第13話 特別ボーナス
ダンジョン内では、魔力の源となる魔素が充満している。
これにより魔物は死んでも時間が立てば復活するし、従来よりめずらしい個体や強い種類が多い。
【フリファン】でも、ダンジョンは特に人気だった。
レベルあげはもちろん、素材は美味しく、飽きのこない敵、そしてダンジョンボスによる【ボーナス】。
実際に来てみると、その魔物の多さに驚いた。
だが嬉しい誤算というべきか――。
「グギャアアァッ!」
ここダンジョンは【砂】と【水】の敵が、わんさか出てくるってことだ。
第七層――。
空間が捻じ曲げられているような広い部屋。
その真ん中で、ロボットみたいな茶色いゴーレムが襲いかかってきていた。
普通なら倒すのに何時間もかかるだろうし、そもそも複数パーティが必須なほど強い。
しかし俺からすれば、こいつはただの砂を運んでくる宅配物だ。
名付けるならウーバーサンド。
……何かうまそうだな?
「す、すげえ。サンド、なんでそんな強いんだ?」
「これは異質ですね」
「わ、私魔法使いだけど、こんな質量の魔物を一撃で葬るなんてできないわよ!? そもそも、魔法原理を考えるとありえないし……」
プラチナの小さな女の子、タリンが顎に手をおいてぶつぶつと悩んだかと思えば、突然に叫んで、また悩んだりしていた。
俺と違ってしっかりと魔法教育を受けているのだろう。
確かに質量を考えるとありえないが、感覚で壊せるとわかるのだ。
理屈じゃない。これが、神託級なんだ。もちろん、相応の努力もしているが。
「ほんとサンドは凄いですね! 私も鼻高々です!」
俺の戦闘を見ていたユフィアが、両手をガッツポーズ。
すると、後ろから同じとまではいわないが、かなり大きな水ゴーレムが現れた。
「ユフィア、後ろ! 後ろ!」
「ほんと、サンドさんは凄いです! やっぱり、かっこいいです!」
「ゴオオオオオオ!!!」
「――ちょっと静かにしてもらえますか」
すると、ユフィアが氷のような冷徹な目で振り返ると、さっと手を振った。
ゴーレムが溶けていき、そのまま大きな水たまりとなる。
……いや、君も同じくらいやばいよ?
というか、成長速度でいうと、もう俺を超えてないか?
「何もんだよお前たち……」
「これでシルバーとは笑えないですよ」
「おかしいおかしい! 魔法物理学の原子どうなってるのよ!? 手を振っただけでゴーレムが潰えるなんてありえないわ!? そもそも、粒子レベルで考えると魔力と水は別物のはずよ!?」
タリンは有名な魔法学園を首席で卒業したという。
なんだか申し訳ない。
それから少しして、タリンが俺に歩み寄ってきた。
怒られるかな? と思い、少しビクビクしていたら、手を掴んできた。
え、惚れられた!? 婚約もせずに結婚!? エリートからの求婚、逆玉の輿!?
「捕まえたわ!」
「え?」
「確保、確保よ! ダン、エビ! 早くユフィアちゃんも捕まえなさい! 私たちのパーティーに入ってもらわなきゃダメよ! 人類の英知よ! この二人は!」
当然だが、ダンとエビは困っていた。すまねええなと、申し訳なさそうにされる。
でも大丈夫。可愛い子に手を握られるのは、嬉しいことです。
「……………」
ん? 何かユフィア、ちょっとだけ怒ってる? いや、気のせいか。
「――オラァッ! エビ!」
「ええ、わかってますよ」
結局、二人から賛同を得られなかったので、俺は解放された。
また、ダンジョン内は、すべての魔物が【砂】と【水】ではなかった。
当然だが、フロアごとに魔物が違う。
俺とユフィアは大量に
しかし、驚いた。
連携速度に淀みのない魔力の流れ。
原作を知っている俺だからこそわかるが、とてつもない動きで魔物を倒している。
さらにエビは魔法も使えるらしく、サポートとして支援していた。
そして――。
「――ぶっぱなすわよ。
特筆すべきは、とてつもない魔力砲を放ったタリン。
勢いよくぐんぐん伸びていく。必死でダンとエビが逃げた。
どーんと魔物にぶち当たると、砂埃が舞う。
砂、回収しとこ。
「おいタリン! 手加減しろよ!」
「……ちょっと危なかったです」
二人が思い切り叫ぶも、タリンは「ごめーん!」と謝ってから、振り返り、俺たちにどや顔した。
「どう? 私もなかなかのものでしょ?」
「お、おう」
「凄いです! 凄い魔法でした!」
ユフィアが、両手を掴んでぴょんぴょん。
するとタリンが、頬をぽっと赤らめた。
百合も……いいな。
いや違うか。
てか、タリンも凄すぎるな。
原作では知らなかった人たちも、こうやって人生があって、そして生きている。
当たり前だが、それがなんだか嬉しかった。
七層を制覇、八層、九層と進み、驚くほどスムーズに攻略していった。
「でよお、タリンはいつも俺たちに迷惑かけてばかりでさあ」
「ちょっと、それはお互い様でしょ!」
「僕がいつも大変ですよ」
三人は本当に仲が良い。
それを眺めていると、俺とユフィアも釣られて笑みを浮かべていた。
最近は色々と忙しかったせいか、気を張りつめすぎていた。
それが和らいでいくようだった。
十層、ついにデカい扉がそびえたっていた。
この先はダンジョンボス。
敵が砂か、水か、はたまた別なのかはわからない。
だがきっと倒せるだろう。
しかし、今ここにいるのは俺たちだけじゃない。
「さあて、行こうぜ」
すると、ダンが俺の肩を叩いた。ボスを倒せばアイテムをもらえるが、50回も登頂している彼らと違って、俺とユフィアは別パーティだ。
挑戦してもしクリアすれば、当然だが分け前はほしい。
それ申し訳ないと思っていたが、タリンが俺の心を見透かしたかのように答える。
「さあ、最強の二人を連れてのボス討伐よ。こんなチャンス、私たちにクリアしろっていってるのも同然よ。アイテムは分配。気合入れていきましょ!」
そうか。なら、遠慮なくいくか。
ユフィアも、「頑張りましょう!」と叫んだ。
扉を開けて中に入ると、無機質な部屋だった。
まるで某VRMMOを思わせる感じだ。これ以上言うと色々と危険なので言及はしない。
さながら俺はキリト。あ、言っちまった。
「――上から来るわよ!」
タリンが叫んで、全員が臨戦態勢を整えた。
デカい砂――いや、水とのハーフのゴーレム。
今までの集合体のような感じだ。
だが敵としては好都合だ。俺と
「――俺は、生き延びて見せる。この世界で!」
「サンドさん、突然どうしたんですか!?」
するとそのとき、壁が変形し、鉄のような小さなゴーレムが現れた。
砂で操ろうとしたが効かない。
なるほど、今までとは一味違うということか。
「――オラァッ! 俺に任せな!」
するとダンが前衛で鉄のゴーレムを倒しはじめた。
エビと、タリンもだ。
階級は上なのに、ボスは俺たちに任せてくれるらしい。
その気持ちを、無下にはできない。
「サンドさん、連携攻撃を!」
「――ああ、わかってるぜ」
ゴーレムが右拳を振り落としてきたが、俺は手をあげて受け止めた。
敵に砂さえ入っていれば、何の問題もない。
後ろで、アスナも手をかざして止めていた。あれ? ユフィアだっけ?
そろそろヤバイ。
そのまま魔法で一撃を与えると、ゴーレムがのぞけった。
「アスナ、スイッチだ!」
「え? す、スイッチって何!? あすな!?」
初めての言葉に困惑しながらも、ユフィアは水を操りながらゴーレムに攻撃をした。
マジで申し訳ないので本当にやめる。
「グ、グガガガアア」
「悪いな。――俺はビーターなんだ」
そういって、俺は静かに砂をかき集めた。
一撃だ。
一撃で倒してやる。
――じゃあな。
――――
――
―
「すげえ、なんだこの【アイテム】初めて見るぜ」
「……神託級の武器でしょうか? 杖みたいですね」
「ほええ、初めてみた。これ凄い魔力を感じる」
ボスの討伐後、サラサラの砂から魔法の杖が現れた。
かなり良い物だろう。
分配しようと声をかけてきてくれたが、俺は、ユフィアと話し合った。
「え、どういうこと!? なんで
討伐のおかげでレベルはかなり上がった。それに初のダンジョンをパーティで攻略できたこともあり、細部の事が詳しく分かった。
敵を倒すだけことだけじゃなく、罠や基本的な知識を教えてもらったのだ。
正当な報酬は、彼らにある。
「私たちも強くなれたので大丈夫です! 本当にありがとうございました!」
「いいのか? そりゃありがてえけけどよ」
「申し訳なさは残りますね」
普通なら喜ぶところだ。だが、彼らは戸惑っていた。
ほんと、いいやつなんだな。
「俺たちの魔法は敵を倒すと強くなるんだ。だから、正当な報酬は既にもらってるみたいなもんだ」
「そうなの? なるほど……そんな魔法が……確かに魔術原理を成長に変えれば可能かも……おもしろいわね。試してみようかしら」
あれ、なんか俺やべえこと言った?
すぐに扉が出現した。ダンジョンは当分活動停止となり、新たなボスが認定されるまではただの箱となるはずだ。
「サンド、ユフィア、いかねえのか?」
「ちょっとだけ休憩してからにする。せっかくの初ダンジョンだしな。パーティありがとう。ダン、エビ、タリン、出会えてよかった」
「こちらこそです」
「またどこかで会うでしょうね。――ありがと」
流石に疲れただろう。早く街に戻りたいはず。
武器も最高のものだ。売るか使うか、色々悩んだりするだろう。
だがそれこそがダンジョンの醍醐味だ。
ほんといい奴らで良かった。
っと、さて
「ユフィア、ちゃんと出てるか?」
「うん! でも、これ全部凄すぎて、選べないよ……!?」
【フリファン】のおもしろいところは、無限の成長要素にある。
ダンジョンボスを倒すと武器やアイテムだけでなく、【特別ボーナス】がもらえるのだ。
それは今まさに、俺の視界に、選択肢が出ていた。
『ダンジョンをクリアしました。特別ボーナスをお選びください』
①
砂を使って特定の場所に瞬間移動できる。移動先には事前に砂を撒いておく必要があるが、砂がある限りどこにでも移動可能。
距離は魔力に依存する。
②
半径20メートル以内に砂が存在、もしくは保持、保有していれば、脅威から自動で攻撃を守ってくれる。
防御力は魔力に依存する。
③
砂を用いて傷を癒す。また、砂を体にまとわせることで、自己治癒能力を大幅に向上させることができる。他者の治癒にも応用可能。
――ハッ、ゲーム通りだ。
普通なら得られないスキルが、ボスを倒すと得ることができる。
どれも一つで世界が変わる。
ユフィアの選択しは俺と違っていたが、一つだけ被っていた。
色々考えて、二人とも同じものを選択する。
「……これ、でいいのかな?」
「ああ、試してみるか――」
俺は、砂でユフィアを攻撃した。
すると、水の壁が現れた。――自動防御だ。
「凄い……凄すぎるよ!?」
「俺にもしてみてくれ」
ユフィアが水をぶつけてくると、砂が自動で俺を守った。
サラサラと滴り落ちると、笑みがこぼれる。
これだけで俺たちは一歩最強に近づいたはずだ。
まだまだこの世界に脅威はある。
そのすべてをぶっ潰して、前に進み、自由を謳歌する。
俺が目指すのは平和で最強の【砂の国】だ。だったら、自身も最強じゃなきゃいけねえよな。
そろそろ次の街に行くのもいいだろう。
新たな【ダンジョン】や【国】が待っている。
「行くぜアスナ、アインクラッドクリアまでまっしらだ!」
「……さっきから誰の話をしているのでしょうか。もしかして、私以外の女性じゃないですよね?」
「え?」
氷のように冷たい目をするユフィア。
あれ、もしかしてヤンデレ……の属性もあるの!?
――――――――――――――――――――――
あとがき。
初めにお伝えしていた通り、こちらの作品はドラノベ中編用として書かせていただきました。
文字数的には後、二万文字ほど追加可能ですが、少しだけ更新が遅れるかもしれません。
ご承知いただけると幸いです。
少しでも面白いor期待感があると思っていただけたら、ぜひ評価と★をお願いします( ;∀;)
評価は下にある【★★★】をタップorクリック!!!
ブックマークもポチッと押せば超簡単にできます。
ランキングに乗りたいです!!
落ちこぼれの元貴族、『砂』魔法を極めたらぶっ壊れ神託級で成長が止まらない 菊池 快晴@書籍化進行中 @Sanadakaisei
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます