#24 暴君

 ダンジョン四階層よんかいそう


 そこで比嘉琉那ヒヨシルナぞく大群たいぐん対峙たいじしていた。


「それで、なんのよう?」

「……」


 琉那ルナいに、だれこたえようとしない。


 ただの沈黙ちんもくぎるなか大群たいぐん先頭せんとう地龍族ちりゅうぞくおとこくちひらいた。


貴女きじょがかのケルコス四天王してんのう一体いったい比嘉琉那ヒヨシルナであられるか」


 琉那ルナにそうはなしかける地龍族ちりゅうぞくおとこ――ガダラビはこしかたなきながら琉那ルナう。


たしかに比嘉琉那ヒヨシルナだけど、?ってなにそれ?」

らぬのか?ならおしえてしんぜよう。そのままの、このケルコス地方ちほうにて最強さいきょううたわれている四体よんたい強者つわものことだ」

「へぇー……すごいんだね」

貴女きじょことなんだがな……まぁいいそれよりも――」


 ガダラビはかたなち、かまえる。


「――勝手かってながら、貴女きじょ死合しあいもうみたい」

「え、それって――」


 琉那ルナ口元くちもと両手りょうてかくし、身体からだふるわせる。


「――つがいさがしでもしてるの?」

「……は?」


 ガダラビは一瞬いっしゅん本当ほんとうまえっている神族じんぞく四天王してんのう一体いったいなのかとうたがう。


(いやて、たし比嘉家一族ひよしけいちぞくにはじゅうとしになるまでのあいだ最初さいしょ婚約者こんやくしゃめるという文化ぶんかがあったはず。そしてその婚約者こんやくしゃかたれた相手あいて決闘けっとうもうみ、てば婚約こんやくすることになるとかなんとか……っててよ――)


 ガダラビはずかしそうに身体からだをくねらせている琉那ルナ衝撃しょうげき事実じじつ辿たどく。


(――オレ求婚きゅうこんしてきてるっておもんでるの!?ヤメロ!|そんなでこっちをるな!)

 

 ガダラビの心境しんきょうらず、後方こうほう待機たいきしているぞくたちからはひややかな視線しせんびせられる。


オレをそんなるな!!」

「いやーついにはるたんスね」

「だからちがうとっているだろうが!」

「え?ちがうの?」

「ああちがうとも!であるからして、オレはただ自身じしん剣技けんぎきわめたいだけなのだ。かったな!?」


 ガダラビはいかりでこえらげている最中さなか琉那ルナこしかたな――[ウェポン・ディケイ]にえていた。


「なんでもいいけど、はやわらせましょ」

「ああ、そうだな――はガダラビ![テソアヘロ団]のガダラビである!いざ!尋常じんじょう勝負しょうぶ――」


 ガダラビがたたないの宣誓せんせいえた瞬間しゅんかん、ガダラビの右腕みぎうで関節かんせつがあらぬ方向ほうこういた。


 琉那ルナ一瞬いっしゅんでガダラビに接近せっきん両手りょうてうでいちうでつかみ、肘関節ひじかんせつ膝蹴ひざげりでへしったのだ。


「は?」


 理解りかいいつかないガダラビのあたま琉那ルナ容赦ようしゃなくなぐり、地面じめんたたきつける。


 その一撃いちげき地面じめんおおきなクレーターをつくった。


 たったの二撃にげきでガダラビの意識いしきんだ。


「あれ?おもってたよりよわ、え?」


「ガダラビさーん!?」

オンナァ!!よくもガダラビのアニキを!」

「つーかそもそもかたな使つかえよ!」

「ヒキョーモノが!!」

「サイテー!!」


いたい放題ほうだいすぎじゃない?――って、それよりも、ほかのみんなはどこにやったの?」


 琉那ルナが[ウェポン・ディケイ]をきながら罵声ばせいばす集団しゅうだんちかづく。


「はっ!おしえてほしけりゃオレたちをたおしてから――」


 琉那ルナ啖呵たんか鼠族ねずみぞくおとこ手首てくびぶ。


 そしてさけく、りをらい、かべたたきつけられ、気絶きぜつしてしまった。


たおでいいの?ならだい得意とくい♪」


 かみをかきげる琉那ルナ闘争とうそうまりっていた。


 対峙たいじしていた集団しゅうだんへびにらまれたかのように身体からだ硬直こうちょくさせたときにはすで琉那ルナはししていた。


「ッ!くるぞ!!」


 集団しゅうだんはすぐさま武器ぶきかまえるが、一瞬いっしゅんにしててられる。


 あるものを。

 あるものゆびを。

 あるものあしを。

 あるものはらを。


 抵抗ていこうするく、琉那ルナとおぎたみちのこるのは苦悶くもんこえちるおと、そして銀色ぎんいろ傷跡きずあとだけであった。


ってぇ!――けどまだやれる!)


 ガダラビと鼠族ねずみぞくおとことはちがい、気絶きぜつさせられたものはいなかった。


 仲間なかまかたきとうと、琉那ルナほう視線しせんけた。


 琉那ルナかれらにけたまま、[ウェポン・ディケイ]を納刀のうとうしようとしていた。


 かれらはちを確信かくしんしたがゆえ油断ゆだんだと判断はんだんし、そのすきこうとした。


「《喜怒哀楽流きどあいらくりゅう――楽滅らくめつ――水銀すいぎん刃式じんしき――銀紅ぎんべに泥中蓮でいちゅうれん》」


 [ウェポン・ディケイ]が納刀のうとうされ、鍔鳴つばなりがダンジョンないひびわたる。


 琉那ルナのアペイロンが鍔鳴つばなりによって発動はつどうした。


 傷口きずぐち付着ふちゃくした銀色ぎんいろ液体えきたい一瞬いっしゅん円盤状えんばんじょうひろがり、りつけられたもの手足てあし切断せつだんする。


 あた一帯いったい鮮血せんけつ水銀すいぎんあざやかにいろどられる。


 比嘉琉那ヒヨシルナのアペイロンは水銀生成すいぎんせいせいおよび、生成せいせいした水銀すいぎん操作そうさ


 水銀すいぎんみず約十三倍やくじゅうさんばいものおもさであり、それをあつか比嘉琉那ヒヨシルナ攻撃こうげきはそのぶんおもくなる。

 そして液体えきたいであるため、その自由度じゆうど汎用性はんようせいたかい。


 さら戦闘民族せんとうみんぞくとして名高なだか比嘉家ひよしけまれ、そのめぐまれた肉体にくたいにより、相手あいてたと身体からだ頑丈がんじょうさにひいでた地龍族ちりゅうぞくであっても、ほね容易たやすることができる。 


 これが比嘉琉那ヒヨシルナをケルコス四天王してんのうたらしめる要因よういんである。


 琉那ルナ筋肉きんにくすじ切断せつだんされ、身動みうごきがれないぞくまえでしゃがみみ、かおのぞく。


「ねぇ、きたいことがあるんだけどさ」

「……っ!オレたちゃ仲間なかまらねぇぞ!」

「いや、そうじゃなくて――あなたたち懸賞金けんしょうきんとかけられてる?」

「え?ま、まぁカルディアのほうでは何体なんたい指名手配しめいてはいされてたような……」

「そっか!ありがとね!」


「おい大丈夫だいじょうぶかー!?」


 琉那ルナ満面まんめんみをかべていると、次々つぎつぎ武装ぶそうしたぞくあらわれる。


「ふん、これでおまえもおしまいだ

――」

「おかねだー!」

「……はぁ!?」


 琉那ルナ視点してんではそれらはすべ札束さつたば金塊きんかいやまにしかうつらなかった。


 琉那ルナはしる。


喜怒哀楽流きどあいらくりゅう――喜斬きざん――水銀すいぎん刃式じんしき――銀鱗舞ぎんりんまい


 [ウェポン・ディケイ]の抜刀ばっとうともころさない程度ていどててゆく。


「やっぱりむちゃだったんだ!ケルコス四天王してんのうめるなんて!」

「せめて幹部かんぶあつまるまでの時間稼じかんかせぎだ!それまで弱音よわねくな!」


 おびった仲間なかま鼓舞こぶする牛族うしぞく琉那ルナびかかり、つの鷲掴わしづかみにしてあたまく。


 そして紅潮こうちょうしたかおで、興奮こうふんしたこえでその牛族うしぞくうた。


「かんぶ!?幹部かんぶってった!?あなたたちよりもっとつよやつるの!?」

「ぐっ!離せ――」


 琉那ルナ容赦ようしゃなくかかととしをらわせると、水銀すいぎん左腕ひだりうでまとわせ、牛族うしぞくみ、かべたたきつける。

 そのままはしし、かべこすりつけけずると、こわれた玩具おもちゃてるかのようにべつぞくれにげつける。


 琉那ルナはそれと同時どうじあしひらき、こしとし、[波切なみきり]をかまえる。


喜怒哀楽流きどあいらくりゅう――怒撃どげき――水銀すいぎん刃式じんしき――銀波一閃ぎんぱいっせん


 その一撃いちげきはやく、おもく、水銀すいぎんによって大幅おおはばひろげられた攻撃範囲こうげきはんいによってけたもの一瞬いっしゅんひざからしたわかれとなった。


 仲間なかま犠牲ぎせい代償だいしょうに、二体にたい植物族しょくぶつぞく琉那ルナ背後はいごる。


(まだづいていない、これなら!)


「マナギ!キョウソウ!よせ!」


 わかれとなったあしかばいながら犬族いぬぞくおとこさけぶが、ときすでにおそし。


「あっはは♡」


 かえった琉那ルナおおきくひらき、おおきくひらいた瞳孔どうこう二体にたい植物族しょくぶつぞくとらえていた。


 マナギは一瞬いっしゅん自身じしん琉那ルナにけしかける。


 その攻撃こうげき水銀すいぎんなみってくぐり、マナギのくきつかむ。


植物族しょくぶつぞくなら〜、ざつにしてもなないでしょ〜!!」


 琉那ルナは[ウェポン・ディケイ]でマナギのあたまてようとしたが、キョウソウのツタによってはばまれ、さらに[ウェポン・ディケイ]をられる。


 さらにキョウソウは琉那ルナ身体からだ雁字搦がんじからめにし、拘束こうそくこころみた。


 しかし――


うそでしょ!?かえされるッ!!)


 琉那ルナ皮膚ひふから水銀すいぎん生成せいせいし、不規則ふきそく網状あみじょうのバリアをつくした。


 琉那ルナまもりにはいったのをて、うごける者達ものたち攻撃こうげきてんじるが、だれもバリアをやぶるにいたらなかった。


「うーんどうしよっかな――」


 琉那ルナがそうつぶやいたとき琉那ルナ足下あしもとから四本よんほんうです。


 琉那ルナあしつかんだ。


「よし!これでっ――うごか――」


 琉那ルナ自身じしんあしつかもの地面じめんごとぶんなぐり、さらにバリアを拡大かくだいてき蹴散けちらす。


 琉那ルナがこの戦闘せんとうはじめた、そのときだった。


 かみなり琉那ルナおそう。


 かみなり発生源はっせいげん一体いったい蜂族はちぞくおんなだった。


すきつくっていただき感謝かんしゃす――」


 蜂族はちぞくおんな顔面がんめんいし激突げきとつする。


「――ッ!貴様きさまァ!!」

「あなたが幹部かんぶ?」


 激昂げきこうする蜂族はちぞくおんなたいし、琉那ルナめた表情ひょうじょうをしていた。


 蜂族はちぞくおんな背後はいごるまでは。


 そこには多数たすうぞくならんでいた。

 一体いったい一体いったい実力者じつりょくしゃとしての風格ふうかくっていた。


 琉那ルナかおすこしづつよろこびの表情ひょうじょうたされていく。


かえったらすききにしよっかな」


 琉那ルナは[ウェポン・ディケイ]をさやもどすと、[波切なみきり]をく。


「くるぞ」


 蛇族へびぞくおとこ琉那ルナの《怒撃どげき》を警戒けいかいし、姿勢しせいひくくした。


 琉那ルナは[波切なみきり]をりかぶり――げた。


 幸運こううんにもけることができた蛇族へびぞく琉那ルナ接近せっきんし、こうとくちける。


 さらにそのうしろから兎族うさぎぞく鳥族とりぞくつづき、波状攻撃はじょうこうげき仕掛しかける。


 琉那ルナ水銀すいぎんかべ蛇族へびぞくけ、左右さゆうからあらわれたぞくたち攻撃こうげき後方転回こうほうてんかいかわす。


 蛇族へびぞく一体いったい水銀すいぎんかべうえからびかかる――が、琉那ルナりでかべたたきつけられる。


 間髪入かんはついれずに虎族とらぞく二対につい剛腕ごうわんるが、水銀すいぎんたてはばまれ、間合まあいのうちいりまれる。

 琉那ルナ虎族とらぞく鳩尾みぞおち掌底しょうていらわせる。

 虎族とらぞくかるひるむが、すぐさま琉那ルナとの肉弾戦にくだんせんおうじた。


 二体にたいなぐっているすき熊族くまぞく店内てんないかべ何枚なんまいやぶり、通路つうろ琉那ルナ接近せっきん――虎族とらぞく加勢かせいするが、琉那ルナ体格差たいかくさをものともせず肉弾戦にくだんせんつづける。


 そこへ蜂族はちぞくおんなやり琉那ルナこうがわ投擲とうてきし、アペイロンを発動はつどう――蜂族はちぞくやりあいだかみなりながれる。


 閃光せんこう轟音ごうおんがそのつつむ。


「やったか!?」

「お約束やくそく!まだやれてない!」


 熊族くまぞく言葉ことばとおり、琉那ルナ場所ばしょには球状きゅうじょう水銀すいぎんかたまりがあった。


 そこへ虎族とらぞく下腕かわん両手りょうてみ、ろすと、風船ふうせんのようにれた。


 なかにはだれなかった。


「おい!をつけ――」


 蜂族はちぞくおんな天井てんじょうたたきつけられる。


「やっぱり地面じめんかよ!」


つぎなんだとおもう!?」


 琉那ルナちていた[波切なみきり]をけながらひろげる。

 そのかおあそびをたのしむ子供こどもそのものだった。


「どうせまた無茶苦茶むちゃくちゃ攻撃こうげきなんだろ!?」


 言葉ことばかえ虎族とらぞくおとこ背後はいご水銀すいぎんはしらつ。

 なかから琉那ルナあらわれ、正拳突せいけんづきをはなつ。


 それを四本よんほんうでけるが、水銀すいぎん琉那ルナ腕力わんりょくでこじけられ、りを鼻先はなさきらい、対面たいめんにあるみせまでばされる。


 ちゅう琉那ルナ熊族くまぞく巨大きょだいたたきつけるが、水銀すいぎんをクッションにし、すべるかのように距離きょりる。

 そして水銀すいぎん投石器とうせききのようにあやつ自身じしん射出しゃしゅつ――熊族くまぞくつぶし、つかみ、身体からだひねらせげた。


 熊族くまぞく巨体きょたい地面じめんたたきつけられ、ゆかおおっていたすなくずれた。


「あれれ?ってやっぱり――すなあやつやつるかんじ?ユリちゃんがってたのってこれのことかな?」


 ちいさくつぶや琉那ルナまわりを様々さまざま種族しゅぞくかこむ。


 危機的状況ききてきじょうきょうおちいってもなお琉那ルナ笑顔えがおえない。


「あともうすこしあーばれよっと!」

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灰銀の楽園 @soranizitoiro

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