バレンタインのもやもや

チョコレートストリート

バレンタインのもやもや

 近頃は女性同士で送り合う「友チョコ」やふだん買わない豪華な品を楽しむ「自分チョコ」も一般的だけど、昔はバレンタインといえば女性から男性に向けてチョコを贈るものだった。

 だから、2月に催事場にあふれかえる魅惑的なチョコを見る度、「花とチョコレートは女性がもらった方が絶対嬉しいのに」ともやもやしていたのはきっと私だけではないと思う。


 そんなもやもやが、ある年のバレンタインに爆発した。


 夫にプレゼントしたいわゆる本命チョコ。自分では食べたことがない十粒で三千円するお高いチョコ。


 夫は「ありがとう」と言ってばりばり箱を開けると、1粒300円するそのチョコを、映画を見ながらポップコーンでもほおばるみたいに、ひょいぱくひょいぱくと無造作に次々口に放り込んだ。


 え……。


 あげたものの扱いに口を出すのは無粋だ。わかっている。けれど気付くと私の口が叫んでいた。


「もったいないよ、1個ずつ味が違うのに! 1粒が1個のケーキみたいなものなのに! このへんでは買えないのに! 私がもらったら絶対百倍おいしく食べるのに!!!」


 夫はん? という顔で私を見たあと、「残りはあげる」とまだ半分以上あるチョコの箱を差し出した。

「いいよ、そういうつもりで言ったんじゃないよ!」

「いやいいよ。僕はそんなにチョコに思い入れがないから。実はチロルチョコとの違いもわからないから」


 いい人だ。食べ物をくれるとはなんていい人だ。


 私は箱に入っていたチョコの説明を真剣に読んでから、一粒を選んで口に入れた。

「とろっと溶けた。なんかスパイスが入ってて食べたことのない複雑な味がする。すごいおいしい……気がする」


 私が箱にそっとふたをすると夫は「もう食べないの?」と不思議そうに尋ねた。

「ケーキは1日に何個も食べないでしょ? 毎日1個ずつ食べる」


 翌年から夫は、2月になると私の知らない有名ブランドのチョコの詰合せをプレゼントしてくれた。バレンタインは、貧乏性の私が自分のためには買えない豪華なチョコを楽しむ年に一度のお祭りとなって、図らずも私のもやもやが解消されたのだった。


 ちなみに私からは夫の好きなナッツ類をたっぷり混ぜたマシュマロチョコバーをプレゼントしている。1kg以上どーんと豪快に作るので、夫がひょいぱくひょいぱくしてもちっとも気にならない。一応夫からもらったお高いチョコもすすめてみるのだけど、夫はいつも「いやいいよ。2個目食べたら?」と言って笑っている。

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