二十首連作短歌 いのちをはむ

大和田 虎徹

いのちをはむ

一、命食む それは儀式に よく似てて 血潮に季語を 輸血するよう


二、あなたとは あなたのたべた ものそのもの 鰯もウドも 咀嚼し巡らす


三、馴染みない 魚に春で サワラと読む 北の皿には 登らぬ春よ


四、毒を噛む 塩で消え去る 毒を食む 葉桜さえも 美味な風流


五、白と黒 べこの名を持つ 風物詩 ところ変われば 未知の食物


六、おまえとは おまえのくらった ものじしん うりもへちまも お前そのもの


七、炎帝に 献上いたすは 現代氷菓 油断を誘って 後ろから刺せ


八、じりじりと 焦がれたるのは もろこしか 廊下に寝そべる 我自身か


九、夏が過ぎ 揺られる薊を 通り過ぎ 破れた夢たる 空き缶重ねる


一〇、われのみは われがしょくした ものである 稲穂も石榴も 食してしまえよ


一一、天高く 肥える秋空 それはそう 馬以外にも 肥えるモノはいる


一二、罪の実よ 赤く紅くと 色付けよ 医師の蒼白 リンゴの本懐


一三、白染めが 早いよバカタレ 北の山 果実凍てつく 神去る月よ


一四、きさまとは きさまがかじった ものである 鴨もかぶらも 煮詰めて飲もうか


一五、むしり取り あぶってかじる 鱈の身を あぶりすぎて 半分焦がす


一六、温暖化 北上してくる 鰤の群れ はたしていいのか 悪いものかと


一七、降りしきる 雪に埋める あいすくりん 埋めすぎてしまい 匙が立たない


一八、季語知らず 酒はいつでも 美味であり いつでも塔が 築かれ崩れる


一九、仕方なし 冷蔵庫の中 何もない 備蓄輝く 節制レシピ


二〇、きのうきょう あしたあさって しあさって いのちをはんで いきていくのさ

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