第17話
「何だと!? あいつが浮気を!?」
カールがエリザベスと結婚し2ヶ月が経過した頃、奴の会社に潜り込ませていたフットマンから報告が入った。
「はい。カール氏は事業が拡大したので秘書が必要だと言い、先月面接を行いました。そこでメリンダ・ブラックという23歳の女性を採用したのですが、どうやらもう深い関係の様です。周囲にバレないように変装してデートをしている姿を確認しております」
「深い関係だと……? 一体それは……いや、やめておこう。おぞましい、知りたくもない。それにしても変装までするとは、何という姑息な男だ」
「いかがされますか? 旦那様」
フットマンが心配そうに尋ねてきた。
「このまま、あいつの監視を怠るな。本当は今すぐにでも離婚させてやりたいが、この国の法律で、1年は離婚するのを禁止されているからな。だがエリザベスには知らせるな。大切な娘を悲しませるわけにはいかない。どうせ1年経てば絶対に別れさせるのだから、それまでは告げるな。世の中には知らない方が幸せな事があるからな」
「はい」
私の言葉に、フットマンは頷いた――
その後も会社と屋敷に送り込んだ使用人から、奴に関する報告が集められてきた。
内容はどれも不快感極まるものばかりだった。
娘の名を使って、色々な店で買物をしてツケ払いをしている。娘の不在中に引き出しから通帳や金庫の鍵を持ち出して、現金をちょろまかしている。
メリンダとのデートは月に2回で、その度に接待でお金が必要だと言って娘から遊ぶ金を引き出している……等など。
あの男め……幸いエリザベスは夫の不定に何も気づいてはいないようだが、一体何をやっているのだ?
婿養子という分際で、好き勝手をしおって……絶対に1年後離婚させてやる。
その為に、妻と使用人たちを巻き込んで計画を練ることにした。
奴の監視を続け、どのような性格であるかを分析し……離婚に同意させるかを。
1年間緻密に計画を練って、ついにその計画を実行に移すことにしたのだ。
妻が足を怪我したと嘘をつき、エリザベスの助けが必要だと説明して屋敷に戻らせた。
念の為に通帳と鍵を持って来るようにと付け足したのは言うまでもない。
そして代わりに、執事に離婚届を入れさせた。
この1年で分かった事がある。奴は意外に気の弱い人間だ。離婚届を目にするだけで揺さぶりをかけることが出来るだろう。
私はこれでも温情をかけたつもりだった。
仮にも、カールはエリザベスが選んだ男。娘は今も不誠実な夫を信じている。
妻の足の怪我を心配して見舞いに来たら、少しは見直してやろうと思っていた。
いや、何なら電話1本でもいいだろう。
そう思っていたのだが……奴は私の期待通りに裏切ってくれたのだ――
****
「それにしても、1年後きっちり離婚させることに成功したのは本当にお見事でした」
「エリザベス様も納得してサインされましたからね」
使用人達がにこやかに話しかけてきた。
「ああ、全くそのとおりだ。もとよりエリザベスには、あんな男は不釣り合いだ。それにまだ若い。半年も経てば、再婚だって出来る。今度は慎重に相手を選んでくれることだろう」
元々、あの男と知り合う前からエリザベスの元に見合いの話が舞い込んできていた。
「旦那様。そう言えば、あの浮気相手の女はどうなったのでしょう?」
「既に住所は調べてある。時期に弁護士が彼女の元を訪ねるだろう。仮にも子爵家の娘の夫と浮気していたのだ。裁判を起こして慰謝料を取ってやるつもりだ」
私はニヤリと笑った……。
――その後
エリザベスは子爵家の男性と見合いをし、婚約を果たした。
メリンダは慰謝料として、全財産を没収されて去って行った。
そして肝心のカール。
噂に寄ると、すぐに露頭に迷ったカールは強盗に入って警察に捕まったらしい。
今は、刑務所に入っていると言われているが……真実は分かっていない。
だが今となっては、そんなことはどうでもいい。
私の願いは、娘が今度こそ幸せな結婚生活を送ってくれることなのだから――
<完>
どうやら今夜、妻から離婚を切り出されてしまうようだ 結城芙由奈 @fu-minn
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