第4話「新しい学校」
あれから、2日経った。手紙を読んだ後、すぐに自身の部屋に移る形になり、湊はその部屋でのんびりと入学準備をしていた。この2日間で、彩香には心配しないでという主旨の電話をしておいた。
(高校も事実中退状態なのに、あまり言及さられなかったのは不思議だったが)。それと、猿に空の家はバレているので、これからはここに住むことになるだろうと凛から説明を受けた。
胡桃凛。
僕が斬りつけた少女はそう名乗った。
聞いた話、どうやら彼女は隊長クラスらしい。健吾は、その隊の副隊長でいっつも彼女のわがままに付き合わされてしんどいと僕に嘆いてきた。好きな食べ物はコンビニのピザまんらしい。そういえば、僕も口に突っ込まれた記憶がある。
そして、ここは蟹の一族が代々隠れ住んでいる町らしい。椅子のある部屋も、この町の何処かだろう。今僕がいるのは「
僕の部屋は202号室で、元々じいちゃんが使っていたものらしい。なんやら懐かしい匂いがするのもそのせいなのか。
「ふう、これで大体荷解きは終わったかな?」
健吾の粋な計らいで、前の家から湊の着替えなどを持ってきてくれた。荷物はそれほど多くはないが、多少なりともないよりは安心できる。
「手紙は……ここでいいか?」
と、この部屋唯一の机の引き出しにしまいに行く。
「そういえば、葉月来夢って誰なんだろう。蟹校専の人なのかな?」
「はぁーーーい!!呼ばれて飛び出る来夢先生だよ!!」
「うわぁぁぁ!!わ、痛て!」
そんな独り言を呟いていると、部屋の扉が勢いよく開いて、1人の少年?が飛び込んできた。あまりにも突然で、空は驚きのあまり机の足に小指をぶつけてしまった。
「痛ててて……えっと……葉月来夢さん?」
「いかにも!!私が葉月来夢だ、緋神湊くん。これからよろしくね!!はっはっは!!」
青白磁色(せいはくじ)の長い髪に澄んだ赤い瞳。身長は190くらいの長身の超絶イケメンが目の前にいた。
(げ、元気のいい人だ……。これまで会った人の中で、一番元気溢れてるよ……)
「はい、よろしくお願いします。で、葉月さんはどうしてここに?」
「来夢、でいいよ。僕はこれでも教師でね、自分の受け持つ生徒を事前に知っておこうと思った次第だよ。まぁ、師匠の孫だから大体は知ってるんだけどね。直接話してみたかったんだ。いやぁ、それにしても照史さんにくりそつだね
「そうですか。でも来夢先生、それよりも後ろの胡桃さんをどうにかした方がいいんじゃ……」
「へ、凛ちゃん?待て待て待て……。湊くん、私の後ろに彼女がいるんだね。でも大丈夫だよ、大丈夫。今この部屋は結界が貼ってあるからね。平気さ」
と、自信満々に説明する来夢。まぁ、それよりも後ろの胡桃さんが怖すぎて内容が頭に入ってこないんだけど……。
「なんか、胡桃さんが怒り狂った悪魔みたいな顔してますけど……。なにかしたんですか?」
「あ、いやぁ……。ちょっと凛ちゃんの部屋にあるピザまんを2個くらい拝借しただけだよ、あははは…あれ?なんか今結界が壊れる音がしたんだけど……」
どうやら蟹の一族特有の刀で結界をこじ開けたみたいだ。悪魔と化した凛が来夢目掛けて突っ込んでくると、拳でフルボッコにする。
このフルボッコは10分くらい続いた。
(何度来夢さんが謝っていたことか……。胡桃さんのピザまんへの執着は恐ろしいものだ。気をつけよう……)
「来夢……行くよ……」
「莉乃ちゃ………ゴブッ!!ゲフッ!!分かった……買いに行くか……ら…許して……ね?」
そのまま引きずられながら、来夢は空の部屋を後にするのだった。
(嵐みたいな人だったな。来るだけ来て暴れて、叫ぶだけ叫んで……でも、こういう人……好きだな)
「ん?」
部屋のドアの側、そこには来夢が来る前には無かった刀が置かれていた。この紅い刀身、見覚えがある、そう、この刀はじいちゃんの刀だ。その刀の鞘には、メモ帳が貼り付けられており、「この刀は君のものだ。大切に使ってくれ、師匠も喜ぶはずだ」と、ギリギリ読めるくらい乱雑な字で書かれていた。
きっと来夢さんだろう、本当はこの刀を渡しに来たのかな?
いや、ただただ胡桃さんのピザまんを勝手に食べたから逃げてきたついでに、みたいな感じがするのは気のせいだろうか。
「明日から蟹校専か……。よし、頑張ろう」
こうして湊は、明日に備えて寝るのだった。
SARUKANISENSO「猿蟹戦争」〜おにぎりと柿を添えて〜 残飯処理係のメカジキ @wonder-king
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