最終話:終わりなき日々

 結局のところ、王都中を巻き込んだ騒ぎは持ち込まれた魔道具が暴走してしまったというものだと公表された。

 悪魔の力だなんだと言っても信憑性がないし、一部の人間を除いて事実を知るものはいない。

 俺たちにも厳重な戒厳令が下された。こちらとしても特に公表して得することはないので、みな了承した。


 ヘエルの沙汰だが、これが不思議なことに犠牲者として認識されていた。

 おそらく学園長の差し金だろう。話は聞けていないが、そういう事をやりそうな面はしていた。

 代わりに矛先を向けられたのはと言うと、路地裏だ。


 流石に今回の件で路地裏にも国家の手が介入するだろう。

 暴かれることなかった国の暗部に踏み込むんだ、何が出てきてもおかしくない。

 ついにと言うべきか。流石にと言うべきか。

 悪魔の力を発端としたこの騒動に深くかかわった路地裏をそのまま放置にはできなかったんだろう。


 良くも悪くもこの国は変わるだろう。

 路地裏の闇は深い。果たして、国がどこまで介入できるものか……


「そんな顔をするな坊主」

「うるさいな。俺だって浸りたい時ぐらいある」


 俺は路地裏の中でも、久しぶりに爺の酒場に来ていた。

 路地裏に国の手が伸びるという噂は早々に広まっており、今となってはこの酒場も人気がまばらになっている。

 国に見つかってはまずいものがあれば、隠したり隠滅したりと忙しいんだろう。


 学園は休校状態になった。ホールが破壊されつくされてるのもそうだが、王都自体が魔境化の影響から戻りきっていない。

 しばらくは復興に手間取ってそれどころではないのだろう。


「お前さんらは頑張ったさ。誰もが認める功績を残した。何が不満なんだ?」

「何が不満か? よく言えたもんだな、あのムカつく学園長と繋がってやがって」


 事が終わった後に発覚したことだが、学園長とこの爺は裏で繋がっていたらしい。驚いた人脈だ。

 学園長はヘエルの動きを見て、路地裏にてこを入れる良い機会だと思って泳がせていた。

 悪魔の力に関しては想像を超えていたらしいが、どこまで本気なのやら。


 つまり、腹立つことに俺らは路地裏を変革するための駒として動かされていたわけだ。

 文句の一つも言いたくなる。


「まあそう言うな。あいつにもあいつの考えがあるのさ」

「そう言って、俺らを上手い様に扱っただけだろうが」

「だが、お前のご主人様の名誉に傷がつかなかったのもあいつのおかげだろう?」


 マッチポンプな気がしないでもないが、そうなのだ。

 学園長が上手いこと周りに根回しと話をしてくれたおかげで、ヘエルは騙されて利用されただけの一生徒と言う扱いを受けている。

 責任がないわけではないが、一端を担っただけと言う比較的軽い扱いだ。


 一体どこから想定して動いていたのやら。

 まさか悪魔の力関連まで想定していたのか? まさかな。


「大人は適当なことばかり言うな」

「ははは。そういうお前はいい顔つきになったじゃないか」


 こいつらはまったく。

 何を考えているのか最後までわからなかったな。


 そういうやり取りをしていると、酒場の扉が開かれる。

 視線をそちらへ向けると、ローブを纏って姿を隠している小柄な影があった。

 誰だかは一目見てわかる。


「コルニクス、やっぱりここにいましたね。屋敷中探したんですよ」

「そういうお前は罰はどうした。屋敷の中で軟禁状態だっただろうに」

「それは……、お父様にお願いして……、ちょっと……」


 言いにくそうにしているヘエルは、どうにもこうにも逃げ出してきたらしい。

 ヘエルは対外的には路地裏の住人に捕まって、無理やり魔道具の起動をさせられた身だ。

 実の家族にも大層心配されて、ほぼほぼ軟禁状態にされていた。


「まあ、いいがな。トートゥムはどうした」

「おいてきました!」

「少しは成長しろ馬鹿野郎」


 色々と収まったが、ヘエルはこの調子だ。

 最近になって、一層俺に対して遠慮がなくなってきた。

 年頃の娘なんだから、もう少し体面を気にしろとしつこく言い聞かせているんだが、聞く様子が一向にない。


「それよりも、コルニクスもこんなところで油売っている場合じゃありませんよ。服を仕立てるための測定、今日の予定ですよ」

「げ、本気でやるのか」

「当たり前じゃないですか。とても名誉なことなんですよ? 叙勲なんてとても名誉なことです」


 ——俺含め、フェレスたちは今回の一件で見事王都魔境化の大本を潰したということで、学生の身と従者の身でありながら叙勲を受けることとなった。

 中でも俺は特別活躍したとトートゥムが発言したことにより、騎士の号を得ることになってしまった。


 名実共に、これで俺はただの路地裏の餓鬼ではなくなる。

 なんと苗字すらもらえるらしい。面倒なことにならないといいがな。


「さあ、帰りましょう。仕立て屋が気を待ってますよ」

「おう行ってこい坊主。何、路地裏も悪いようにはならねぇさ」

「……まったく、お前らは」


 俺は酒場のカウンター席を立ち、ヘエルの手を取る。

 原作の記憶はもう殆ど思い出せない。きっと、あいつが消えた時に持って行ったんだろう。

 この先は俺自身の意志で歩めと言う事か。上等だ。


 俺は最強になる男だ。誰であろうと、なんであろうと、俺の意志を挫くことはできん。

 故に、俺は――


 路地裏から見える狭い空は、青々と輝いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

世界を破壊する悪役に転生したが、俺は最強になるので忙しいため原作展開を破壊します~原作ヒロインがやたらと付きまとってくるのはなんでなんだ?~ パンドラ @pandora

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画