少しの間の恋 三題噺/詐欺/呼吸/空腹
雨宮 徹@クロユリの花束を君に💐
少しの間の恋 三題噺/詐欺/呼吸/空腹
私は空腹で歩くのも辛い状況だった。なにせ二日間、何も食べていないのだから。結婚詐欺にあってお金を失ったのが大きかった。もう、男は誰も信じられない。疲れのせいか呼吸が浅い。早く何かを食べたい。
そんなふうに思いながら路上を歩いていると、見知らない男性から声をかけられる。
「お姉さん、大丈夫ですか。足元ふらついてますよ?」
また、男か。男は信用できない生き物だ。こいつも同じに違いない。
「もしかして、飲まず食わずなんですか? もし、良かったらご飯をご馳走しますよ? ほら、あそこにレストランが見えるでしょう。あそこなんて、どうですか?」
ご飯を奢る? そんな話、あるのだろうか。
「その感じ、信用されてないようですね。なら、せめてこれを受け取ってください」
男は1000円札を渡してくる。
「もし、嫌だったら交番に届ければいいでしょう?」
「あの、あなたの名前は?」
「名前? 中本です。もしかして、気になりますか?」
「そんなわけないわ!」
「まあまあ。そう怒らないで。冗談ですよ、冗談」
私は中本なる人物からもらったお金でお腹を満たしていた。それにしても変わった人だった。見知らない人を助けるなんて。人格者に違いない。
私は昨日と同じ道を歩いていた。中本さんにお礼を言うために。あの作業服は近くの工事現場のものだ。ここら辺を歩けば、また会えるかもしれない。その時だった。彼が向こうからやってきたのは。
「中本さん、昨日はありがとうございました」
「良かった。昨日のお金、食事代に使ってくれたんですね!」
「はい。とても助かりました。その……今度は一緒にどうですか? 私、お金は出せないですけど……」
「本当ですか! 嬉しいです」
それから数週間、私は中本さんと一緒に過ごす時間が長くなった。彼は仕事を斡旋してくれたから、まともな生活ができるようになった。これなら、中本さんにお礼ができる。そう思うと、私は嬉しくてたまらなかった。これが恋か。久しぶりの感覚だった。
数日後のことだった。中本さんから呼び出されたのは。
「急にごめん。少しお金が必要になったんだ」
「ほんと!? どれくらい必要?」
「10万くらい……」
それくらいなら、すぐにでも渡せる。その時、ハッと気がついた。これは詐欺師の手法だ。危うくまた騙されるところだった。でも、もしも本心だったら? 私は恩人を見捨てることになる。
「それ、本当? もしかして、騙し取ろうとしてない?」
「そうか、君には僕が詐欺師に見えるんだな。心外だよ。君とはこれっきりだ。他の人にあたるよ」
中本さんと別れて数日後。たまたま、レストランに入った時だった。中本さんの姿を見つけたのは。彼は見知らない女性と楽しそうに話している。私は嫉妬のあまり、胸が苦しくなった。これが本当の恋か。次の瞬間だった。中本さんが女性にこう言ったのは。
「ねえ、少しお金を貸してよ」
少しの間の恋 三題噺/詐欺/呼吸/空腹 雨宮 徹@クロユリの花束を君に💐 @AmemiyaTooru1993
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