第13話 召喚士は学業に勤しむ
『天災』の大魔女ナジアリーゼから合格を貰ってからの日々は、怒涛の一言だった。
まず家を買った。小さな家だ。
魔術都市でも比較的治安は良いものの、商店街から離れており、少し不便な場所にあった家を元値の半額で購入することができた。
理由は多々ある。
まず、その物件に前住人が悪霊化したゴーストが住み着いていたことが大きいだろう。
それを祓う代わりに半額で前所有者から買い取ることができた。
本来なら物理攻撃の効かないゴーストだが、こちらには聖女たるカナンがいる。
徐霊など朝飯前だった。
しかし、それでも家を一つ買うというのは決して安い買い物ではない。
では何故、宿で済ませないでわざわざ家を買ったのか。
偉大なる『天災』の大魔女ナジアリーゼに叱られてしまったのだ。
『お主、嫁が二人もいて宿暮らしとかふざけておるのか? 家を買え!! 嫁を養え!!』
割とマジギレだった。
『天災』などと物騒な二つ名で知られている割に常識的というか、何というか。
でも一つだけ訂正させてもらった。
レフィアとカナンは恋人であり、厳密には嫁ではない。
特にカナンは聖女で、しきたりに従うならいつかベイルの妻になるかも知れない。
……考えるだけで鬱になりそうだ。
生憎と俺は一人で解決できるような有能ではないため、直接二人に相談した。
その時の答えは――
「そ、そう、結婚まで考えてくれていたのね。子供は何人欲しいかも、決めてたり?」
レフィアは頬を赤らめながら言っていた。
あまりにも可愛がったので、その場で押し倒しておせっせしてしまった。
対照的にカナンはいつもの如く微笑み……。
「その辺の問題は解決の目処が立っているのでご心配無くぅ。それよりレフィアさんだけずるいですぅ。私もぉ、可愛がってくださぁい。ちなみに私はぁ、子供が十人は欲しいですぅ」
とのこと。
レフィアに負けず劣らずの可愛さに、俺はカナンを押し倒してそのまま二人とベッドでおせっせしてしまった。
俺の思っているよりも早く、かつ沢山の子供ができるかも知れない。
その時に備えて子供たちを養えるよう大金を稼ぐ必要がある。
幸いにも当てはあった。というか、できた。
大魔女ナジアリーゼが割の良い仕事を紹介してくれるらしい。
内容は教えられていないが、いっそ怖いくらいの満面の笑みでナジアリーゼが言っていたので覚悟はしている。
余程の犯罪じゃないなら、やろうと思う。
それから月日は過ぎて、俺が魔術学校に初登校する日がやってきた。
「ど、どうだ? 似合うかな?」
俺は魔術学校から届いた制服、如何にも魔術師らしいローブをまとっていた。
黒基調の、ちょっとカッコいいローブだ。
「なんというか、新鮮ですぅ」
「アスターが魔術師っぽい格好をしてるのって初めて見たわ。似合ってるわよ」
「そ、そうかな?」
召喚士は広義的には魔術師だ。
そもそも魔術というのは魔力を使った不思議現象のこと全般を指す。
錬金術や召喚術は無論、死霊術も魔術だ。
しかし、俺は勇者パーティーにいた頃からあまり魔術師らしい格好をしていなかった。
だってローブとか、夏場クッソ暑いし。
でも流石は魔術学校の制服たるローブと言ったところか。
このローブには体温調節機能を始め、あらゆる快適な機能が付いていた。
余程腕の良い魔導具師が拵えたのだろう。
「じゃあ、えっと、行ってきます」
「いってらっしゃい」
「勉強ぉ、頑張ってくださぁい」
俺は二人に見送られて、魔術学校へと向かう。
校門を潜り、幾人かの生徒や教師と目が合ったので挨拶をしようと思った。
「おは――」
「ひっ」
「あ、おは――」
「ひいっ!!」
めっちゃ避けられてる。いやまあ、心当たりはあるけども。
ただの入学試験で上位天使を召喚し、『天災』の大魔女の弟子になった男に関わりたいと思う物好きが果たしているだろうか。
いや、いない。
俺でも間違いなく避けるし、可能なら視線も合わせないようにする。
別に悲しくはない。ちっとも。
俺は晴天なのに頬を伝うしょっぱい雨を拭いながら、ナジアリーゼが生活している彼女の研究室へと足を運ぶ。
魔術学校は第一から第六の塔から成る。
各々の塔を大魔女が治めており、そのうちの一つである第六塔の頂上にナジアリーゼの研究室があるのだ。
ハッキリ言おう。
「か、階段が、ハードすぎる!!」
塔には百の階層があるらしかった。
俺は膝がガクガクになるほど頑張って階段を登り、ようやく最上階に着いた。
「お、おはよう、ございます」
「む、遅かったのう? 初日から遅刻とは良い度胸じゃな」
「ん、んなこと言ったって、あんなアホみたいな長い階段登るとか、時間かかりますよ……」
「は? お主、登ってきたのか? 転移陣あったじゃろ」
「え?」
「え?」
俺は絶句し、その場で崩れ落ちる。
言われてみればたしかに、一階の床に知らない紋様があった気がする。
そうか、あれか。
「て、転移陣って、そんな、古代魔術の類いなんじゃ……」
「儂の専門はその古代魔術なのじゃ。特に時空間に関するものでな、転移陣などは儂の研究成果の一つじゃ」
「そういうの、最初に言ってください!!」
「お、おう、す、すまんの。説明し忘れておったわ。……ちと待っておれ。茶を淹れてやる」
そう言ってナジアリーゼが俺を研究室に置いてあるソファーに座るよう促してきた。
俺は流石に疲れ果て、お言葉に甘える。
「……ほれ、儂自ら淹れてやった茶じゃ。ありがたく飲むが良い」
「いただきます。……何これ超美味しいんですけど」
「くふふ。儂が趣味で育てておるアデラ茶じゃ」
アデラ茶。千年前に絶滅したお茶の葉だ。深くは突っ込むまい。
「……たまげたのう」
「何がです?」
俺がお茶を飲んでいると、ナジアリーゼがこちらを見ながら呟くように言った。
それは俺を見ているようで、見ていない。
目に見えない俺の何かを見ているのか、少し背筋に冷や汗が流れる。
「お主、儂が何をしたか分かるか?」
「えーと、魔力を視たんですよね? 多分」
「そうじゃ。それが分かるくらいには魔力を練れておるようじゃな、素直に驚いた」
「凄いんですか?」
「うむ。入学試験の日から数日、ここまで形になるとは思わなんだ」
べた褒めは少し照れるなあ。
「……まったく恐ろしい」
「え? 何か言いました?」
「何でもないのじゃ」
それから俺はナジアリーゼから転移陣の使い方を教わり、その日は簡単な連絡事項で終わった。
魔術学校と言うからにはもう少し授業とかあると思ったら、俺はそういうのが免除されているらしい。
大魔女ナジアリーゼから直々に教わる方が学ぶことが多いからだろう。
別に学費払ってるわけじゃないしね。
なんか弟子特権で諸々の費用は全て学校側が負担してくれるらしい。最高。
「明日からは本格的に色々と教えてやるのじゃ。覚悟するがよい」
「はい」
俺は満面の笑みで頷き、明日からの学校生活を想像してニヤニヤするのであった。
―――――――――――――――――――――
あとがき
どうでもいい小話
作者「打ちきりです」
ア「お疲れっしたー」
作者「あと最近ノクターンで小説書き始めました。『過去に戻った俺は鈍感な友人が好きな女たちを寝取って犯して生きてイクっ!』です。エロに全振りしてます。時間がある時にどうぞ」
「打ちきり残念」「面白かった」「ノクターン読みに行くで!」と思った方は、感想、ブックマーク、☆評価、レビューをよろしくお願いします。
次の更新予定
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勇者パーティーをクビになった召喚士は勇者の仲間(♀)を召喚してしまった……。 ナガワ ヒイロ @igana0510
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