第44話 同室
(なぜこんなことになってしまったんだ……)
俺は部屋のすみっこの方で頭を抱え現状を整理していた。
確かに俺達の髪はウィッグだから無関係の人を同室にするわけにはいかないというのはわかる。
だがだからといって付き合ってもいない年頃の男女を同室にするというのはいくらなんでも頭おかしすぎではなかろうか?
(だが他にどうする……?仮にイリスとデイジーを同じ部屋にしてもらったところで俺の部屋がなくなってしまう……野宿することは可能だが寮があるのに野宿するなんて変人の極みで浮くし悪目立ちしてしまう。こんなことならロジャーを連れてくるんだった……)
学園にいてもおかしくない男の御剣はロジャーくらいしかいない。
だが第3席ともなればやはりうちの最高戦力の一角なので難易度の高く長期に渡る任務が多くて今回はタイミングが合わず本部にいなかったため連れて来ることができなかったのだ。
つまり俺はこの学園に来る前からもうこうなる運命だったのである。
「あ、あの……ロイ君……お風呂空きました……」
「あ、ああ……ありが……とう……」
後ろを振り返るとそこには風呂上がりで肌が少し火照って赤くなり上気したイリスが恥ずかしそうにもじもじとしながら立っていた。
いつもクールで冷静なイリスが恥ずかしがっている姿はかなりレアで一言で言ってしまうならめちゃくちゃエロかった。
もちろんイリスと出会った初日に風呂上がり姿を見たことはある。
だがあのときのイリスはかなり痩せていたし今はめっちゃ美人に成長した上、体つきも女性らしくなったのであのときとは比較にならないくらい色気があった。
正直直視できないくらい眩しい。
「そ、それじゃあありがたく入らせてもらうとしよう」
「は、はい……。ごゆっくり……」
イリスとはずっと一緒にいて割と阿吽の呼吸になってきたと思うけど今この瞬間は今までで一番気まずかった。
俺は逃げるように風呂に向かいシャワーを浴びる。
(おいおい……相手はあのイリスだぞ……!美人なのは否定しないが大切な妹みたいな存在に何ドキッとしてんだよ……)
家族みたいな存在に劣情を抱いてしまった自分が嫌になり冷水シャワーを浴び続ける。
頭どころか体も冷えてしまったので慌てて浴槽に入ると張られたお湯が体を温めてくれた。
そして心を落ち着かせを風呂を出るとイリスは緊張した面持ちでソファーに座っていた。
「そろそろ寝るか?明日から授業を受けることになるわけだし初日から遅刻するわけにはいかんだろう」
「そ、その……もしレックス様がお望みならばご奉仕します……」
「っ!?」
俺ができるだけ無心で何も過ちが起こらないようにさっさと寝ようとするのだがイリスがとんでもない爆弾発言がぶっ飛んできた。
イリス自身も恥ずかしくてたまらないのか顔が今までで一番真っ赤だったし学園内ではロイ君と呼ぶ約束だったのにレックス様と呼んでいた。
俺の理性をガクリと大きく削ってきた。
「あ、あのなイリス。そういうのは好きな人ができたら……」
「わ、私は恋愛なんかよりもレックス様のほうが大事です!こ、これも副長としての務めですから……!」
「イリス。よく聞いてくれ」
俺はイリスの肩に手を乗せ目をみつめる。
イリスの頬はこれ以上無いくらい赤く染まり目は潤んでいた。
いつもの頼もしい姿とは裏腹に今日は年相応の幼さを持った一人の少女のようだった。
「イリスは黒白双龍団の最古参として、副長としてずっと俺を支えてくれた。つらいことも大変なことも誰よりも一緒に乗り越えてきたつもりだ。それこそイリスは実の妹のように、家族のように絶対に失いたくない大切な存在だ。だからこそ傷つけたくない。わかってくれるか……?」
もうこれ以上誘惑されれば自分を抑えることができないと思う。
もし仮に本能に身を任せてイリスを襲ってしまってもイリスは何事も無かったかのように優しく笑ってくれるのかもしれない。
だがそんなのはだめだ。
この世界で一人になってしまった俺にとってかけがえのない家族。
それを一時の過ちで溝を作りたくなかった。
「レックス様のお気持ち、しっかり伝わってきました。変なことを言ってしまってすみません。でも……大切な存在だと、そう言っていただけるのは本当に嬉しかったです」
そう言ってイリスは笑顔を見せる。
その笑顔は本当に心から嬉しいと思ってくれているのがわかる屈託のない優しい笑顔だった。
俺がイリスのことが嫌いだからそういうことを断ったわけじゃないと伝わってよかった……
「そ、それじゃあ今日は一緒に寝ませんか……?」
「ん?」
すごい感動のシーンみたいに話がまとまろうとしていたのに思わず素で聞き返してしまった。
………一緒に寝ませんか?
いやいやいやいやいやいやいや!?!?!?
俺がさっき言った意味!?
もしかして何も伝わってなかった感じ!?
「あ、あの……そういうことをしようってわけじゃないんです。ただ……家族なら一緒に寝てもいいかなって……」
多分家族でも18と17になって一緒に寝る兄妹はいないと思います。
俺はそう言いたくなったがさっきの話を俺が断った分、もう一度断れる雰囲気じゃなかった。
それに上目遣いしてくるイリスがめちゃくちゃ可愛くて咄嗟に断りの言葉が出てこなかった。
「だめ、ですか……?」
「……今日だけなら」
「………!ありがとうございます!」
イリスはぱぁと顔を明るくさせた。
俺は歯を磨いて布団に潜り込むと枕を持ったイリスをおずおずと言った様子で入ってくる。
肌は触れていないけどイリスの体温が伝わってきた。
「おやすみなさい……レックス様……」
「あ、ああ……」
明かりを消し、しばらくするとイリスの寝息が聞こえてくる。
寝返りを打ち俺の背中に抱きついてくると昔と比べてかなり成長した母性の塊の感触が伝わってきて目がギンギンに冴えわたる。
(ね、眠れねぇ……仕方ない、こうなったら……)
俺は小声で詠唱し自分に睡眠の魔法をかけるのだった──
◇◆◇
「って感じだったな」
「へぇ。ロイ君と同室なんてエリーが羨ましい。代わって?」
「駄目です。絶対に譲りません」
俺達は朝に食堂で合流し朝食をとった後、授業を受けるべく校舎へと並んで歩いていた。
それで同室のことについて話すとデイジーが少し不満げにイリスに代われと言っていた。
デイジーと代わられても俺からすれば女子と同室なことに変わりないので気が張るのは決定事項だった。
まあイリスの髪がバレるわけにはいかないので部屋のチェンジは絶対にしないが。
「まあお話はこれくらいにしておきましょう。今日はやるべきことがありますから」
「動くのは早いに越したことはない。いつ露見するかもわからないしな」
「適当な計画だったら私と部屋交代して」
「適当な計画ではないのでこのままの部屋でいきましょう」
そう言ってイリスは一つ息を吸う。
そしてうん、と一つ頷いた。
「まずは
イリスがこのまま放っておけば多くの人の血が流れるという人物。
一体どんな人物なのだろうと気が重くなるのであった──
───────────────────────
これから3、4日に一回更新目指して頑張っていきまする。
再び宣伝すみません!
『異世界転生したので本物のくっころが見たい!と思って悪役を演じながら女性騎士と片っ端から戦って負かしまくってたらみんな俺に懐いて即落ち二コマだった』
が総合日間1位を頂きました!
これからめっちゃ盛り上がってくるところになるので読んでくださると嬉しいです!
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