第15話 秘めたる思い


 有料版のアプリを起動した。


 盗聴が始まった。


 胸に秘めた思いをどうか叶えて下さい。


 ・・・・・・・・・・・・・


「あっ、母さん。丁度、電話しようかと思ってたんだ・・・」


「タカヒコ。今日のお見合いの相手、マナミさん。どうだった?」


「どおって言うか、写真の印象とちょっと違ってて・・・」


「修正写真ってこと・・・」


「それも・・・、かなり・・・」


 ・・・・・沈黙。


「性格とか、趣味については・・・?」


「その辺は、結構気さくで、話は飽きなかったと思うけど・・・」


「それは良かった。結局、一番大事なのは、二人の相性だからね・・・」


「・・・」


 ・・・・・沈黙。


「僕、やっぱり、この話は・・」「焦って結論出しちゃダメよ」


「残りの人生を一緒に生きる人なんだから、自分の心をゴマ化すのは嫌なんだよ」


「つまり、容姿の問題ってことね」


 ‥‥・沈黙。


「ぶっちゃけ、そういうことになるかな・・」


 ・・・・沈黙。


「あなたの面食いにも困ったもんだよね・・・」


「・・・・・」


「もし、容姿がタカヒコの希望通りなら、OKって事でいいわけ?」


 ・・・・沈黙。


「母さん、まさか・・・」


「マナミさんあなたに気に入って貰えるためなら、そうするつもりよ」


 ・・・・沈黙。


「そこまでするつもりなら、最初から・・・」


「だって、あなたにも好みがあるでしょ。最初からAにしておいて、いやBの方が好みだって言われても困るからネ・・」


 ・・・・沈黙。


「あなたのタイプの女優かタレントの顔写真送って貰える?」


「・・・ホントにそこまでしてくれるの?」


「マナミさんのお祖母ちゃんが資産家でね・・、彼女の為だったらイクラでも出してくれるソーヨ」


 ・・・・沈黙。


「マナミさんのご両親も、承諾して下さってるのよ。これだけ譲歩してくれてるんだから、もうイーカゲンに決めてチョーダイ・・。あなただって、もうあれこれ選べるような状況じゃないんだから・・」


「整形美人か・・・、ちょっと、美人のマネキン抱くカンジがしてヤダな・・・」


 ・・・・・沈黙。


「どの口が言ってんのよ、3回も整形してるあんたが!!」


 ・・・・沈黙。


「あんたの借金のお陰で、お父さんも私も大変なの。この結婚に承諾出来ないんなら、借金は自分で払いなさい!」


 ・・・・・・・・・・


 私はアプリを切った。


 私の目の前には、中学校時代のアルバムが並んでいる。


 そう、彼こそが、私の青春時代の憧れの先輩。


 私は目立たない存在で、彼はバスケのスターだった。


 卒業間近の2月。私は意を決して手紙を渡した。


 彼は、私をまるで虫けらの様な目で見て、手紙を破り捨てた。


 高校、大学、社会人と、あれからもう20年が経った。


 なんども諦め、他の人を愛そうとした。


 でも、決して忘れることが出来なかった。


 彼がケガをしてバスケを諦め、彼の周りから女性たちが去って行った時、私は必死に貯金を始めた。


 やがて、彼の母親に時間を掛けて近寄り、彼のプライドが結婚を阻んで来たこと、女性たちからの視線と崇拝を取り戻す為に整形を繰り返し、多額の借金を抱えている事を知った。


 やっと、チャンスが巡って来た。


 かなり容姿が変わってしまったけれど、やっと彼の腕に抱かれる時が来た。


 彼と幸せな家庭を持つことなど、特に考えていない。


 彼の腕に抱かれ、キスされ、夢に描いた抱擁を受ける事。


 たった1回でイイ。それだけの為に、私はこの20年を生きて来たのだから・・・。


 こんな執念深い女。普通の人は怖いと思うのだろうか?

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盗聴アプリ マーク・ランシット @nasuthailand418

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