第45話 ターゲットの正体は

(一体誰を狙おうというんだ……?あまり大事にしたくないし穏便に勧誘とかで素直に仲間になってくれる人ならいいんだけど……)


「勧誘する人数は多ければ多いほど良いというわけではありません。足がつきにくいよう少数精鋭で選りすぐりたいと思います。そのためにはまずはターゲットと接触しなければ何も始まりません」


そう言ってイリスは迷いなくスタスタと歩いていく。

その方向は教室とは少し違う。

ということは先に一目ターゲットの姿を見ておこうということなのだろうか?


「どこにいるのか知っているのか?」


「いえ、それは知りません。ですが探すのは簡単なことですよ」


イリスが指を指した方向には大きな人だかりができていた。

今日何かのイベントがあるという話は聞いていない。

ということはあそこで一体何が起こっているのだろうか?


「……あれは?」


「おそらく今回のターゲットの取り巻きというかファンみたいな人たちですね」


「ファン……?」


なんでファンがいるんだ?

というか学園にそんな影響力を持った人を誘拐だろうが勧誘だろうが連れ出したら大変なことになるんじゃ……

そう思いつつもまずは見てみないとどうしようもないため俺達も人混みに紛れスルスルと前の方へ進んでいく。

するとこの人混みの中心には2人の少女が立っていた。


(うわ、イリスたち並に美少女だな……だけどこんな小さな女の子が一体世界情勢にどんな影響を与えるんだ?)


「イリス」


「あの2人がそうなの?」


「ひとまず容姿の確認はできました。詳しい話は一旦戻るとしましょう」


来た道を戻り人の少ない場所を探す。

周りに聞いている輩がいないことを確認して話を始めた。


「それで?あの2人がターゲットということか?」


「そうですね。正確には片方ですが」


片方か……

2人の美少女はそれぞれ特徴があった。

一人は燃えるような赤い髪をショートカットにし、活発そうなボーイッシュさもある美少女。

もう一人は紺に近い青髪をポニーテールに結んだ落ち着きのある少女。

2人とも品があり人気が出るのもわかるような気がした。


「どっちが狙いなんだ?」


「青髪の彼女です。人材補充ができずとも彼女の身柄だけは抑えておきたいところですね」


なるほど……

ていうか容姿はこの際どうでもいい。

現状肩書のほうが大事だ。

できるだけ小物であってほしいと祈りつつイリスの言葉を待つ。


「彼女の名前はシーラ=ドレイバー。帝国唯一の皇女にして私たちの最優先目標です」


「なっ!?」


帝国の……皇女!?

帝国と戦争したばかりだってのにまた喧嘩を売るのか!?

想像の3倍ぐらいのビッグネームじゃねえか!


「エリー。なんで彼女を狙うの?私はあまり得策のように思えない」


「理由を聞かせてくれないか?」


「もちろんです。まず一つ言えることは彼女の価値は日に日に増していくことでしょう。それこそ世界情勢に影響を与えるほどに」


世界最大国家の皇族ともなればその与える影響は計り知れない。

しかし皇女となれば皇子と比べてしまうと価値ががくんと下がる。

それが男尊女卑の価値観がこびりついているこの世界での常識だ。


「彼女が皇位を継ぐ可能性は低い。いずれは政略結婚で他国に嫁ぐことになるだろう。帝国に目を付けられる可能性を考慮しても手に入れるべき人材なのか?」


「私たちからすれば彼女を


「政略結婚を……させるわけにはいかない?」


「はい」


その理由がさっぱり思いつかないがイリスは自信満々に頷く。

どうやらそれ相応の理由があるらしい。

イリスの話は未だ続いていく。


「帝国は国の規模に対して皇族が少なすぎるのです。病死、戦死、暗殺、派閥争いなど帝国と言わずこの世界には死の気配に満ちています。そんな中もし皇帝の座が空席になるようなことになれば……」


「人類が終わる」


「ええ、デボラさんの仰るとおりです。人類が滅んでもおかしくはありません」


………なんかものすごいスケールの話になってきてないか?

俺は映画の世界にトリップしたんだっけ?


「リチャードが皇太子の座を剥奪されたことで盤面が大きく変わりました。今皇太子に一番近いと言われる第二皇子であるフェリクスが少しでも不穏分子を減らすために迅速にシーラ皇女の政略結婚を決めてしまう可能性があります。なので我々はこのタイミングを逃すわけにはいかないのです」


いなくなってしまえば政略結婚を決めることはできないということか……

皇室の血を守るためにシーラ皇女には生きていてもらわねばならない。

そう考えると自分たちの手の中にいてくれたほうが安心するわな。

無駄に帝国がデカく一強の世界だからこんなにも帝国を気遣わななければならないのか。


「もちろん、皇室の暗殺などは我々がする予定はありません。ですが最近魔王軍の動きも少し怪しくなってきています。数%の確率で人類の滅亡がありえてしまうのもまた事実なのです」


たかが数%、されど、だ。

全人類の命を懸けるにはその僅かな可能性はあまりにも重い。

なんでこんな小さな一組織ごときがこんな重い選択しなくちゃならないんだよ……

でも世界同盟の加盟国がそんなことできるわけないし帝国も権力争いの真っ只中だからな。

意外とこういう第三者じゃないとできないことなのかもしれない。


「だが帝国の皇女が俺たちの勧誘に乗るか?俺にはそうは思えないんだが」


「……なので誘拐も視野に入れなくてはと」


おいおいイリスでも勧誘できる自信が無いってこと!?

それはちとまずいんじゃ……

でももし身柄を抑えられずに数%を引いてしまったら全くもって笑えない。

なんかイリスの提案はいつも俺に選択肢があるように見せかけて無い気がする。


「……まずは彼女と話してみよう。話はそれからだ」


「ええ。事態は刻一刻を争うわけではありません。この学園の滞在中に成功すればなにも問題はありません」


なんとか勧誘してだめだったときは最終手段として誘拐するしかないか……

できればそんなことはしたくないのでなんとか説得したいところではあるが相手の立場が立場なだけに難しい案件になるだろう。


「はぁ……最初から雲行きが怪しくなってきたな。それと一応聞いておこう。シーラ皇女の隣にいた人物は誰だ?」


「はい。彼女は帝国に次ぐ大国であるギッケント王国の第一王女、ケイト=ギッケント王女です。私が今回の人材登用で欲しいと思っていた人ですよ」


どうやらうちの副長殿は世界の二大国家の皇女と王女を攫うつもりらしい。

ちょっと血の気が多すぎでは?


もっと穏やかに済む方法は無いのかよぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!

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親友に裏切られ婚約者に捨てられた俺は好き勝手に人生楽しむことにした〜なぜかイカれた狂信者共が続々と忠誠を誓ってくるんだが〜 砂乃一希 @brioche

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