第3話 「目覚めた朝」
夢を見ていた……暖かい……優しい……温もりのある夢を………。
「ハッ!!じいちゃん!!ん?」
湊は、自身が祖父の名前を叫ぶと同時に、ベッドらしきものに縛り付けられている状況を確認する。部屋の広さは八畳ぐらいで、その真ん中に空は縛り付けられていた。
(え、何この状況……確か、僕は猿と戦って、その後に女の子に攻撃したんだけど……で、そっから記憶がない。ていうかそれよりもじいちゃんの安否を!!)
「誰か!!じいちゃんを知らない?ていうか、誰かいない?ねぇ!!ねぇってば!!ね……んぐぅ!!」
そう、部屋中に声が届くぐらいに大きな声で叫んでいた湊の口に何かが突っ込まれる。その瞬間、チーズの香りが口いっぱいに広がる。
「うるさいわよ!」
「ん!!んーんんん…んん!!」
「だから……うる……さい」
口に突っ込まれたのはピザまんで、突っ込んだ人は空が斬りかかった少女だった。隊服を見に纏い、肩には何かの階級を示すであろう、バッチもつけられいる。腰には刀を装備し、少し気だるそうに空を見つめていた。
髪型はストレートヘアの黒髪。身長は155cmくらい。そして、かなりの美少女だ(彩香基準だけど)。
突っ込まれたピザまんを秒速で平らげた湊は、彼女に向かって話しかける。
「君は……あのとき僕が斬りかかった……大丈夫だった?あの時の僕は気が動転してて」
「問題ないわ。自身の祖父が殺されれば、誰もがあんな風になるもの」
「そう……だね。やっぱりじいちゃんは………」
「亡くなられたわ……。でも、ちゃんと保管してあるの。君の判断ですぐに葬儀は可能よ」
「そう……でも今は、そんな気分じゃないかな」
「えぇ、分かってる。蟹の一族は、普通の人間とは違って腐敗しにくいから、数ヵ月ならあのままで保管できるわ。ところで、あの君を狙っていた猿を倒したのは君?」
「うん、でもあの時は…じいちゃんのことで怒って……切れて……後は、自然と身体が動いた。今同じ場面なら、動ける自信はないよ」
「そう。で、どうする?緋神君は、猿と戦う?それとも、どっか遠くで平凡に暮らす?」
「強制に戦わされるわけじゃないのか?」
「蟹の一族だって、みんながみんな戦いたいわけじゃない……。無断で逃げる人もいれば、わざわざ許可をもらって遠くに行く人もいる。でも、大概の蟹は戦っている。猿は私たちを根絶やしにするまで、決してこの戦争を終わらせない……そして私たちも……彼らを滅ぼすまでは止める気はない……だから、戦うの……」
「そうなんだ……なら、僕はやるよ……。」
「え?今まで自身の正体も………この戦争も知らなかったのに?あの日常に戻りたいとは思わないの?それとも、祖父の復讐?」
「違うよ、僕はただ……。僕みたいに、突然この戦争に巻き込まれる人たちを助けたい。こんな思いを……家族と死別する、そんな悲しい思いを、誰にもさせたくないから……。だから戦いたい、この戦争を終わらせるために。大した力にはなれないと思うけどさ…そんな理由じゃダメ……かな?」
「ふふ……優しいのね……分かった。お館様にそう言っておくわ。後これ……空の祖父、照史さんの懐に入ってた手紙、渡しておくね。じゃあ、また」
「ありがとう……ございます」
少女が去って行くのを見届けると、空は手紙を読もうとするが……。
(じいちゃんからの手紙……何が書かれているんだろう?早速読も……ん?……そういえば僕、両手……縛られてる……どうしよ?これじゃ手紙読めないよ!!)
「だ、誰か!!この手、ほどいて下さい!!お願いします!!」
「あ、目が覚めたんだね。空くん!!良かったです」
またもや喚き散らす空の部屋に、今度は健吾が入ってくる。
「健吾さん!!お久しぶり……って、包帯だらけじゃないですか!?そういえば、健吾さんに任せていた猿は、すぐに僕のところにに来ましたし」
「あっはっはは!!そうだね、俺はあの猿にボッコボコにやられたよ!!カッコつけた割にはあっさりとね!!隊員を含めて四人は瞬殺されたかな?あれを倒すとは、湊くんは相当強いじゃないですか!!」
そう言いながら、健吾は湊に近づいてくる。
「そんな……ただ怒りに任せて刀を振るっただけですよ。あ、健吾さん。すみませんが、この縄ほどいてもらえますか?」
「あ、あぁ。構わないよ。君は、隊長に気絶させられる前は少し暴走していましたからね、もしもの場合に備えて縛っておいたんです。少し確認しますね。目は……手は……よし、大丈夫そうだ。ほら、ほどけました」
「ありがとうございます。これで、じいちゃんからの手紙を読めます!!」
「ゆっくり読みなよ。俺は用事があるから先に失礼するよ」
「はい」
健吾が部屋から出て行くのを見届けると、空は照史からの手紙を立ったまま開く。「湊へ」と初めに書かれたその手紙には以下の内容が書かれていた。
『この手紙を見ているということ、わしは重症を負っているか、死んでいるかのどちらかじゃろうな。
まぁ、そこは気にせんでええ。蟹と猿の運命じゃ、むしろお前が16歳になるまであの場所がバレなかった方が珍しい。神様に感謝せんとな。
湊お前は優しいから、わしのことを気に病んでいることじゃろう。気にせんでええとは言ったが、お前は相当気にするタイプじゃ。だから、これからのことを語ろうと思う。
まずお前は、『
後、学校は学校じゃ。行事などはしっかりと楽しむこと!!次に、
お前のことは知らせてある、面倒を見てくれるはずじゃから頼るのじゃ。
そして、最後にじゃが、わしはお前のことが大好きじゃ、愛してる。健康に、そして平和に過ごせることをここから願っておるぞ』
「じいちゃんより」という最後とともに、この手紙は括られていた。
(じいちゃん……僕頑張るよ。この戦争を終わらせるためにさ、一生懸命……うっ……)
湊はそんな思いを胸に、泣きながらまたもやベッドに座り込むのだった。
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