最終話:神霊の予感。

「おはよう咲耶さくや


「おはよう水波みずは」(水波は水の神霊)

「なにか用?」

「呼び出してもないのに学校にまで出てこないでってクチが酸っぱくなる

くらい言ってるよね」

「私がひとりのときはまだいいけど、他の生徒がいる前や授業中には出て

こないでくれない?」


「分かってるよ」


「あなたたちが出てくるとみんな怪しむんだから」

「どう見たって、この学校の生徒じゃないって分かっちゃうでしょ」


咲耶が時々生徒じゃない男と話してる姿はとっくに他の生徒たちに目撃されていた。

彼らが神霊だってことは誰にも知られてないけど見ればブ男かイケメンかくらいの

ことは分かるわけで彼ら四人とも超イケメンときてるもんだから女子が

騒がないわけがない。


それも四大神霊が入れ替わり立ち代り出てくるもんだから学校中の噂になっていた。

どこから来るのか、いつの間にか咲耶といる。


中には咲耶に神霊たちを紹介してくれって言ってくる勇気ある女生徒もいた。

紹介なんかできるわけないから、だから咲耶は閉口していた。


花屋さんではお世話になってる神霊たちだけど咲耶が学校にいるときに出てきて

話しかけられるとまじで迷惑。


「いい天気だね、咲耶」


「そうね・・・」

「それで?私になにか用なの?・・・あるんでしょ言いたいこと?」


「あのさ・・・あの胡蝶蘭買ってった青年だけど最近よく店に来るように

なったと思わない?」


「ああ、荷々木野 誠ににぎの まことさん?」


「なにかとやって来て興味もないくせに観葉植物なんか買っていくだろ?」

「花になんか興味ないんだよ・・・なのに来てる」


「興味ないって?なんでそんなこと分かるのよ」


「見てたら分かるよ・・・絶対あいつの家、観葉植物だらけだよ」

「あれは咲耶が目当てだな・・・」


「なに?・・・もしかして荷々木野さんにヤキモチ妬いてるの?」


「なに言ってんの・・・妬かないよヤキモチなんて」

「問題外・・・あいつなんか俺のライバルにもならないよ」

「俺を誰だと思ってんだ、神の使い神霊だぞ」


「すごいね水波は・・・って言うか自信過剰って言うんだよ、そういうの」


「そうだよ・・・来てるんだ最近、あの男」


「わ、びっくりした」

「なに?火耶那かやな・・・まで」(火耶那は火の神霊)

「いきなり出てきて、もうびっくりさせないでよ」

水波みずはひとりでも、面倒なのに・・・あなたまで出て来てきてなに?

「呼んでないからね・・・」


「俺もあの男、気になってんだ・・・おまえもか?水波」


「そうなんだよ・・・咲耶はあの男のことどう思ってるの?」


水波は火耶那に同意して咲耶にそう聞いた。


「どうって?・・・お客様のひとり・・・そう思ってるだけだよ」


「どうかな・・・あの男が来ると咲耶、嬉しそうにしてるよ」


水波は上目遣いに咲耶を見て言った。


「あななたちには関係ないでしょ」

「なんでもないんだから・・・だからそんなことでいちいち出てこないで・・・」


「いやいや咲耶に悪い虫がつかないよう見張ってないと・・・」


「俺、嫌な予感がする・・・」


火耶那が言った。


「俺の予感はよく当たるからな・・・」


「なに言ってるの、今まで当たった試しないじゃない」

「それ予感じゃなくって、ただの妄想でしょ」


「それはひどいよ咲耶・・・妄想なんかじゃなく予感なんだって」


そう火耶那の予感は今回ばかりは当たっていた。


いくら神霊たちが気を揉んでも誠と咲耶はくっつくよう運命付けられて

いたのだ。

定められた運命は神霊であろうと誰であろうと変えられない。


四大神霊のヤキモチと心配をよそに咲耶と誠はお互いに惹かれあって行く。


咲耶の美しさは群を抜いていたため彼女を一目見た男どもは彼女目当てに

何人もが告白したり求婚したりしたがそのたびに四大神霊がそんなことは

させんとばかりに、いたずらを繰り返して男どもの邪魔をした。


だけど神霊たちは誠にもいたずらをしかけて来たから、見かねた咲耶が

彼らをこっぴどくしかったもんだからショックを受けた四大神霊たちは二度と

咲耶と誠の邪魔をしなくなった。


彼らは花屋さんアンジュフロール天使の花たちを育てながらそれぞれが

時々現れては咲耶と誠の様子を伺に来た。


まあ、いくら咲耶に想いをよせても所詮、神霊と女神とが結ばれることはない。

精霊たちにもそれは分かっていることだった。


だから四大精霊たちは富士山の裾野の丘に自分たちの想いを込めて桜の木を植えた。


その桜の名前は「木花咲耶姫コノハナサクヤヒメ


おしまい。

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咲耶さんは神霊君たちに振り回される。 猫野 尻尾 @amanotenshi

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