兄さん、どうか
尾八原ジュージ
兄さん、どうか
兄さん、おひさしぶり。お元気ですか。
出ていってから、ずいぶん経ちますね。
わたしは元気です。毎日が楽しいです。
お葬式に来たあの人、覚えていますか。
兄さんが詐欺師扱いして追い出した人。
あの人、詐欺師じゃありませんでした。
父さんも母さんも、帰ってきたんです。
二人とも、ちゃんと呼吸をしています。
五感もあって、痛みも空腹も感じます。
見た目も声も、話す言葉もふるまいも。
生前とまるで同じなんです。本当なの。
だけど、兄さんはいやがるでしょうか。
兄さん、わたしのこと叱りましたよね。
おやじもおふくろも、死んだんだって。
そんなふうに拘るのはもう止めろって。
そう言ってたこと、よく覚えています。
兄さんのあんな顔は、初めて見ました。
あんなにも辛そうな顔をしていたのに。
なぜわたしを叱ったりしたんでしょう。
なぜ、あの人を追い返したんでしょう。
あの人、死人を生き返らせたんですよ。
父さんと母さんに会ってほしいんです。
生きてる人とそっくり同じなんですよ。
ご飯を抜いたら、飢えて苦しがります。
火の点いた煙草を当てたら痛がります。
全部わたしと兄さんにしたことなのに。
そう詰ったら、泣きながら謝るんです。
今更謝ったって、何も変わらないのに。
本当、生きてた頃そのまんまなんです。
最近は、生爪を剥がすのが楽しいです。
二人とも、とても痛がって泣くんです。
ちゃんと新しい爪が生えてきています。
また剥がせるからいいねって言ったら、
二人とも怖がって失禁してしまったの。
楽しそうでしょう。まだ楽しめますよ。
どうか兄さんも、帰ってきてください。
兄さん、どうか 尾八原ジュージ @zi-yon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます