第12話 ダンジョンも砂でいちころだぜ
「ねえ、サンドさん、これはどうですか?」
「いいんじゃないか? ユフィアに似合いそうだ」
「これとこれは、どっちがいいですか?」
「ど、どっちで――いや、どっちもいいな」
「えへへ、悩みますね」
俺たちは、お洒落な服屋に来ていた――じゃない。
装備屋に来ていた。
無事に貢献度もゲットしたので、ダンジョンの為に装備を新調しに来たのだ。
俺とユフィアは二人とも魔法使いなので、近距離戦はそこまで得意じゃない。
といっても【砂】はオールラウンダーだが。
それでも【フリファン】は難易度の高いゲームだ。
特にダンジョンは舐めてかかると死ぬ。
フロアによれば【砂】がない場合もある。
今回は、頭を使って瓶に詰めてもっていくつもりだ。むしろ、もっと早くに気づけばよかった。
ポケットにも砂パンパンの砂パンパンにしていく予定だが、剣も持っていく。
だがユフィアの天然がさく裂しているというか、真面目というか、能天気というか、凄い楽しそうなのだ。
店員も今まで見たことのない質問で、困っていた。
「そちらの装備は耐久性がございまして、攻撃を防ぐことが――」
「この装備のリボン付きってありますか?」
「え? あ、はい。ございますが……特にリボンで何か変わるわけではございませんが……」
「いえいえ! リボンがあれば、やる気も溢れます!」
「そ、そうでございますね。確かに、装備といえども従者の気持ちは大事です。ありがとうございます。私はいつのまにか忘れていました。服がもつ、本当の意味を!」
するとよくわからんが、店員さんが涙を流している。
え、なんで感動的な流れに?
「お連れ様はどう思いますか、このリボンッ!?」
「どうですか、サンドさん!」
「え、い、いいんじゃないか? 耐久性もあって」
「そうではなく、このフォルムのことですよ!」
「はい! フォルムです!」
「う、うん! そうだね。確かにいいかも!」
もう百個ぐらいリボンつけてあげてくれ。
それから道具屋さんに立ち寄って、手ごろな瓶を狩った。
砂が入る形状の小瓶、道中で砂を詰めていった。
「ユフィア、それにしてもリボン、ちょっと多すぎないか? 手足、背中なんてハリネズミみたいになってるぞ」
「そうです? でもこっちのほうが耐久があるみたいですよ!」
そう言われると困るな。本当か? いや、でも増えた分だけ硬くはなりそうだ。
門から外に出て、魔物を狩りなら20分ほど歩くと、突然に開けた場所に出た。
木が伐採されていて、随分と歩きやすい。
原作でダンジョンは何度も行ったことはあるが、どれがどこだかは完全に覚えちゃいない。
中に入れば思い出すだろう。
「この先がダンジョンだろう。中に入ってからだが、くれぐれも油断せずにいくぞ」
「はい! 水もちゃぷちゃぷ持ってきたので大丈夫です」
俺は瓶に砂を、ユフィアは瓶に水を入れている。
彼女は俺と違って空中から精製することもできるが、魔力の消費が激しいので、できれば自前のほうがいい。
もう一つ生み出す知見もあったが、今は言わないでおく。
やがてダンジョンが見えてくると、言葉を失った。
ゲームと同じ白い正方形の建物だが、大きさが凄まじい。
入口には兵士が立っていた。
俺たちが許可証を見せて入ろうとすると、後ろから声がする。
「駆け出しかい?」
振り返ると、首からゴールドのタグをぶら下げていた。
男二人と女一人のパーティ。
っと、先輩か。
「そうです。これから登頂しようと思っていて。俺の名前はサンドです。彼女がユフィア」
「ここはかなり強いダンジョンだぜ。シルバー二人じゃ危険かもな。おっと、自己紹介が遅れたな。俺がダン、隣の眼鏡がエビ、ちっこいのがタリンだ」
「よろしく」
「誰がちっこいの!?」
「わかりやすいだろ?」
どうやらかなり仲良いらしく、和気あいあいと話している。
見たところ装備も整っている。原作ベースで考えると、ゴールドとは思えない金の掛け方だ。
それだけ潤っているということか。
「ダンジョンにお詳しいのですか?」
すると、物おじしないユフィアが尋ねた。さすがだ。
「ふふふ、私たちはもう50回も来てるよ」
「ご、50ですか!?」
「偉そうなことはいえないけどね。一度もクリアできてないし。難易度はかなり高いよ。死にかけたことは何度もある。良かったら低層だけ付き合おうか? 今日はお試しでしょ?」
答えてくれたのは、魔法使いのローブを着たタリンだ。
背格好は小さいが、魔力はプラチナ相当だ。
このパーティが強いというのなら、よっぽどだろう。
するとユフィアが、俺に視線を向けた。
いい提案だとはわかっているが、任せてくれるのだろう。
原作ではこんな優しい人たちはいない。血と狂気にまみれた【フリファン】では。
とはいえ不安もある。信用させた後に後ろからズブリ、なんてめずらしくもない。
誘われておいて失礼だが、冒険者の世界では当たり前だ。
だがその時は戦えばいい。
「願ったりかなったりです。ユフィアは?」
「私はもちろん嬉しいです! よろしいのですか?」
「もっちろん! ねえ、ダンいいでしょ? エビも!」
「まったく、お前はいつも突然だよなぁ。とはいえ、後輩を育てるのも先輩の役目だからな」
「はいはい。お嬢様の言う通りにしますよ」
さすがに杞憂かもな。この笑顔を見ていると、いい人なのがすぐわかった。
「なら俺が先頭だ。二人とも、魔力はしっかり漲らせとけよ」
「ビル、えらそー」
「ハハッ、確かに」
彼らを見ていると、冒険者になってよかったなと思った。
危険だけれども、自由がある。
俺も、いつかここまで気を張らずにいきたいものだ。
「ユフィア、瓶の用意はいいか?」
「はい。大丈夫です」
「さて、どんなところか――」
ダンジョンは本当に様々だ。
森のようなところあがあったり、地下通路があったり、無機質なところがあったり。
中に入ると、地面がザラザラしていた。
それでいて、なんか音が聞こえる。
これは――。
「このダンジョンは【砂】と【水】が多いんだ。モンスターもその個体が多いぜ」
「ほんとやになるよね。【砂】の魔物は攻撃食らわないし事が多いし、【水】は魔法も通らないし。あ、きたよ!」
すると前から、砂のゴーレムが現れた。
三人組が魔力を漲らせる。
だが――俺は隣をすたすた歩く。
「お、おい何してんだ!? 油断してたら死ぬぞ!?」
そして手を、ぶんっとふる。
すると砂のゴーレムが、一撃で砂になった。
そのタイミングで、後ろから水のゴーレムが現れた。
ユフィアが、同じように一撃で破壊する。
三人組が、口をあんぐりとあけていた。
「……ふぇ?」
「すいません。俺たち多分、このダンジョンクリアしちゃうかもしれないです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます