最終話② 飛行機雲 永遠の胸

『ビザ更新のために、一時帰国します。

日本時間、30日の17時25分到着便です』



今日ではないか。

思わず立ち上がった。

相変わらず、予測不能だ。


時間は充分にある。

焦るな。

慌てる必要などないが、気が急いた。



鍵を掴む。




駐車場。

錆だらけの軽自動車。



助手席にバッグを放り、エンジンをかける。

低いアイドリング音を目を閉じ、しばらく聞く。



行くか。


一速に入れる。

修、お前も大人になったら車を買え。


二速に入れ、踏み込む。

車ってのは翼でもあり、友達ダチでもあるんだ。


三速、四速まで進め、巡行する。

どこへでも連れて行ってくれる、どこにでも付いてきてくれる。



俺みたいな大した事のない車だが、俺も " 翼 " を手に入れた。

兄ちゃんの、あの海を見に行く。

こいつに乗って。





高速に入り、混雑が緩和してきた。

程良い巡行で、走行する。



今日もまた、鬱陶うっとうしい、雲ひとつない快晴の青空が広がっている。


日射しがまぶしい。

サングラス。

バックミラーに、伸びた前髪が映る。



ラストショーが聴きたくなった。

再会の時に、別れの歌を聴くなんて。



さよなら

バックミラーの中に

あの頃の 君を

探して走る



悪くなかった。

ビルが少なくなり、視界が開け、遠くに空港が見えてきた。



二度と会う事など無い。

時が未練を浸食させ、風化するまで、自分に言い聞かせ続けた日々だった。


胸が高揚している。

二度と会えない君と、もう一度。





快晴の青空を、斜めに切り裂くように、白い飛行機雲が横切った。



ざまぁみろ。


何に向けて言ったのか、分からなかった。





明日は雨だ ___





永遠の胸 / 尾崎豊


Fin

【イカロスの悲哀】 Eternal - Heart 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

イカロスの哀傷 Eternal-Heart @Eternal-Heart

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画