5


「ねぇねぇ聞いた? お金持ちさんが鍋を振舞ってくれるって!」


「聞いた聞いた! しかもタダなんだって! いこういこう!」


 とある村。二人の少女と少年が満面の笑みで走りゆく。食糧難のこの世界でタダ飯にありつけるのはありがたいことだった。


「ありがとう!」


 二人はくだんの場所へたどり着き、鍋をよそって貰う。よそってくれた相手は深く外套を被っていて顔が見えないが、それでも二人は精一杯感謝を述べた。後ろを見ると、噂を聞き付けた人々が長い列を作っている。少女達はすぐさまそこを離れ、器に入った鍋を食べる。


「おいしい、けど変な味がするね」


「そう? 確かに、このお肉食べたことがない、味が──」


 カラン。片方の少女がおわんを落とす。どうしたの?! と、少年が少女のかたをゆする。少女は震えていて様子がおかしい。


「どうし──」


 ──たの? そう少年が言いかけた時。


「お腹、が、すいた。」


 少女が少年に襲いかかる。ここだけでなく、鍋を食した村人皆がゾンビと化し、人間のままである村人に襲いかかっていた。


「うふ、うふふ、あははは!」


 鍋の前に立っていた人物──ストレーリチアは外套で顔を隠すのをやめ、両手を広げ天を仰ぐ。

 この鍋にはゾンビの肉が入っていた。食人病に感染した肉を食べればその人も感染する。それだけでは無い。共食いもはたすこととなり、鍋を食べた者もゾンビ化し食人するようになる。

 みんなみんな同族を貪る。求める。

 この世界の人々がカニバリズムを行い、ゾンビと化したとき。食人が罪という概念が消えたそのときこそが、ストレーリチアが求めるもの。

 ルレザンが、紛うことなき英雄になるときだ。


「まっててくださいまし、私の英雄様──」


 ストレーリチアはゴクリと、緩やかにとける世界を嚥下した。

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緩やかに、世界を溶かして嚥下する。 師走 桜夏 @trash_december

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