
「あーー?んーー。そうだったっけか?まぁ、どうでもいいさ。」
「どうでも……いい?それが元凶なのに?」
「元凶……ね。今更そんな事を抜かしてもこの戦争が終わることはねぇよ」
「そうね………残念だけれど」
少女はそんな会話の合間にチラッと3番隊のみんなの様子を確認する。ヤツの攻撃は、みんなにモロに直撃したわけではない。既に立ち上がっている者もいるほどに手加減されている。いや、舐められているのか?
「ほう……手加減したとはいえ、ただの人間ならば死んでいたはず……やはりお前ら蟹の耐久力はお墨付きだなぁ?殻が硬いからってか?はははは!!でもなぁ、たかが蟹が何匹も集まったところで猿には勝てねぇよ!!基礎スペックに差があるんだからさぁ!!!」
「言いたいことは……それだけかしら?」
フッと、鼻で笑う少女。
そんな少女の軽い挑発に、自らを猿だと名乗った男は少し苛立ちを覚える。自分より下であると認識している存在にそんな口調を聞かれるとは思ってもいなかったのだろう。
「舐めたことを………」
が、その認識が過ちであったことに猿はすぐに気付く。
そうもそのはず、自身が言葉を発してから言い終えるまでの僅か数秒………。自身よりもスペックが下であるはずの蟹、しかも少女に片腕をもぎ取られたのだから。
「てめぇ!!!」
「…………」
そして、ここで焦ってしまったのが、この猿の真の過ちであった。そう、"蟹"は一人ではないという事を完全に忘れていたのだ。ただ、あの少女に腕をもぎ取られた事実を上書きしたい、つまりは少女を殺すことで自身が……猿が蟹より優れている事を証明し直したいという欲求に駆られてしまったのだ。
少女にのみ焦点に合わせて突っ込んでいく男………が、その背後から5人の隊員が男の首をロックオンする。
「なっ!!」
だが、男も一筋縄ではいかない。そもそも、猿は蟹よりもスペックが高いことは事実なのだ。だが、その性質上猿は一人で行動してしまう。そして、蟹も自身が単体で猿に勝てるはずがないというのは理解している。だから隊を組むのだ。力を合わせる事で、個に打ち勝つために………。
最初の3人は両手をささげる事でどうにか凌いだ。だが、残りの2人は対処はできなかった。蟹の2本の刀は、猿の首を捉えると即座に跳ね飛ばす。
「てめぇ………ら」
猿の体はその場に崩れ落ち、猿の首から上もまた地面に転げ落ちる。
「ふぅ……どうにか倒せましたね、隊長」
「えぇ」
「皆さん大丈夫ですか?」
少年は、脇腹をさすりながらも3番隊の生存確認を行う。全員からの返事も確認し、隊が誰一人失っていない事を4番隊に告げる。どうやら4番隊は、4人の犠牲者が出たようで、既に撤退を始めていた。
「隊長、僕たちも処理班の11番隊に後を任せて撤退しましょう。猿たちは連帯意識が低いので、他の猿たちが増援に来るとは思えませんが万が一ということもあります。早期撤退が懸命だと思います………隊長?隊長聞きてますか?」
少年は3番隊を集めると、隊長の指揮を仰ぐため、少女に話しかけるが、少女は自身が斬った猿と呼ばれた男の右手を真剣に見つめており、話を聞いている様子はない。そんな隊長に呆れた少年は、少女が見つめている物を見てみる。
すると、猿の右手には、くしゃくしゃに丸められた、一枚の写真があることに気がつく。
「写真………ですか?この制服………どうやら高校生の男の子のようですね。この猿は、彼を探していたのでしょうか?」
副隊長の声を聞きつつ、少女は男の右手から、写真を抜き取り、写真の後ろに書かれている名前を口に出す。
「
そして………
「鍵?」
少女は、彼の名前の後に示された「鍵」という文字が気になって仕方がなかった。
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