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「あら?」
唾液と涙と、それと血液で汚れたカーペットを片付けているストレーリチア。そのカーペットをめくると、変なものを見つけた。
「なにかしらこれ」
どうやら地下の入口らしい。
(家に地下があるだなんて、三年住んでいるのに知りませんでしたわ)
ストレーリチアはその地下へ足を進めた。コツコツと無機質な音が響く。階段を降りきってあったのは鉄扉だ。ストレーリチアはその扉をゆっくりと開ける。ギギギ、と鉄が擦り合う音。それと共にむわりと、鉄の匂いが広がった。
「──」
ストレーリチアは絶句する。目の前に広がるのは有象無象の骨々だった。動物の骨だろうか。いや頭蓋骨がある。間違いなく人間の骨だ。
「なんで、こんな──」
ストレーリチアは鼻を塞いで涙目ながらに進む。やってきた扉から反対の方にも、もう一つ扉がついていた。そこを開けると上へ続く階段があり、庭に繋がった。
「──」
ストレーリチアの頭の中で全てが繋がる。ルレザンは人を食べていたのだ。それもそうだろう。ルレザンが目隠しをし始めたのは最近、といっても二ヶ月前だ。二ヶ月間、何も食べずに生きていられるわけがない。理性を保っていられるわけがない。
ルレザンはストレーリチアに黙って、人を食べていたのだ。
「そんな、そん、な。嘘よ嘘よ嘘嘘っ!!」
ストレーリチアの中で崩れゆく、ルレザンの英雄像。今まで心の支えにしていたヒーローがボロボロと消えてゆく。
「嘘、ルレザンは間違ってなんかッ。でも人を食べてしまって、ヒーローが。英雄様がっ!!」
人を食べ、しかもそれを隠していた。ストレーリチアの英雄がしてはならないことだ。なぜなら、英雄は間違ったことをしないのだから。
(間違ったこと? そうよ、人を食べることが間違ったことの、はずがない)
ストレーリチアはゆるりと立ち上がり、空に浮かぶ月を見上げる。
「そうよ。そうよそうよそうよっ!!」
まるで母を見つけた赤子のように、掴み取った答えへの喜びを反芻する。ストレーリチアは何回も何回も喜びを噛み締め、空へ向かって正解を叫ぶ。
「人を食べることが間違いなんていう、世界が間違っているんだわ!」
すぐさまストレーリチアは走る。ヨダレと血で滲んだ靴下が土に汚れる。そのまま廊下を歩き、私室の戸を勢いよく開けた。
「英雄様っ!」
そこには、ストレーリチアのベットに横になるルレザン──の死体があった。
「ねぇねぇルレザン。英雄様っ」
まるで意中の相手の部屋に招待されたかのように、ルンルンとストレーリチアはルレザンの元へステップする。とろりととろけたその赤瞳をなぞるまつ毛は、白く星のように輝いている。
「貴方は永遠に私の英雄様なの。でもきっと、皆は貴方を英雄と認めない。人を食べちゃったんですもん。でもね──」
ストレーリチアはゆるりとルレザンにまたがる。その艶めいた桃色の唇を、ルレザンの首筋に重ねる。
「世界を変えてしまえば、どうってことないんですの。私は、貴方を永遠の英雄にしてみせますわ──」
がぶり。ストレーリチアはルレザンの首筋を噛み、それを引きちぎる。ゆっくりそれを口の中で溶かし、ごくり。嚥下する。
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