#23 VS灰

(くそ!やられた!)


 ダンジョンのさらにふかく。


 そこにカイながされていた。


 途中とちゅうつかみかかってきた回避かいひすることに成功せいこうしたが、そのまますな一緒いっしょながされてしまった。


 カイはこの状況じょうきょうからそうとしたその瞬間しゅんかんだった。


 何者なにものかにあしつかまれ、すなからされると、ショーウィンドウに投付なげつけられる。


「よし、これで気絶きぜつしてくれればよいのですが……」


 そうつぶや色鮮いろあざやかな鳥族とりぞくつばさたたむ。


 しかし、鳥族とりぞく思惑おもわくどおりにはいかない。


「この程度ていど気絶きぜつできるならしてみたいね」


 カイがショーウィンドウのなかからあらわれる。

 あたまから出血しゆっけつしたのか、灰銀色かいぎんしょくかみ一部いちぶあかまっている。


流石さすがは[十人十色組じゅうにんといろぐみ副団長ふくだんちょうけん医療隊長いりょうたいちょう]のカイですね」

「よくってるね」

「それは勿論もちろん貴方あなたたち情報じょうほうはできるかぎあつめましたので。ですが――」


 鳥族とりぞくおとこ――セン片足かたあしつめ自身じしん羽毛うもうつつまれたほほきながらう。


貴方あなた情報じょうほうだけはあつまりがわるくて、正直しょうじきビックリしてますよ」


 センカイほそにらむ。


先程さきほどまで出血しゆっけつしていたはずなのに、もうまっている……海龍族かいりゅうぞくか、両生族りょうせいぞくか……)


 センカイとの間合まあいをたもちながら観察かんさつつづける。


「そうですね……取引とりひきでも――」

ことわる」

「……ほう?」


 カイセン言葉ことば気味ぎみ拒絶きょぜつした。


 交渉こうしょう余地よちうしなったセンえら行動こうどうはただひとつ。

 カイ戦闘不能せんとうふのう状態じょうたいまでむことのみ。


 セン前傾姿勢ぜんけいしせいになり、カイ接近せっきん

 自身じしん自慢じまんつばさカイ喉元のどもとてる。


 カイはこれを間一髪かんいっぱつけた。


はや!けど、けれないわけじゃない!)


 セン攻撃こうげきゆるめない。

 くことができなければつばさり、さらにけられれば、なが尾羽おばねたたつぶそうとする。


貴方あなたかずすくない情報じょうほうひとつ。身体能力しんたいのうりょくひくいときましたが、反射神経はんしゃしんけい運動神経うんどうしんけいいのですね!」


 尾羽おばね地面じめんたたきつけ、尾羽おばねはらいをすが、カイはさらにける。


 攻撃こうげきすべてかわされセン苛立いらだちの表情ひょうじょうかべる。


 たいするカイいきこそらげながらも、冷静れいせい対処たいしょつづけている。


 そしてついにカイ反撃はんげきた。


 からのどとおカイくちなかはこばれる。


 カイくちひらく。


 そこには二本にほんながしたと、そのしたかれた二個にこ球状きゅうじょうたまごがあった。


「行け!」


 カイたまごくちからすと、センけて投擲とうてきする。


 くうされたたまご一瞬いっしゅんでひびれ、なかからヘビトンボに羽虫はむしがそれぞれ一匹いっぴきづつ孵化ふかする。


 その二匹にひき獲物えものもとめ、センおそいかかるが、一瞬いっしゅんにしてたてかれた。


 センはね金属光沢きんぞくこうたくを、まとっていた。


自身じしん身体からだてつえれるアペイロンか)

むしたまごし、それを使役しえきした?体内たいない寄生虫きせいちゅうっているのでしょうか?ですが、情報じょうほう合致がっちしない……)


 たがいが思考しこうめぐらせながら、戦闘せんとうつづく。


 カイ次々つぎつぎくちから様々さまざまむしたまごし、センおそわせるが、センはそれらをてつ変化へんかしたつばさてる。


(あの鳥族とりぞくはね模様もようからして孔雀族くじゃくぞく全長ぜんちょうさんメートル。アペイロンは動物どうぶつにしか作用さようしない鉄変換てつへんかん感染かんせんしやすいタイプなら直撃ちょくげきけないと……)

 

 カイげながらもセン解析かいせきすすめ、打開だかいするための時間じかんかせぎをしていたが、センカイ速度そくど上回うわまわはやさでむしきざむ。


 そのときカイ頭上ずじょう天井てんじょうやぶり、二体にたいのハイエナぞくあらわれた。


 それぞれ長剣ちょうけん短剣たんけんにぎり、カイおそいかかる。 


 カイ咄嗟とっさ左腕ひだりうで犠牲ぎせい二本にほんつるぎけるが、そのすきセン見逃みのがさない。


 むしれのなかってカイばす。


 カイ地面じめんころがりながらも、なんとか体勢たいせいなおす。


増援ぞうえん!ただでさえめられてるっていうのに……だけど、あともうすこしで出来上できあがる!)


 カイさらたまごすと同時どうじセンたちとは真逆まぎゃく方向ほうこうへとはしした。


「ッ!?」

「あのヤロー!げましたぜセンさん!」

あわてる必要ひつようはありませんよ」


 センいた声色こわいろでそううと、孔雀くじゃくぞく特有とくゆううつくしい尾羽おばねひろげる。


 そして、ひろげられた尾羽おばねらし、かわいたおとらす。


「すぅー……クェアアアァァァ!!」


 センはダンジョンないらすほどこえを上げる。


 げたカイにもそのこえとどいた瞬間しゅんかん、ハイエナぞくされた左腕ひだりうでてつへと変化へんかした。


(まさか……あのつるぎにあの孔雀族あいつのアペイロンが付着ふちゃくしてたのか!)


センさん!上手うまくいきましたね!」

「ギャハハ!これでボスも大喜おおよろこびだ!」


 二体にたいのハイエナぞく甲高かんだかこえ嘲笑わらう。


 そんな二体にたいカイにらみつける。


「なんだなんだ?ナマイキなしや――ガッ!?」

「おいキョーダイ!どうし――ダ!?」


 ハイエナぞく二体にたいよろいのような形状けいじょうをした羽虫はむしき、そのままカイもとへとる。


(アレは?いや、とにかくめなければ――)


 カイもと羽虫はむしめようと、セン前傾姿勢ぜんけいしせいになった。

 セン眼前がんぜんてつかたまりげつけられ、それをもろにけた。


一体いったいなにが!?てつかたまりなんて、やつまわりにかったはず!いや……まさか!!)


 センカイ姿すがたとらえる。


 セン予感よかんたっていた。

 カイてつへと変化へんかした左腕ひだりうでくなっていたのだ。


 センけたてつかたまりカイとし、ばしたカイうでだった。


でもくるっているのですか!?」

「いいや、どうせあたらしくなるし、もういらないからね」


 淡々たんたんかたカイまわりには、先程さきほどハイエナぞくいた羽虫はむしっている。


 その一匹いっぴき一匹いっぴきカイうであしむように装着そうちゃくされる。


 最後さいごうす細長ほそながいヒラムシのような生物せいぶつくちから首元くびもとかくすようにく。


 カイしたたまごのDNAをいじり、様々さまざま形状けいじょう生物せいぶつ孵化ふかさせる。

 そのなかでも自身じしんまもよろいとなるものにカイはこう名付なづけた。


生命鎧ライフアーマー》と。


「よし、これで本気ほんきせる!」


子供こどもたちあつめた情報じょうほうではきずいやす、にもめずらしいアペイロンをっていると……これでは別物べつものではないですか!)


 セン動揺どうようしているカイ急接近きゅうせっきんし、ガントレットにつつまれたこぶしりかざす。


 セン最初さいしょこそけのかまてをっていたが、いや予感よかん脳裏のうりはしった。

 咄嗟とっさ身体からだき、カイ攻撃こうげきける。


 カイこぶし地面じめんにぶつかる。

 地面じめんのタイルがカイこぶし中心ちゅうしんれた。


(なんだ!?きゅう身体能力しんたいのうりょくがった!?)


 カイの《生命鎧ライフアーマー》はよろいとしての役割やくわりだけでない。

 それは外付そとづけの運動器官うんどうきかんとして、カイ身体能力しんたいのうりょく向上こうじょうさせる。


 カイけられないよう、さら接近せっきん右手みぎて裏拳うらけんセン胸部きょうぶ打撃だげきあたえ、ばす。


 ショーウィンドウをやぶり、洋服店ようふくてんなかされる。


 センつぎ攻撃こうげきそなえ、体勢たいせいととのえる。


 体勢たいせいととのえると同時どうじひとつのかげまえあらわれた。


 そのかげ袈裟斬けさぎりをらわせる。


(な、マネキン!?)


 力無ちからなくずちたマネキンにられているに、カイ背後はいごからセンなぐりつけ、洋服店ようふくてんそとまでばす。


「ぐうぅ……!みなさん!出番でばんですよ!!」


 センさけぶと、あらゆるところから何体なんたいものぞくあらわれた。


卑怯ひきょうだとおもっていただいてもかまいませんよ」

べつにいいよ」


 カイ背負せおっていた自身じしんけんく。


 そのけんはソードブレイカーとばれるけんおな形状けいじょうをしているが、あきらかにちがてんがあった。

 本来ほんらいのものより、はるかにおおきいのだ。

 カイ身長しんちょうおなじくらいの大剣たいけんともえるおおきさがある。

 そのけんは[コンバット・エンド]。


 カイかまえるまえに、すぐちかくの牛族うしぞく大男おおおとこ巨剣きょけんろす。

 それと同時どうじ蜥蜴族とかげぞくおとこ小太刀こたちカイりつけようと接近せっきんする。


 しかし、牛族うしぞく大男おおおとこ攻撃こうげきめられた。

 カイが[コンバット・エンド]のみねけ、全身ぜんしんえる。


 そして接近せっきんしてきた蜥蜴族とかげぞくおとこあしの《生命鎧ライフアーマー》でける。


 つぎ攻撃こうげきまえに、カイ蜥蜴族とかげぞくおとこ片足かたあしばし、牛族うしぞく大男おおおとこ鍔迫つばぜいをいどむ。


 しかし、牛族うしぞく大男おおおとこ巨剣きょけんにはつばいため、そのまま手首てくびまで到達とうたつする。


 ソードブレイカーの本来ほんらい使つかかたでは、細長ほそなが長剣ちょうけんるのに使つかう。


 カイ相手あいて手首てくびたっしたのを確認かくにんすると[コンバット・エンド]をいきおいよくった。


 牛族うしぞく大男おおおとこがあらぬ方向ほうこうがる。


「へ?」

ねぇ!」


 なにこったか理解りかいできていない牛族うしぞく大男おおおとこいて、次々つぎつぎ武装ぶそうしたぞくカイせまる。


 カイ自由じゆうになった[コンバット・エンド]のみねせまってくるぞく何体なんたいかをっかけ、べつぞくへとげつけ、そのすき右腕みぎうでかまえる。


 てのひらいたあなから高温こうおんガスを噴出ふんしゅつし、はらう。


 高温こうおんガスにさらされたぞくたちあわてふためいている。


「クソッ!なんなんだよあのガキ!!」

「あんなのどうやってりにしろってんだ!?バカじゃねぇのかよあの依頼主いらいぬしは!」


依頼主いらいぬし?それにりって……)


 蒸気じょうきつつまれた空間くうかんからこえてきた言葉ことば思考しこうめぐらせようとするが、その蒸気じょうきなかってセン肉薄にくはくする。


「これだけのかずでもえられるとは、おどろにましたよ!いい加減かげん気絶きぜつしてもらえませんかね!?」

だね!!」


 センなが尾羽おばねカイはじばそうと、自身じしん身体からだ半回転はんかいてんさせる。

 しかし、セン尾羽おばねによる攻撃こうげきカイの[コンバット・エンド]によってめられる。


 そのときセン奇妙きみょう感覚かんかく同時どうじに、奇妙きみょう光景こうけいたりにした。


なみだ!?)


 セン攻撃こうげきけたカイには、たしかになみだまっていた。


 そして、センかんじた奇妙きみょう感覚かんかく勘違かんちがいではかった。


喜怒哀楽流きどあいらくりゅう――哀反あいたん


 カイセンからけた攻撃こうげき衝撃しょうげきめ、その運動うんどうエネルギーをころさずに一回転いっかいてんし、[コンバット・エンド]をセンこめかみたたける。


 喜怒哀楽流きどあいらくりゅう――それは比嘉家ひよしけつたわる流派りゅうはひとつであり、感情かんじょう起伏きふくによる筋肉きんにく緊張きんちょう弛緩しかん利用りようしたものである。

 もとたたかいのなか精神せいしんませることがいようにとつたえられていたものだったが、いつしか戦闘技能せんとうぎのうひとつとしてあつかわれるようになった。

 そのうちの《哀反あいたん》はなみだながことによるストレスの緩和かんわ、そして筋肉きんにく弛緩しかんによる攻撃こうげきながしによる反撃カウンターおこなわざである。


 センは《哀反あいたん》によるカウンターをもろにけ、かべたたけられる。


 カイセン一瞬いっしゅんいつくと、あらたにんできた羽虫はむし左手ひだりてつかむ。


 その羽虫はむしはレイピアのように細長ほそながい。


 生命鎧ライフアーマーおなじように、DNAをいじ武器ぶき形状けいじょうへと孵化ふかさせたもの――生命武器ライフウェポンである。


(さっきぼくうでてつえたとき尾羽おばねらしてからの咆哮ほうこう……どっちかの条件じょうけん発動はつどうするように調教ちょうきょうをしているはず……!)


 アペイロンの調教ちょうきょう

 アペイロンは宿主やどぬし意思いしによって発動可能範囲内はつどうかのうはんいないであればそれぞれの効果こうか発動はつどうすることができる。

 しかし、おおくのアペイロンは宿主やどぬしからとおくなるほど精密性せいみつせいひくくなり、発動効果はつどうこうかよわまる。

 さらに、センのように感染対象かんせんたいしょうにしか発動はつどうしないアペイロンの場合ばあい発動可能範囲はつどうかのうはんい体内たいないのみにかぎられる。

 その弱点じゃくてん克服こくふくするために超越者ちょうえつしゃたち様々さまざま調教ちょうきょうをアペイロンにほどこす。

 衝撃しょうげきおとねつひかりといった外的要因がいてきよういんによって効果こうか発動はつどうするようにアペイロンをそだてることで、自身じしん弱点じゃくてん克服こくふくする。


 カイセンのアペイロンの性質上せいしつじょうセン以外いがい

生命体せいめいたい遠距離えんきょり鉄化てつかするのは調教ちょうきょうしでは不可能ふかのうかんがえ、発動条件はつどうじょうけんさぐる。


尾羽おばねらすだけか咆哮ほうこうだけならいいけど……拍子ハクシさんみたいにおとつらねて発動はつどうするタイプだと面倒めんどうだ。


 カイ左手ひだりてつかんだ生命武器ライフウェポンかまえる――


喜怒哀楽流きどあいらくりゅう――楽滅らくめつ――蜂式はちしき――穿刺突せんしとつ


カイのどつらぬこうと、両足りょうあしうば生命武器ライフウェポンく。


 しかし、のどてた生命武器ライフウェポン金属音きんぞくおんて、まる。


一瞬いっしゅん鉄化てつかした!!)


 つぎ瞬間しゅんかんセン自身じしんかおカイかおちかづけると、くちひらく。


 そして、自身じしん鉄化てつかしたしたカイつらぬこうとしたが、かなわなかった。


 センばしたしたカイ首元くびもといていた生命鎧ライフアーマーはばまれたのだ。


 セン鉄化てつかしたしたは、生命鎧ライフアーマーそなえられた無数むすうみつかれ、すこともくこともできなくなっていた。


(まず――)

「ぐぅう――ガアアァアア!!」 


 セン顔面がんめんつかむと、カイ自身じしん身体からだらせる。


 カイセンかお距離きょりはなれていく。

 セン鉄化てつかしたした悲鳴ひめいげる。


 カイはそれにかまわず、した千切ちぎった。


 間髪入かんはついれずに、カイセンかおつかんだままかべり、センまわし、かべたたけた。


 カイは、吐血とけつしそのたおセン姿すがた確認かくにんすると、のこったほかぞくほうかえる。


「まだやるの?」


 カイいにセン仲間なかまちぢこませてしまう。


 そのときだった。


 カイ背後はいごから腹部ふくぶつらぬかれたのだ。


 カイ冷静れいせいに、ほうるとそこにはセンっていた。


「ま(だ)……ま(だ)(だ)ァ……!」


 センからあきらめの意思いしえない。


 センカイしたはねひねり、みずからのちから千切ちぎると、距離きょりる。


 たいするカイさったままのはねくと、センたちにらみつける。


「そっちがそのなら――おいで。カブトロイド」


 そのつぎ瞬間しゅんかんカイ頭上ずじょう天井てんじょう破壊はかいされ、カイ背後はいご巨大きょだいかげつ。


 センはそれをてすぐさま全身ぜんしん羽毛うもう鉄化てつかさせる。


虹羽鉄化スケイルモード


らいいあうんろほいひまひょうか(第二ラウンドと行きましょうか)!!」


「ヤローども!センさんにつづけー!」


 カイたたかいはさら混沌こんとんした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る