最終話① 寄り添う過去

メールの続きを読む。




『修はいつも、私の気持ちに共感して、受け入れてくれた。

私のもう一面を、ありのまま肯定してもらえるのが嬉しかった。

私ばかり、いっぱい話してたよね』


どんな側面も、全て包括して君が好きだった。




『夜中に花火した時のこと、覚えてる?

線香花火を一本ずつ着けながら、

それが全部なくなるまで、話を聞いてくれたね。


置き去りだった私の想いを、いとも簡単に

受け入れてくれたのが、嬉しかった』


感情と技術テクニックを組み合わせながら、傾聴した。

それしか出来なかった。




『修は私の事を、異世界の別人種だと思ってたけど、それは私にとってもそうなの。

私の世界には無かった、色んな違う角度の視点を教えてくれた。


直情的な私に気付かない、論理的なところとか。

雰囲気は淡白そうなのに、内面は一生懸命で情熱的なところも知った』


自分では分からなかった。




『ホテルに行った時のこと。

修は、気づいてなかったと思う。

実は、途中で間違えてたよ』


まさか __


気付くのが遅いどころか、失態に気付いてなかったとは。

あの時の、初めて…… 、とはそういう意味だったのか。

顔が紅潮する。




『あの時、修はずっと辛そうな顔をしてた。

初めての事に、緊張と不安があったと思う。

きっと、私の元彼を思い浮かべて、嫉妬と悔しい思いもしてたよね』


やっぱり君は、俺の事をよく見ていた。

悔しさと屈辱にまみれようとも、君が欲しかった。

イカロスになろうとも。



『それでも修だった。

ずっと私の事だけを見ていた。

一生懸命、私の気持ちと体に、寄り添い続けてくれた。

それが身体を通して感じられて、すごく嬉しかった』


俺は自分のすべき事に、必死だった。




『私のためだけに、想いの全てを振り絞ってくれた。

そんな人は誰もいなかったし、その後も。

修らしさが詰まった、初めてで、たった一度だけの思い出なの』



どうしようもなく君が好きだった。

何も出来ない俺に、何が出来るのか。

そればかり考えていた。




『その後、ひとりでバスルームに籠もったよね。

何を思っていたのかは分からなかったけど、とても辛いのだとは分かった。


修が "格差恋愛" という言葉を使った事があるの。

何気なく。

それでやっと気づいたの。

私に近づくほど、苦しいのだと。


そんなところを、気にしないで欲しかった。

他の誰にもない、唯一無二が私には大切だったの。


でもこれ以上、引き留められないと悟ったの。

卒業式の後、呼ばれた時には悲しかったけど、受け入れるしかなかった』



君を傷つけるために出会ったのか。

悔やみ続けた。

最初から断るべきだった。

身勝手な男だ。



無事と近況が知れただけでも、御の字だ。


彼女が、こんなしょうもない俺を、好きだったと分かっただけでも、充分じゃないか。



これを、最後にすべきだ。

さっさとゴミ箱に捨てろ。


指が動かなかった。





添付された画像に気付いた。

開く。



まばゆいほどの日差しを浴びて、

明るい髪と、懐かしい笑顔がはじけている。


あの頃より、もっと ” 素敵 ” になっていた。

凡庸ぼんような表現だが、そうとしか思えなかった。



ネックレス。


まだ着けていたのか。

いつ切れてもおかしくない、極細のチェーンがまだ繋がっていた。



答えがここにあった。




『ビザ更新のために、一時帰国します。

その手続きで、メールするのが遅れてごめんね。

日本時間30日の17時25分到着便です』



今日じゃないか。

思わず立ち上がった。

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